君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ

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25.義母は儚げ風未亡人

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 上品なドレスを着こなしたマダムが静かにこちらに向かってくる。
 その顔立ちはラウルに良く似ていた。つまり美女ということだ。
 しかし彼のように自らの美貌を誇る押し出しの強さは無い。
 どこか幸薄そうな雰囲気の女性は私たちの少し前で立ち止まった。

「アンベール前伯爵夫人……」
「マリアンさん、お義母様とは呼んでくれなくなったのね」

 私の呟きを聞いて彼女は悲しそうに微笑んだ。
 こちらが謎の罪悪感に戸惑っていると前伯爵夫人は謝罪を口にした。
 
「話は聞いたわ、息子が本当に申し訳ないことをしました」
「えっ」

 私と前伯爵夫人は親子ほど年が違う。
 そして私が嫁で彼女は姑だ。なのに彼女は心底申し訳無さそうに謝って来た。
 確かに初対面の時から腰の低い女性だったと思う。

 ロビン・アンベール前伯爵夫人。楚々として守ってあげたくなるような雰囲気の女性。
 深窓の姫君がそのまま歳を重ねたような華奢で儚げな美貌は剛健な体つきのフェリクスの母親とはとても思えない。
 ラウルとは顔立ち自体は似ているが受ける印象が違い過ぎる。

 彼女から嫁イビリのようなことは一度もされたことは無い。
 だからといって義理の親娘として仲良くしていた訳でもない。
 前伯爵夫人は伯爵邸の東棟でひっそりと暮らしていた。私が嫁入り前からそうだという。

 夫が亡くなり長男が伯爵家当主となってからずっとそういう暮らしをしているらしい。
 妻の行動を制限することなどほぼ無いフェリクスがマリアンにした数少ない命令。

 義母にフェリクスの許可無く接触しないこと。
 彼からは「母は人付き合いが好きではないから」と説明された。
 私はそれに納得し夫の言いつけを守った。

 良く考えれば嫁イビリされないなんて当たり前だ。
 直接言葉を交わしたこと自体が数回しか無いのだから。
 だから私は前伯爵夫人の人となりを良く知らない。
 けれどこんな風に突然謝罪されるとは思わなかった。

「奥様、貴方が彼女たちに謝罪する必要など……!」
「黙りなさい、アーノルド」

 私以上に慌てふためいた様子の執事の言葉を前伯爵夫人は静かに制止した。
 
「フェリクスは父親に似て傲慢で尊大なところが昔からありました。だからと言って妻となった女性に愛していないと言い放つなんて……本当に御免なさい」

 新たな謝罪と共に彼女の瞳が潤み、涙が溢れた。
 久しぶりに顔を見たと思ったら謝罪され泣かれる。
 私よりも華奢で私よりもずっと長く生きてきた女性が息子の非を詫びて涙を流す姿は痛々しいの一言だった。
 しかし先程から感じる棘のような違和感は何だろう。

 フェリクスは三十路の男性で伯爵家当主だ。
 そんな彼の行動について母親である彼女がここまで謝罪する必要は無いという引っ掛かりだろうか。
 いやそれだけではない気がする。私は首を振った。
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