君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ

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29.外出の理由

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「尻拭い……」

 唖然とした表情でフェリクスが繰り返す。
 それはそうだろう。尻拭いなんて普通令嬢は口に出して言ったりしない。
 しかも私は前世の記憶が戻るまで彼の前でかなりの猫かぶりだったのだ。
 尻なんて言葉自体口にしたことがない。
 だが彼が驚いたのはそれが理由では無かった。

「俺が外出していたのはラウルの息子に面会し、向こうの家に養育費を渡す為だ」
「ああ、あの……月一回の決め事ですね」

 フェリクスに言われて私は思い出した。
 そう言えば彼は毎月ラウルの元配偶者の実家に赴いていた。
 理由は先程彼が言った通りだ。

 前世の記憶を取り戻すまでは甥の面倒を見るフェリクス様お優しいなどと思っていた。
 今考えると色々おかしい。
 養育費を渡すのも子供と面会するのも伯父じゃなく父親の役目では無いだろうか。
 離婚先がラウルの顔なんて見たくないのかもしれないし、正直その気持ちはわかるのだが。

「俺は伯爵家当主として、そしてラウルの兄として当然だと考えていたが……」
「いや当然ではないですよ」

 思わず突っ込んでしまう。

「養育費を払うのも子供に面会するのも普通は父親がすることでは?」
「しかしラウルには財産が無いし、あいつは子供が苦手だと言うんだ」
「だったら仕事をさせて稼がせるべきだし、子供が苦手なら子供を作らなければ良かったのでは」

 これ以上下がる筈無いと思っていたラウルの株が面白いぐらい下降している。
 流石に口には出さないが生まれてこなければ良かったのにレベルだ。
 貴族なのだから跡継ぎを作る義務とかはあるだろう。
 でも月一の面会さえ兄に押し付けるぐら子供に興味無いなら子供なんて作るな。

 ラウルは流石に兄に依存し過ぎだ。
 伯爵家が生活に余裕があってろくでなしなラウルを外に出さず飼い殺すつもりなら反対はしないけれど。
 どうせ私は離婚するし。 

 しかし気になるのは前伯爵夫人の発言だった。
 彼女は目の前の彼を傲慢で尊大だと言っていたけれど、私は全くそう思わない。
 毎日愛していないと告げる彼を冷酷な人でなしだと憤りはしたけど。

「マリアン嬢、一つ聞きたいことがある」
「はっ、はい、何でしょう?」

 考え事をしている時に話しかけられ返事をする。
 フェリクスはいつも通りに整った仏頂面をしていた。彼は表情が殆ど変わらない。
 だから私は彼が何を考えているかいつもわからなかった。

「……もしかしてフェーヴル公爵家では、いや他の家ではここまで弟の面倒は見ないものだろうか?」

 末っ子で甘やかされている自覚のある私は大いに返答に悩んだ。
 しかも今現在、長姉に尻拭いをしてもらっている最中なのだ。
 
 もしかして私もアルマ姉さんからしたらラウルと変わらない存在かもしれない。
 自分で考えて若干落ち込んだ。
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