君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ

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55.駄目夫へ手紙を書きました

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 一晩寝てからフェリクスに手紙を書いた。
 体調不良で伏せっていた為返事が遅れたこととそれに関する謝罪。
 そして会って二人で話をしたいという提案への承諾と、その為の条件。
 了承した場合、対面するのは四日後以降を希望した。
 その頃には両親が次兄と一緒に戻ってくるからだ。

 ビジネスメールを書くような気持ちで手紙を書き終え万年筆を置く。
 便箋のインクが乾くまでお茶でも飲もうかとシェリアを呼ぼうとして、少し考えて止めた。
 彼女には伯爵邸から持って来た大量の日記帳を確認して貰う仕事を新たに任せている。
 別に呼んだところで嫌な顔をしたりはしないだろうけど、今は良いかと思った。

「別に、そこまで喉も乾いていないし」 

 独り言を言いながら私はやることも無くて自室をうろつく。
 公爵令嬢という立場に相応しい豪華な部屋だ。
 広過ぎて間仕切りをした上でキッチンを併設したくなるレベルである。

 ドレスなどを収納したワードローブこの部屋以外に別室も丸々宛がわれている。
 もう少し若くて心に余裕があれば着せ替えごっことかして遊んだかもしれない。

 今私が成り代わっているマリアンは外見だけなら完璧に近い美少女だと思う。
 もう十九歳なのでこの世界では一人前の女性扱いなのだが、ドレスやメイクのせいか少女っぽさが抜けきれない。
 使う色からしてアルマ姉さんの装いと比べると明確に幼いとわかる。
 公爵家の中でのマリアンは年の離れた姉兄に可愛がられる末っ子なのだ。

 だからこそ自分より何歳も年下とはいえ王太子令息に年増扱いされたことに衝撃を受け、強く嫌悪したのだろう。
 十歳以上離れたフェリクスを選んだのはその反動もあったのかもしれない。あとは長姉の影響か。

 私は壁に沿って設置された大きな本棚から小説を手に取った。
 そこまで高尚なものではなく、挿絵が多く娯楽色が強めのものだ。
 内容は架空の国の王弟が架空の国の公爵令嬢と恋に落ちて様々な困難を乗り越え結婚するというもの。
 ヒロインである令嬢は言われれば納得する程度にはアルマ姉さんの面影があった。

 初版発行日が彼女が結婚してから半年後の日付なのも疑惑を深めていく。
 ただこの本の内容が事実か長姉に確認したら否定されるのはわかりきっていた。
 認めたら不味い描写がそこそこあるからだ。

 架空の国の王太子が架空の国の公爵令嬢に恋をしていた部分とか、普通に不味い。
 その恋心を隠して王の決めた相手と結婚しましたとか、作者が存命なのか心配になる。
 万が一これが事実ならアルマ姉さんの妹であるマリアンと自分の息子を婚約させようとした王太子はかなり不気味だなと思った。
 マリアンの記憶を参照すれば、そういうことをするかしないかといえばしそうな人物ではある。

 王妃が隣に居るのに、親に跡継ぎを急かされ早婚だったことをへらへらと愚痴るような人だ。
 簡単に言うと身分が超高くて顔がそこそこ良いノンデリカシーソフトセクハラおじさんである。

 絶対義理の父にはしたくない。フェリクスと親しいらしいが、新婚生活とか普通にずけずけ訊いていそうだ。
 流石に毎日妻には愛していないと伝えてますと馬鹿正直に答えてはいないだろうが。

 そんなことを考えている内に便箋のインクが乾いたので封をした。
 そして公爵家の執事の一人を呼び伯爵家に届けるよう頼む。

 一仕事終えた気分で、その後は自分でも日記帳の破れを確認をしたり庭を散歩したりして過ごした。 
 だが次の日の朝、そのゆったりした気分が台無しになる手紙がアンベール伯爵邸から届けられる。

「……は?」

 それは可能なら本日、会って話をしたいというフェリクスからの直筆だった。しばくぞ。 

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