君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ

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64.キャベツぶつけてもいいですか?

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 少しの沈黙の後、私の質問へ回答が訪れる。
 それはこちらが予想していたものと少しだけ違った。

「……結婚を決めた時は、君と真面目に夫婦をやるつもりだった」
「はあ……」

 真剣に面持ちのフェリクスの言葉に私は気の抜けた返事をしてしまう。
 いや、言いたいことはわかるのだ。
 真面目に夫婦をやるという表現がちょっと面白かっただけで。

「ではいつからフェリクス様は私に対し不真面目になられたのですか?」

 揚げ足を取るような私の言葉に彼は怒りもせず気まずそうな顔で答えた。

「結婚式が終わって、君が伯爵邸に来て、君と夫婦になるのが怖くなった」
「怖くなった……それはどうしてですか?」
「君と俺は年齢がとても離れている」

 私は内心呆れた。別にマリアンは年齢を隠していた訳では無い。
 結婚する前から年齢差があることはわかっていた筈だ。

「つまりフェリクス様は年下はお嫌だったと?」
「いや、そうでは無くて……覚悟が出来なかったんだ」
「覚悟?」
「その、君を、傷つける覚悟がだ……」

 彼の言っている言葉の意味が理解できなくて首を傾げる。
 フェリクスはこちらを見ず膝の上で握っている自らの拳を見ていた。

「傷つける覚悟とは、私に愛していないと伝える覚悟ですか?」
「違う、そうでは無くて……君を、その、抱く覚悟だ」

 ぎゅっと目を瞑って言うフェリクスを前に私は一瞬ポカンとしてしまった。
 つまり彼はマリアンを抱く行為を傷つけると認識しているということか。 
 確かに傷物にするという表現はあるが頭が痛くなった。
  
「つまり私と性行為をする心の準備が出来てなかったと?」

 馬鹿馬鹿しくなってストレートに口にする。
 フェリクスはぎょっとしたように目を見開くとみるみる真っ赤になった。
 キャベツ畑から子供拾って来そうな初心さだ。
 いや子供の作り方は知っているからこその葛藤か、どちらにしろ馬鹿馬鹿しい。

「もしかしてフェリクス様は自分の意気地の無さを誤魔化す為に私に対し愛するつもりは無いと毎晩言い放っていたってことですか?」
「い、いや違う……でも、そうかもしれない」
「どっちですか!」

 煮え切らない態度に思わず怒鳴ってしまう。でも仕方がないと思う。
 もし私がマリアン本人だったらビンタぐらいはしてる。本気の奴を。
 
「あのですね、フェリクス様に一目惚れして結婚したのに愛してないって言われ続けたら下手したら自殺しますよ!」
「じ、自殺……いや待ってくれマリアン嬢」
「待ちませんよ、別に初夜なんて結婚式当日に絶対しなければいけない訳じゃないんですよ、それに……」
「いや、ちょっと待ってくれ、そうではなくて……君は本当に俺を愛していたのか?」
「……は?」

 この期に及んで何を言い出すのだこの男は。

「君はラウルに五年前から片思いをしているのでヴぁっ」
「あっ」

 気が付いたら私の平手がフェリクスの頬にダイレクトヒットしていた。
 きっとマリアンが一時的に現世に戻って来たのだと思う。多分、いや恐らくは。
 いやだってラウルは無いわ、ラウルは。

「御免なさい、待たせたわね……あっ」

 扉を開いてジョアンヌ義姉さんが入って来たが、私たちを見て静かに扉を閉めた。
 この家なら完全犯罪を実行できるかもしれない。私に悪魔が囁いた気がした。

 
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