誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ

文字の大きさ
97 / 106
第二部

10.

しおりを挟む
 マーサは私に隠し事をしている。
 そう感じたのは時々伏せられる視線や指先の忙しない動きからだった。
 前世の経験からしてこれは言いたいことを隠している場合が高い。 
 なので彼女が話しやすいようにこちらも隙を作って見せたけれどマーサは結局私に新しい情報を伝えてはこなかった。
 だから何を隠しているのかはわからなかった。

「……私の気のせいかもしれないしね」

 一人になった部屋で呟く。
 用事の時間が迫っていたり、トイレを我慢していたりも考えられる。
 私は考えを別の事に切り替えるようにした。聞いてない内容をあれこれ考えても暇潰しにしかならない。
 そして私は今暇では無いのだ。

 一応ロンの父親であるケビンにロンの状態について報告し確認しておこう。
 マーベラ夫人によってロンは自分が将来平民になる事を想定してしまっている。
 恐らくそうはならないだろうと思うが父親があのケビンだ。万が一は考えておく必要がある。

 それに、当主が平民にするつもり無いと断言してたと告げるのが一番安心出来ると思う。
 普通はそうならないとか常識的に有り得ないと説明しても、決定権がケビンにある為どうしても弱い部分が出るのだ。
 なので手紙を書いて手紙でロンを平民にしないと言質を取る。
 手紙は今日中に書く。

 それと画材屋への買い物。こちらは事前確認が色々必要だ。
 店舗での購入という事は私たちが店内に入るという事になる。
 公爵夫人として外出用ドレス姿の私と子供たちだ。
 買い物についてはレオも誘わないと拗ねる可能性があるので声をかけるつもりだ。そして多分文句を言いつつ来る。

 当然私と子供二人だけで外出できる筈が無い。
 馬車と子供たち付きの侍女と護衛も兼ねた男手が最低限必要になると思う。
 図書室で読んだ貴族小説の知識でしか無いけれど。

(……だってエリカは貴族令嬢として外出したのは結婚式の時ぐらいしか無いもの)

 その場合馬車を停める場所が近くにあり、更にドレスで歩き回れ貴族とその使用人数人が居ても窮屈にならない広さの店舗を選ぶ必要がある。
 でもそんな大きな店は使用人時代お使いに出た先で見たことが無い。

(やっぱり貴族が店頭購入するのって難易度高いわね)

 帽子は小さく余り幅を取らないドレスを選んで、使用人は一人ぐらいにすれば行けるだろうか。

「……つまり買い物用の服を買わなきゃいけないって事だわ」

 レオにリクエストされた移動式遊園地は広大な敷地を借りている上に貴族や富裕層のみの日を設けたりしているので、そういった意味では楽だった。
 質素に見えるロンの願いの方がトータルではお金がかかりそうなのも皮肉だ。決して本人に告げる事はしないけれど。

 そんな事を考えていると扉が外から叩かれた。

「奥様、カーヴェルです」
「開けていいわよ」

 許可を与えると静かに扉が開いた。
 名乗り通り執事服を身に着けたカーヴェルが立っている。
 私は椅子から移動して彼へと近寄った。

「何かあったの?」

 眼鏡の奥の瞳に少しだけ困惑を感じ取る。
 そもそも用が無ければ彼は私の元を訪ねたりはしない。

「実は、公爵家の周囲をメイド服姿の娘が徘徊していると報告を受けまして」
「……徘徊メイド?」

 私は眉を顰める。それは変質者の類では無いだろうか。

「それで大分長い間うろついていた為門番が声を掛けたら逃げ出したのですが、又戻って来たと相談されまして」
「追い払っても戻って来るという事は公爵家に用が有るのかしら。だったら門番に言えばいいのに」
「顔を青くして逃げるだけなので他の対処も怒鳴って追い払うぐらいしか出来ないと門番は困っておりました」
「誰かに意地悪でやらされているのかもしれないけれど、門番に取って迷惑な話ね」
「私自身でどういう人物か確認しようと思い、先程外に出た所本人から声掛けをされまして」

 門番に声掛けされたら逃げ出すのにカーヴェルが出て行ったら自分から近づいてくるのか。
 私は名も顔も知らないメイドに少しだけ呆れた。
 カーヴェルは穏やかな雰囲気を纏った優し気な男性だから安心したのかもしれないが、門番だって別に怒鳴ってはいないだろうに。
 多少厳しい対応をした可能性はあるが不審者でしか無いのだから仕方がない。

「はい、それで彼女はオルソン伯爵家のメイドだと名乗りました」
「……オルソンって、私の実家ね?」
「しかし具体的な用件については口を噤み、奥様と話をさせて欲しいと繰り返すばかりで」
「なので私に会って欲しいって事かしら?」
「いいえ、馬車で伯爵家に送る許可を。徒歩ですと人目に付きますので」
「ああそういうこと」

 追い払っても暫くすれば戻って来るなら強制的に送り返せばいい。
 カーヴェルはそう考えているのだ。
 私はすぐ許可しようと思ったが、少し考えて首を振った。

「それも良いけれど、その前に一度会ってみるわ」
「宜しいのですか」
「脅されている可能性もあるし、本当にオルソン伯爵家のメイドなのか確認したいから」

 何より不審者丸出しで公爵邸の近くをうろついていた理由を知りたい。
 私がそう言うと面談はなるべく距離を離して行ってくださいとカーヴェルに頼まれた。

しおりを挟む
感想 190

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...