誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ

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第二部

14.

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 オルソン伯爵家にメイドとして採用されるのは難しい事ではない。
 何故なら何年も前から万年人手不足状態だからだ。

 まず伯爵本人がメイドに手を付けて子を産ませている。
 その上で愛人として匿う事もせず妻子にそのメイドとその子供を好き放題虐めさせた。
 結果メイドは死亡し、伯爵との間の娘はメイドの中でも底辺の扱いを受けている。
 マーベラ夫人でさえ私がメイドの娘と知っていたのだから、他の貴族にも知れ渡っているのだろう。

 実際伯爵夫人が夫である伯爵をその件で責めたてるのは珍しい事では無かった。
 悪評のせいで自分は恥をかきローズの縁談も難しくなると。
 
(悪評の原因はそれだけでは無いでしょうに)

 メイドに手を付ける伯爵とそのメイドを死ぬまで虐める妻と娘。
 こんな家、少しでも娘が大事なら使用人として差し出す親はいないだろう。

 なので私が家を出る直前には下働き以外のメイドも平民が多く雇われていた。
 しかし平民の少女も結構な頻度で辞めていく。

 伯爵夫人とその娘のローズはどちらも気性が難しい。
 仕事に慣れたメイドが配置換えされてこの二人に関わるようになると半数以上が耐えられず辞めて行った。

(性格が苛烈な上に二人とも平民を人間扱いしないものね)

 でもオルソン伯爵家で働きたいなんて貴族の娘はいないのだ。
 その内平民からも雇いにくくなるだろう。
 執事が使用人休憩室で愚痴を言っているのを聞いたことがある。

 私はオルソン伯爵家がどこに求人を出しているか知っている。
 そして条件を満たせば経歴など大して調べもせずに雇う事も。

 多分リタや彼女に指示をしたローズは他の貴族も同じだと思っている。
 だからこそアベニウス公爵家に軽い気持ちで潜入しようとしたのだ。

 しかし流石に公爵家は人を雇うにもそこまでシンプルではないらしい。



「……孤児院枠?」
「はい、奥様」

 アイリに告げられた言葉を鸚鵡返しにする。
 先程私は彼女に伯爵家に潜入させるメイドの人選を頼んだ。

 そこで挙げられたメイド達の名前に私は聞き覚えがなかった。
 なので確認するとまだアベニウス公爵家に雇われる前だと言う。

「アベニウス公爵家が多額の寄付をしている孤児院から優秀な者が使用人として雇われるのです」 
「それって……もしかして貴方も?」
「はい、クレイグもです」

 成程、だから彼女はあそこまで気が付くのかと納得する。
 そしてクレイグも孤児院出身なのか。そこまで考えてあることに気付く。

 アイリとクレイグはホルガーが見張りに起用していた。
 そして先日屋敷の隠し通路についてアイリに確認してもらったがその件も全く問題視されていないようだった。

(もしかして、公爵家の影みたいなものも兼ねているのかしら……?)

 あのケビンが慈善の心で寄付したり、孤児を雇用しているとも思えない。
 そして私が伯爵家のスパイとして求めた人材に孤児院出身を推薦するという事はその可能性も高い。

「でも今はまだ公爵家勤めでは無いのよね。今は何をしているの?」
「分家でメイドとしての経験を積んでおります」

 そう言って告げられた貴族家はレインの家の物だった。
 原作でカーヴェルの後に雇われた執事もレインの家の使用人だった事を思い出す。

「つまりアベニウス公爵家が必要と判断したら徴収するって感じかしら?」
「はい、孤児院枠は欠員が出たらすぐ補充しなければいけないので」

 アイリの返答に、その欠員は結婚とか転職では無いのだろうなとうっすら思う。
 オルソン伯爵家もドロドロして嫌だったがアベニウス公爵家の黒さは質が違う。

「わかったわ。最終職歴がアベニウス公爵家じゃないのはある意味都合が良いし」

 人を騙す際の嘘は少なければ少ない程良い。それが私の持論だ。

「手配はカーヴェルに……カーヴェルも把握しているのかしらね」

 もし知らなければホルガーに確認すればいい。
 ホルガーをケビンに連行させなくて良かったと思う。

「相手に顔が知られていなければ私が志願したかったのですが」

 どこか残念そうにアイリが言う。
 確かに彼女はリタに顔を見られている。リタがそれを覚えていられるとは思えないが。

「確かに貴方に任せた方が安心できるけれど、アイリが推薦するなら優秀な娘なのでしょう?」
「はい、気配が薄く目立たないように行動することに長けた娘です」
「それは良かったわ、オルソン伯爵家では目立たない事がとても重要だもの」

 少しでもローズや伯爵夫人の目に留まり気に障ったなら理不尽な目に遭ってしまう。
 新人なら幸か不幸か二人に直接関わる事は無い。
 そして二人と直接顔を合わせなくても伯爵家で勤めていれば動向など筒抜けなのだ。

「一ヶ月程度で良いわ。あの屋敷で目立たず真面目に働いてくれるだけで大丈夫よ」
「諜報などはしなくてよろしいのですか?」

 不思議そうな顔でアイリが言う。
 私は苦笑いを浮かべた。

「必要無いのよ。古参の使用人たちが使用人用の食堂や休憩室で常に愚痴っているから」

 ただそれを気配を隠して聞いていればいいだけなのだ。昔の私のように。
 それだけで伯爵夫人とローズの動向は掴める。
 二人のお気に入りの侍女さえ忠誠心などろくに無い。毎日不満だらけだった。

「……私が何もしなくても勝手に傾きそうね」

 後継が異母姉のローズの時点で没落は約束されているようなものだ。 
 婿が余程優秀な男で無ければ。

(でもそんな優秀な男がローズの婿になんてなるのかしら)

 そもそも優秀であろうとそうでなかろうとローズは婿をそろそろ迎えないと不味いだろう。
 だから伯爵夫人は焦って娘の婿探しをしているのだ。
 しかし何故彼女が必死になっているのだろう。

 やはりオルソン伯爵の考えている事がわからなかった。

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