3 / 74
二話 婚約破棄いたしましょう
しおりを挟む
心が壊れる寸前だったエミアから表に出る役割を交代する。
彼女が愛していた男が目の前にいるが私『エミヤ』は何の魅力も感じなかった。
「寧ろ殿下は私にとって正直有害でしかありませんね」
そう考えた事を素直に口に出した。怒るかと思ったが目を見開いて口をぽかりと開けている。
アリオスの小僧、いやアリオス殿下は随分と温室育ちらしい。
誰も自分を傷つけない場所で婚約者虐めばかりをしていたせいで攻められるのに弱いのだ。つまり精神的ザコだ。
私は何の返答もしない男を観察する。顔は良い、髪質も肌もいい、体型もいい、服装もいい。
大事にお金をかけて育てられた苦労知らずのお坊ちゃんだ。つまり私にとっては何一つ魅力のない相手。
確かに美形だが、こちらを得意げな顔で侮辱してくるようなクソガキだ。
そんな馬鹿に何故かベタ惚れした挙句虐め抜かれた私の半身は変わった自殺をした。
公爵令嬢としての自分の人格を消す代わりに、空いたスペースに私が住んでくれというのである。
私は過去の人間だ、正確に言えば何故か持ち込まれた前世の記憶と人格だ。
生前の私は二百年前に竜を倒したら救国の聖女とか言われて、その後独身のまま仕事や戦いばっかりしていたら死んだ。
そのまま時期が来たと天上の神に言われて適当な貴族の家に転生したのだ。
その時に何故か前世の記憶がついてきたので新しい人生に邪魔だと思い自分の人格の一部ごと封じた。それが私だ。
過去の聖女エミヤとしての記憶を持つ私は「いらない」存在なのだ。貴族令嬢エミアの中で静かに眠り続けていればいい。
それなのに内気で気弱でお淑やかな公爵令嬢エミアが私の封印を解くなんてまさか思わなかった。
彼女は今記憶の海の底で泣きながら人魚となり揺蕩っている。人魚なのは現世へ帰りたくないという意思の表れだろう。
そして話は戻るがエミアをそのような状態に追い込んだのは目の前の馬鹿王子だ。
私は再度口を開いた。
「いい加減、婚約破棄しましょう」
「なっ」
もううんざりです。そう私は溜息を吐いた。ここは宮廷内の内庭で周囲に人気はないが誰に見られているかもわからない。
だが別に構わない。私はエミヤではあるがエミアではないのだから。
「殿下は政略結婚だ政略結婚だと繰り返すのがお好きですけとれど、全く意味は理解していらっしゃらない
政略結婚だったら未来の妻を侮辱して辱めることが許されると思ってらっしゃる
オークや蛮族が女を攫った時の価値観と同じでぞっといたしますわ」
きっと結婚した後も女奴隷のような扱いを受けるのでしょうね。そう冷たい瞳で彼を見つめながら私は言う。
アリオス殿下の表情には怒りと困惑と恐怖かがありありと出ていた。それも当然かもしれない。
先程まで自分を慕い愛することだけをしていた女から一方的に婚約破棄を突き付けられているのだから。
「私は結婚するなら蛮族ではなく心ある人間の殿方としたいと思います。そのような訳ですので婚約は解消致しましょう殿下」
貴男だって私との婚約を酷く不本意がっていたでしょう。今から王にお願いしてきましょう。
そう駆けだそうとする私の手を誰かが掴んだ。アリオス殿下だ。
「い、いやだ。婚約破棄なんて勝手に決めるな!」
いつもの厭味ったらしい半笑いが嘘のような必死さだった。親に怒られるのが怖いのだなと私は思った。
エミアとのやりとりを聞いていただけでわかる。この男の内面は傲慢な子供のままなのだと。
子供を虐める趣味はないが、子供を教育する権利はある。
「婚約解消されたくないなら、殿下。どうか私に貴男への愛を思い出させてください」
今更遅いかもしれないけれど。そう笑う私にアリオス殿下は「お前は誰だ」と小さな声で呟いた。
彼女が愛していた男が目の前にいるが私『エミヤ』は何の魅力も感じなかった。
「寧ろ殿下は私にとって正直有害でしかありませんね」
そう考えた事を素直に口に出した。怒るかと思ったが目を見開いて口をぽかりと開けている。
アリオスの小僧、いやアリオス殿下は随分と温室育ちらしい。
誰も自分を傷つけない場所で婚約者虐めばかりをしていたせいで攻められるのに弱いのだ。つまり精神的ザコだ。
私は何の返答もしない男を観察する。顔は良い、髪質も肌もいい、体型もいい、服装もいい。
大事にお金をかけて育てられた苦労知らずのお坊ちゃんだ。つまり私にとっては何一つ魅力のない相手。
確かに美形だが、こちらを得意げな顔で侮辱してくるようなクソガキだ。
そんな馬鹿に何故かベタ惚れした挙句虐め抜かれた私の半身は変わった自殺をした。
公爵令嬢としての自分の人格を消す代わりに、空いたスペースに私が住んでくれというのである。
私は過去の人間だ、正確に言えば何故か持ち込まれた前世の記憶と人格だ。
生前の私は二百年前に竜を倒したら救国の聖女とか言われて、その後独身のまま仕事や戦いばっかりしていたら死んだ。
そのまま時期が来たと天上の神に言われて適当な貴族の家に転生したのだ。
その時に何故か前世の記憶がついてきたので新しい人生に邪魔だと思い自分の人格の一部ごと封じた。それが私だ。
過去の聖女エミヤとしての記憶を持つ私は「いらない」存在なのだ。貴族令嬢エミアの中で静かに眠り続けていればいい。
それなのに内気で気弱でお淑やかな公爵令嬢エミアが私の封印を解くなんてまさか思わなかった。
彼女は今記憶の海の底で泣きながら人魚となり揺蕩っている。人魚なのは現世へ帰りたくないという意思の表れだろう。
そして話は戻るがエミアをそのような状態に追い込んだのは目の前の馬鹿王子だ。
私は再度口を開いた。
「いい加減、婚約破棄しましょう」
「なっ」
もううんざりです。そう私は溜息を吐いた。ここは宮廷内の内庭で周囲に人気はないが誰に見られているかもわからない。
だが別に構わない。私はエミヤではあるがエミアではないのだから。
「殿下は政略結婚だ政略結婚だと繰り返すのがお好きですけとれど、全く意味は理解していらっしゃらない
政略結婚だったら未来の妻を侮辱して辱めることが許されると思ってらっしゃる
オークや蛮族が女を攫った時の価値観と同じでぞっといたしますわ」
きっと結婚した後も女奴隷のような扱いを受けるのでしょうね。そう冷たい瞳で彼を見つめながら私は言う。
アリオス殿下の表情には怒りと困惑と恐怖かがありありと出ていた。それも当然かもしれない。
先程まで自分を慕い愛することだけをしていた女から一方的に婚約破棄を突き付けられているのだから。
「私は結婚するなら蛮族ではなく心ある人間の殿方としたいと思います。そのような訳ですので婚約は解消致しましょう殿下」
貴男だって私との婚約を酷く不本意がっていたでしょう。今から王にお願いしてきましょう。
そう駆けだそうとする私の手を誰かが掴んだ。アリオス殿下だ。
「い、いやだ。婚約破棄なんて勝手に決めるな!」
いつもの厭味ったらしい半笑いが嘘のような必死さだった。親に怒られるのが怖いのだなと私は思った。
エミアとのやりとりを聞いていただけでわかる。この男の内面は傲慢な子供のままなのだと。
子供を虐める趣味はないが、子供を教育する権利はある。
「婚約解消されたくないなら、殿下。どうか私に貴男への愛を思い出させてください」
今更遅いかもしれないけれど。そう笑う私にアリオス殿下は「お前は誰だ」と小さな声で呟いた。
94
あなたにおすすめの小説
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~
キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。
パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。
最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。
さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。
その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。
王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。
こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。
※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。
※カクヨムにも掲載中です。
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる