前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました

二十九話 遭遇と危機

　男子生徒三人が去った後、私は考えた。確かに最近の私とアルの距離は近すぎたのかもしれない。

　別に休み時間に互いの教室に行ったり、部室外であだ名で呼びあったりとかはしていない。

　けれど元々エミアはアリオス殿下一筋の内気で女友達もいない公爵令嬢。

　そしてアルもアリオス殿下の取り巻きから嫌がらせを受け教室内で孤立している。

　この二人が同じ部活だというだけで妙に感じる人間は出てくるのだろう。

　そう納得すると同時に、そこまで自分たちを見ている存在がいるのかという疑問もわく。

　アルに連れていかれた二人はアリオス殿下の取り巻きだ。彼らが私たちのことを把握しているというのなら。


「……おい」


　肩に手が置かれる。置くというより握るという強さだ。痛い。


「お離しください、殿下。私の肩が壊れてしまいます」


　半分振りむいた姿勢で相手に言う。完全に油断していた。子分がいるなら親分がいてもおかしくない。

　離してください。もう一度私はアリオス殿下に頼んだ。しかし返事の代わりに益々肩に力が加えられた。

　痛いというのは悔しくてアリオス殿下を睨みつける。軽蔑した表情を浮かべるのは得意だった。


「フン、お前がそんな目で俺を見るとはな。立場を勘違いしてるんじゃないのか？」

「そちらこそ。私はもう貴方の婚約者ではありませんよ。馴れ馴れしく触らないで」


　私の言葉に殿下は目を見開く。次の瞬間には魔物のような恐ろしい表情を彼は浮かべた。



「……っ、なら、さっさとあの世にいって兄貴と結婚してくるんだな！！」


　肩にかかっていた手が移動した先は私の首だった。まさか、殺すつもりなのか。

　そんな馬鹿な真似をという思いはアリオス殿下の行動で霧散していく。伸ばされた腕をから私は逃げ出した。

　しかしもう一本の手が私の体を押さえつける。男女の体格差だ。華奢なエミアの首など片手でも折られてしまうかもしれない。

　殺される恐怖を私は感じた。それは実に二百年ぶりのことだった。