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四十五話 二百年前の記憶
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「五歳の時に父に連れられて王宮に行った時に会ったんだ」
私ってその時点で既に淑女で神童だったから。
冗談なのか単純に事実を述べたに過ぎないのかわからない調子でロゼが言う。
姉の言葉を冷めた様子で聞きながらアルは補足するように口を開いた。
「セリス殿下の婚約者候補としてね」
「婚約者?!」
驚愕の新事実である。ロゼが五歳の時セリス殿下は八歳。
エミアとアリオス殿下は七歳同士で婚約した。
三歳の年の差で女性側が僅か五歳。
だがロゼが自分で言った通りならその年齢にしてはかなり大人びていただろう。
ロゼとセリス殿下の関係に驚いてしまったがそこまで異常な事ではないかもしれない。
「初代エーベル辺境伯は選定侯の一人だったからね。今でも身分としては公爵と等しい」
「選定侯?」
ロゼの台詞の中に初めて聞く単語を発見し私はオウム返しに尋ねた。
アルが少し迷うような素振りをしてから説明してくれる。
「君が……聖女エミヤが喪われた後、色々あって王権が一時的に弱体したんだ」
王家の失策により国は荒れ、一時は隣国に征服されかけたらしい。
その危機をなんとか回避した後、当時の君主は複数の有力貴族によって退位させられた。
そして次の王にはその貴族たちが選び支持した王族が据えられたのだとアルは語る。
成程、だから選定侯と呼ばれるわけだ。
残念ながら貴族が多数決で王を選んだのはその一度きりだけらしい。今すぐ復活しないだろうか。
私がそう唇を尖らせるとアルは苦笑いを浮かべた。
「王の度重なる愚策の結果国に危機が迫ったのに、当の本人が国も家族も捨てて逃げようとしたからね」
強制退位後は死ぬまで幽閉されたらしいけれど、処刑されてもおかしくはなかっただろうね。
眼鏡越しに見えるアルの目が騎士団長時代に戻っているような気がした。
成程。それは非常事態過ぎる。王家に対する信用もガタ落ちだろう。
だからこそ逆に有力貴族からの推薦を得て王位に就くという手順が必要になったのかもしれない。
私も当時の王を思い出す。しかし予想よりも記憶に残っていなかった。
エミアから体の支配権を譲られた当初は二百年前、自分の死後のことを調べようとはりきっていた。
でも実際確認しようとすると何となく心が挫けて後回しにしてしまった。
自分が、エミヤが死んだことより、関わった人々の死を見たくないという気持ちが強かった。
孤児院の子供たち、気さくな兵士たち、教会の優しい修道女たち。
当たり前だが全員死んでいるのだ。
もしかしたら、このような気持ちになるのが嫌で自分は前世の記憶のない状態で生きようとしたのかもしれない
「……昔を思い出せてしまったかな」
ごめん、そうアルが申し訳なさそうな顔で謝る。私は首を振って否定した。
「大丈夫。今はアルがいてくれるもの」
だから私は、エミヤは孤独じゃない。
そう告げると彼は表情を緩めて「僕もだよ」と同意してくれた。
私ってその時点で既に淑女で神童だったから。
冗談なのか単純に事実を述べたに過ぎないのかわからない調子でロゼが言う。
姉の言葉を冷めた様子で聞きながらアルは補足するように口を開いた。
「セリス殿下の婚約者候補としてね」
「婚約者?!」
驚愕の新事実である。ロゼが五歳の時セリス殿下は八歳。
エミアとアリオス殿下は七歳同士で婚約した。
三歳の年の差で女性側が僅か五歳。
だがロゼが自分で言った通りならその年齢にしてはかなり大人びていただろう。
ロゼとセリス殿下の関係に驚いてしまったがそこまで異常な事ではないかもしれない。
「初代エーベル辺境伯は選定侯の一人だったからね。今でも身分としては公爵と等しい」
「選定侯?」
ロゼの台詞の中に初めて聞く単語を発見し私はオウム返しに尋ねた。
アルが少し迷うような素振りをしてから説明してくれる。
「君が……聖女エミヤが喪われた後、色々あって王権が一時的に弱体したんだ」
王家の失策により国は荒れ、一時は隣国に征服されかけたらしい。
その危機をなんとか回避した後、当時の君主は複数の有力貴族によって退位させられた。
そして次の王にはその貴族たちが選び支持した王族が据えられたのだとアルは語る。
成程、だから選定侯と呼ばれるわけだ。
残念ながら貴族が多数決で王を選んだのはその一度きりだけらしい。今すぐ復活しないだろうか。
私がそう唇を尖らせるとアルは苦笑いを浮かべた。
「王の度重なる愚策の結果国に危機が迫ったのに、当の本人が国も家族も捨てて逃げようとしたからね」
強制退位後は死ぬまで幽閉されたらしいけれど、処刑されてもおかしくはなかっただろうね。
眼鏡越しに見えるアルの目が騎士団長時代に戻っているような気がした。
成程。それは非常事態過ぎる。王家に対する信用もガタ落ちだろう。
だからこそ逆に有力貴族からの推薦を得て王位に就くという手順が必要になったのかもしれない。
私も当時の王を思い出す。しかし予想よりも記憶に残っていなかった。
エミアから体の支配権を譲られた当初は二百年前、自分の死後のことを調べようとはりきっていた。
でも実際確認しようとすると何となく心が挫けて後回しにしてしまった。
自分が、エミヤが死んだことより、関わった人々の死を見たくないという気持ちが強かった。
孤児院の子供たち、気さくな兵士たち、教会の優しい修道女たち。
当たり前だが全員死んでいるのだ。
もしかしたら、このような気持ちになるのが嫌で自分は前世の記憶のない状態で生きようとしたのかもしれない
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ごめん、そうアルが申し訳なさそうな顔で謝る。私は首を振って否定した。
「大丈夫。今はアルがいてくれるもの」
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そう告げると彼は表情を緩めて「僕もだよ」と同意してくれた。
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