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15話 夫のいない庭【最終話】
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「そろそろ屋敷に入りなさい、ライナス」
「アリーネ母様」
庭で犬と戯れていたライナスにそう声をかける。
彼は私の存在に気づくと表情を明るくして駆け寄ってきた。
私とレイモンドの息子は今年六歳になる。父親に似て人懐こく愛される才能を持った少年になった。
外見も成長する程彼に似てきて、たまに胸が苦しくなる。けれど憎くは思わない。
生まれた時から人を従える地位にあり、祖父から溺愛されているこの子が、それ故に道を間違えないように歩ませるのが私の役目だ。
ライナスは二匹の犬を引き連れて私に抱き着く。そして楽し気に口を開いた。
「さっき、あっちの方で兎を見つけて、ベンとオリバーで狩りごっこをしていたんです!」
「そう……ライナスはごっこ遊びが好きなの?」
「いいえ?本当はごっこではなく本物の狩りがしたいです」
「勉強と運動をちゃんとしたら背が伸びて本当の狩りができるようになりますよ」
けれど裏の森には近づいてはいけませんよ。私がそう言うと息子は少し困った顔をして頷いた。
彼は薄々気づいているのだ。自分が生まれる前に何があったかを。
息子に勘づかせた人間は許せない。だが仕方ない部分もある。余りにもセンセーショナルな事件だったから。
隠し切れないのは。屋敷内だけでも口にしたくなるのは。
「僕は、絶対母様の言いつけは守ります。母様が一番大事です!」
「そう、有難う……」
ライナスは自分の父が愛人と無理心中をしたと思っている。だから私に同情し懐いてくれている。
それよりももっとおぞましい真実なんて伝える必要はない。
父親は快楽殺人犯で、両親ともに殺人者である事実なんて。
私が毒薬と共に柩の中まで持っていけばいい。
「私の可愛いライナス。だったらお願いよ、婚約者が出来たならその娘を誰よりも大事にして頂戴」
そしてその時が来るまでは私を一番の存在にしていてね。私は我が子の頭を撫でる。
どこか寂しくて虚しいけれど、それでも私は今幸せだった。
【完】
「アリーネ母様」
庭で犬と戯れていたライナスにそう声をかける。
彼は私の存在に気づくと表情を明るくして駆け寄ってきた。
私とレイモンドの息子は今年六歳になる。父親に似て人懐こく愛される才能を持った少年になった。
外見も成長する程彼に似てきて、たまに胸が苦しくなる。けれど憎くは思わない。
生まれた時から人を従える地位にあり、祖父から溺愛されているこの子が、それ故に道を間違えないように歩ませるのが私の役目だ。
ライナスは二匹の犬を引き連れて私に抱き着く。そして楽し気に口を開いた。
「さっき、あっちの方で兎を見つけて、ベンとオリバーで狩りごっこをしていたんです!」
「そう……ライナスはごっこ遊びが好きなの?」
「いいえ?本当はごっこではなく本物の狩りがしたいです」
「勉強と運動をちゃんとしたら背が伸びて本当の狩りができるようになりますよ」
けれど裏の森には近づいてはいけませんよ。私がそう言うと息子は少し困った顔をして頷いた。
彼は薄々気づいているのだ。自分が生まれる前に何があったかを。
息子に勘づかせた人間は許せない。だが仕方ない部分もある。余りにもセンセーショナルな事件だったから。
隠し切れないのは。屋敷内だけでも口にしたくなるのは。
「僕は、絶対母様の言いつけは守ります。母様が一番大事です!」
「そう、有難う……」
ライナスは自分の父が愛人と無理心中をしたと思っている。だから私に同情し懐いてくれている。
それよりももっとおぞましい真実なんて伝える必要はない。
父親は快楽殺人犯で、両親ともに殺人者である事実なんて。
私が毒薬と共に柩の中まで持っていけばいい。
「私の可愛いライナス。だったらお願いよ、婚約者が出来たならその娘を誰よりも大事にして頂戴」
そしてその時が来るまでは私を一番の存在にしていてね。私は我が子の頭を撫でる。
どこか寂しくて虚しいけれど、それでも私は今幸せだった。
【完】
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