初夜に「君を愛するつもりはない」と人形公爵から言われましたが俺は偽者花嫁なので大歓迎です

砂礫レキ

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1.妹と婚約者が同時に逃げた結果

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「セシリア嬢、悪いが君を愛するつもりはない」

「まあ……!」



 新しく用意されたばかりの夫婦の寝室。

 豪奢なつくりの新品ベッドに近づくこともなく彼は言った。



 人形公爵の異名を持つアリオス・アンブローズ。

 舞踏会で多数の令嬢に囲まれても彼はその整った顔に感情を浮かべる事は無い。

 つまらなそうとも又違う、全く表情が変わらないのだ。

 それ故、社交界で人形呼ばわりをされている。



 薄い水色にも見える銀の髪、そして氷色の瞳。

 美し過ぎて人間らしくない彼は今年で二十七歳になるらしい。



 凄まじい美貌と公爵という高い地位を持ちながら長く独身でいた理由を俺は今理解した。

 そして彼との結婚式の前日に「旅に出ます」と書置きを残して家出した妹に複雑な気持ちを抱いた。



 そう、俺セレスト・リードは本物の花嫁ではない。まあ男だから当然だ。

 アリオス公爵の妻になる筈だったのは俺の双子の妹、セシリアだ。



 俺とセシリアはリード伯爵家の三男と次女である。歳は同じ十八歳。

 上に兄が二人、姉が一人いる。

 リード伯爵家は皆明るい茶色の髪に緑色の瞳をしている。そして父と兄以外は全員母親似だった。

 母は清楚な雰囲気の若々しい美女なので姉もセシリアも外見は悪くない。中身は命が惜しいので言及しない。

 ちなみ俺とセシリア以外は全員結婚済みだ。



 俺たちも双子も十八歳なのだから結婚していてもおかしくない。

 いや貴族ならしていない方が少数だ。俺も結婚はまだだが婚約者がいた。

 だがその婚約者も「好きな人と一緒になります」と手紙を残し家出した。わけがわからない。



 俺の婚約者のアイリーンはとても内気な女の子だった。

 他の男と浮気どころか、家族と俺たち以外に親しい人間がいたのかさえ疑わしい。

 だが手紙の内容が真実なら、それは俺の勘違いだったのだろう。



 確かに俺は若干低身長で顔はセシリアとほぼ同じだ。

 そのせいかで男らしさが皆無、男扱い出来ないと令嬢たちからの評判は散々だった。



 でも幼馴染だったアイリーンとの関係が冷え切ったものだったとは思わない。

 確かに接吻もまだだったけれど。でも手はよくつないだ、小さい頃に三人で仲良くだが。

 彼女は俺の妹と親友だし、良い家族になれると思っていたのでショックだった。



 そして婚約者に捨てられて茫然としている俺に父は何故か純白の花嫁衣裳を着せた。

 更に妹の代わりに新婦として結婚式に出ろと頭のおかしいことを言い出す始末。



「セシリアたちを見つけ出すまで、なんとか誤魔化せ。これはリード家当主としての命令だ!」との命令に、どうやってだよハゲと父の頭を薔薇のブーケでぶん殴ったが母に泣き落としで頼まれて結局断れなかった。



 アリオス公爵の大伯母が数代前の王妃らしい。

 そんな相手に格下の我が家が不義理をしたと知られたら家名に傷がつくどころではないという話だった。

 最悪姉が嫁ぎ先に巻き添えを恐れて離婚される可能性があるとまで言われて断れる程俺は豪胆では無かった。



 そして短時間ながら母と姉に初夜回避の手管を教え込まれ、なんとか式も披露宴も無事に終えた。

 一回ぐらいしか訪れたことのないアンブローズ公爵邸に、妹になりすましたまま足を踏み入れた時は緊張による腹痛で吐くかと思った。

 着替えと入浴を勧めて来た公爵家のメイドに「風邪ひいてるから無理ですのオホホ!!」と言い張って風呂は回避した。



 着替えは自分の部屋で一人でさっさと済ませた。

 夫婦それぞれの寝室と夫婦用の寝室がされていたのは不幸中の幸いだ。

 セシリアと交代するまで俺は絶対自分の部屋でのみ寝起きする。

 そう決意した途端アリオス公爵から呼び出された、夫婦用の寝室に。



 押し倒されたら嘔吐することで逃げようと思い水をコップ三杯飲み干してから俺は夫の元へ向かった。

 もうその時点でプレッシャーと恐怖で倒れそうだった。



 しかし今、俺はそれらの全てから解放された。

 

 妻を愛することはできないってことは、接吻含めそういうことは一切なしってことですよねヤッター!!

 いや夫としては屑過ぎるけど、俺はそもそも家ぐるみで彼を騙しているので一切責めません!!



「わかりました!旦那様の仰せに従います!!」



 俺は彼へにっこりと笑う。アリオス公爵は無表情のままだ。



「私も旦那様を愛しませんのでこれからはずっとそれぞれの寝室で休むことに致しましょう!」

「あ、ああ……」

「では私は風邪をひいておりますので先に休ませて頂きます!!」

「風邪を……? だから声が以前と異なるのか」

「はい、旦那様にうつしたら大変ですのでなるべく私へ近づかないようお願い致します!私旦那様を見かけたら全力で遠ざかりますので!」



 それでは不束な妻ですが宜しくお願い致します、お休みなさい。

 俺は笑顔を張り付けたまま全力で公爵のいる寝室を後にした。



 アンブローズ公爵家の世継ぎ問題とか知らん、愛人がいるかもしれないがそれも知った事ではない。

 寧ろその愛人を妻にしてくれ、協力するから。



 俺は自分の寝室に鍵をかけ朝までぐっすり眠った。

 流石公爵、愛の無い結婚でも用意された寝具はきっちりと最高級品だった。
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