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12.彼の嫌うもの
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成程、これでは外見と地位が優れていても結婚は難しい。
俺は一瞬納得しかけて、しかしすぐ本当にそうだろうかと思い直す。
これだけでは決め手に欠ける気がしたのだ。
女性の家も同等の格なら避けられるかもしれない。しかしそうでなければどうだろうか。
アンブローズ家は王族とも繋がりがある。
伯爵家や男爵家、高望みをしなければ引く手あまただろう。
そもそもこれ自体セシリアへ王家から退職金代わりに下げ渡されたような縁談だ。
俺としては正直余計なお世話だと思っている。
だがそう感じているのはこちらだけでは無いのかもしれない。
アリオス・アンブローズ。
彼もまた今回の縁談を押し付けられた立場であったなら。
(だとしても文句は王家に言ってくれという話だな)
俺は内心で目の前の紳士に吐き捨てた。
愛することは無いと妻に告げ、自分が嫌だから紅茶を目の前で飲むなと我儘を言う。
これが結婚への抗議活動だとしたら情けない事この上無い。
配偶者より十歳近く年上でしかも公爵家当主のやることだろうか。
しかしこれはあくまでセレストとしての感覚である。
セシリアはどうだろうか。俺は考えた。
「では私には水を下さい」
「みっ、水ですか?!」
主とは対照的に表情豊かな従者が戸惑いを口にする。
「ええ、公爵様を不快にしない飲み物が思いつかなかったので」
「……別に、紅茶以外なら何を飲んでもいい」
あの妹なら唯々諾々と従うだけではないだろう。そう判断し嫌味を含ませた台詞を口にする。
そんな俺に対し公爵は怒りを浮かべることなく新たな言葉を投げて来た。
快不快の判断が難しい温度感のない声に、わざとらしく首を傾げてみせる。
「御命令なら従いますが、何故紅茶だけはいけないのですか?」
「別に飲むなとは言っていない、私が見たくないだけだ」
君が紅茶を飲むところを。そう言われ俺は彼の薄青の瞳を見つめた。
「なら他に見たくないものがありましたら今の内に仰ってくださいませ」
どうせならお前の顔だとでも言い出してくれないだろうか。
そんなことを考えているとアリオスが従者に水を持ってくるようにと命じた。
こちらが言い出したことだが悪びれもしない態度に呆れる。
公爵の背後には黄色い薔薇が咲き乱れ、その手元には濃い色のオレンジジュース。
正直氷の紳士のようなイメージの彼には似合わない。
寧ろ先程から拒否し続けている紅茶の方が余程彼には似合いそうだ。
薔薇の色だって黄色より真紅の方が似合う気がする。
そんなことを不躾に考えていると急にその細い指先が俺の口元へ触れて来た。
完全に油断していたせいで、俺は危うく椅子から落ちそうになる。
それをエストが後ろから支えた。
「なっ、何を!」
怒鳴りつけそうになるのを堪え、それでも抗議を口にする。
しかし相変わらず公爵は人形のように表情に変わらない美貌で俺を見るだけだった。
いや違う、白手袋に包まれた指先が赤く汚れている。
理由は簡単で、俺の唇から口紅を拭ったからだ。
「申し訳ないが、この色も嫌いだ」
私の前でつけるなら別の色にして欲しい。
そう淡々と言われ、俺は目の前の男が予想上に厄介な人間だと改めて気づいた。
俺は一瞬納得しかけて、しかしすぐ本当にそうだろうかと思い直す。
これだけでは決め手に欠ける気がしたのだ。
女性の家も同等の格なら避けられるかもしれない。しかしそうでなければどうだろうか。
アンブローズ家は王族とも繋がりがある。
伯爵家や男爵家、高望みをしなければ引く手あまただろう。
そもそもこれ自体セシリアへ王家から退職金代わりに下げ渡されたような縁談だ。
俺としては正直余計なお世話だと思っている。
だがそう感じているのはこちらだけでは無いのかもしれない。
アリオス・アンブローズ。
彼もまた今回の縁談を押し付けられた立場であったなら。
(だとしても文句は王家に言ってくれという話だな)
俺は内心で目の前の紳士に吐き捨てた。
愛することは無いと妻に告げ、自分が嫌だから紅茶を目の前で飲むなと我儘を言う。
これが結婚への抗議活動だとしたら情けない事この上無い。
配偶者より十歳近く年上でしかも公爵家当主のやることだろうか。
しかしこれはあくまでセレストとしての感覚である。
セシリアはどうだろうか。俺は考えた。
「では私には水を下さい」
「みっ、水ですか?!」
主とは対照的に表情豊かな従者が戸惑いを口にする。
「ええ、公爵様を不快にしない飲み物が思いつかなかったので」
「……別に、紅茶以外なら何を飲んでもいい」
あの妹なら唯々諾々と従うだけではないだろう。そう判断し嫌味を含ませた台詞を口にする。
そんな俺に対し公爵は怒りを浮かべることなく新たな言葉を投げて来た。
快不快の判断が難しい温度感のない声に、わざとらしく首を傾げてみせる。
「御命令なら従いますが、何故紅茶だけはいけないのですか?」
「別に飲むなとは言っていない、私が見たくないだけだ」
君が紅茶を飲むところを。そう言われ俺は彼の薄青の瞳を見つめた。
「なら他に見たくないものがありましたら今の内に仰ってくださいませ」
どうせならお前の顔だとでも言い出してくれないだろうか。
そんなことを考えているとアリオスが従者に水を持ってくるようにと命じた。
こちらが言い出したことだが悪びれもしない態度に呆れる。
公爵の背後には黄色い薔薇が咲き乱れ、その手元には濃い色のオレンジジュース。
正直氷の紳士のようなイメージの彼には似合わない。
寧ろ先程から拒否し続けている紅茶の方が余程彼には似合いそうだ。
薔薇の色だって黄色より真紅の方が似合う気がする。
そんなことを不躾に考えていると急にその細い指先が俺の口元へ触れて来た。
完全に油断していたせいで、俺は危うく椅子から落ちそうになる。
それをエストが後ろから支えた。
「なっ、何を!」
怒鳴りつけそうになるのを堪え、それでも抗議を口にする。
しかし相変わらず公爵は人形のように表情に変わらない美貌で俺を見るだけだった。
いや違う、白手袋に包まれた指先が赤く汚れている。
理由は簡単で、俺の唇から口紅を拭ったからだ。
「申し訳ないが、この色も嫌いだ」
私の前でつけるなら別の色にして欲しい。
そう淡々と言われ、俺は目の前の男が予想上に厄介な人間だと改めて気づいた。
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