15 / 77
15.公爵夫人の仕事
昼食は白身魚の香草焼きがメインだった。だだっ広い食堂でエストに給仕されながら一人で摂った。
居心地は多少悪いが料理は大変美味しい。
サラダには艶々と赤いトマトが添えられていた。
俺一人だから大丈夫だという判断なのだろうか。
公爵と一緒に食事をした事がないのでわからない。いやセレストの時一度あるか。
そんなことを考えながら皿を空にしていくと食後のデザートと一緒に紅茶が出てきた。
伯爵家では飲まない銘柄だと思うが嫌いな香りではない。
そういえば結局アリオスと一緒にいる時の飲み物は何を選べば正解なのだろう。
妥当なものが水しか思い浮かばない。
林檎など果物を使ったジュースや牛乳なども選択肢には入るがシチュエーションどちらもを選ぶ。
面倒臭い相手と結婚したなと改めて思った。
俺は偽者だからセシリアが見つかり次第お役御免だけれど。
そんなことを考えつつ、果たしてそう簡単に行くのだろうかと疑ってもいる。
そしてこの歪な結婚生活を妹にそのまま引き継いでいいのかとも。
公爵が今すぐ誰かとの真実の愛にでも目覚めて離婚を宣言してくれないだろうか。
その際は慰謝料を格安にして貰うよう父に談判してやってもいい。
アリオスの人形のような顔を思い浮かべ俺は思った。隠している愛人とか居たら良いのにと。
だだっ広い公爵邸の敷地の隅にでも美女を囲っていないだろうか。
寧ろ俺が敷地の隅で気兼ねなく暮らしたい。
愛人が居るなら正妻気取りで屋敷を取り仕切って貰っても構わない。
ただそれは俺が偽花嫁だから言えるのであって、妹を相手にそれをしたらきっと許せないだろう。
見た事も無い愛人の存在に期待したり憤ったりしている内にティーカップは空になった。
すかさずエストがお代わりを注いでくる。彼以外の使用人の姿は見当たらない。
気楽だが、女主人として認められていない気はしている。いやそれは事実そうなのだが。
昨日の今日とは言え公爵夫人らしいことを一切していない。
そもそも俺は公爵夫人の仕事なんてわからないのだ。
父や兄の仕事の手伝いをしたり偶に伯爵領の視察に付き合ったりはしたが、母や姉が同じことをしていた記憶はない。
セシリアは城勤めになる前は俺と似たようなことをしていたが騎士を目指していた彼女は参考にならないだろう。
俺は婚約者の家に婿入りする筈だった。アイリーンが一人娘だからだ。
その為の準備なら色々していたし、彼女の父親の仕事を見ながら学んだこともある。
アイリーンの父オーガス伯爵とは数年前から疎遠気味になっていたが。
こちら側ではなく向こう側が俺を避けたのだ。
その時にもう少しオーガス家の事情に突っ込んでいたら、アイリーンが唐突に失踪することは無かったのだろうか。
彼女の実母が亡くなったのは五年前だ。そしてオーガス伯爵が二十歳年下の後妻を迎えたのは二年前。
父が語ったところによると新しいオーガス伯爵夫人は元娼婦らしい。
貴族というのは多かれ少なかれ面子と家柄を大切にする。
俺の婚約者の新しい母親が元娼婦なのは伯爵である父には大問題だった。
父からアイリーンとの婚約解消を打診されたこともある。
ただ俺はそれだけは絶対嫌だと強く否定した。普段は割と流されやすい方だが断固拒絶した。
俺が縁を切ってしまったら、ただでさえ親子関係で悩んでいたアイリーンは消えて無くなってしまう気がしたからだ。
結果俺と彼女の婚約は継続したが、オーガス伯爵は散々説教してきた俺の父を嫌い俺のことも嫌うようになった。
でも結局俺がしたことはアイリーンにとってただの余計なお世話だったのかもしれない。
彼女が求めていた相手はセシリアだったのだろうから。
なら今は満足そうに微笑んでいるのだろうか。
デザートの桃のコンポートの甘さを感じながら俺は思った。
居心地は多少悪いが料理は大変美味しい。
サラダには艶々と赤いトマトが添えられていた。
俺一人だから大丈夫だという判断なのだろうか。
公爵と一緒に食事をした事がないのでわからない。いやセレストの時一度あるか。
そんなことを考えながら皿を空にしていくと食後のデザートと一緒に紅茶が出てきた。
伯爵家では飲まない銘柄だと思うが嫌いな香りではない。
そういえば結局アリオスと一緒にいる時の飲み物は何を選べば正解なのだろう。
妥当なものが水しか思い浮かばない。
林檎など果物を使ったジュースや牛乳なども選択肢には入るがシチュエーションどちらもを選ぶ。
面倒臭い相手と結婚したなと改めて思った。
俺は偽者だからセシリアが見つかり次第お役御免だけれど。
そんなことを考えつつ、果たしてそう簡単に行くのだろうかと疑ってもいる。
そしてこの歪な結婚生活を妹にそのまま引き継いでいいのかとも。
公爵が今すぐ誰かとの真実の愛にでも目覚めて離婚を宣言してくれないだろうか。
その際は慰謝料を格安にして貰うよう父に談判してやってもいい。
アリオスの人形のような顔を思い浮かべ俺は思った。隠している愛人とか居たら良いのにと。
だだっ広い公爵邸の敷地の隅にでも美女を囲っていないだろうか。
寧ろ俺が敷地の隅で気兼ねなく暮らしたい。
愛人が居るなら正妻気取りで屋敷を取り仕切って貰っても構わない。
ただそれは俺が偽花嫁だから言えるのであって、妹を相手にそれをしたらきっと許せないだろう。
見た事も無い愛人の存在に期待したり憤ったりしている内にティーカップは空になった。
すかさずエストがお代わりを注いでくる。彼以外の使用人の姿は見当たらない。
気楽だが、女主人として認められていない気はしている。いやそれは事実そうなのだが。
昨日の今日とは言え公爵夫人らしいことを一切していない。
そもそも俺は公爵夫人の仕事なんてわからないのだ。
父や兄の仕事の手伝いをしたり偶に伯爵領の視察に付き合ったりはしたが、母や姉が同じことをしていた記憶はない。
セシリアは城勤めになる前は俺と似たようなことをしていたが騎士を目指していた彼女は参考にならないだろう。
俺は婚約者の家に婿入りする筈だった。アイリーンが一人娘だからだ。
その為の準備なら色々していたし、彼女の父親の仕事を見ながら学んだこともある。
アイリーンの父オーガス伯爵とは数年前から疎遠気味になっていたが。
こちら側ではなく向こう側が俺を避けたのだ。
その時にもう少しオーガス家の事情に突っ込んでいたら、アイリーンが唐突に失踪することは無かったのだろうか。
彼女の実母が亡くなったのは五年前だ。そしてオーガス伯爵が二十歳年下の後妻を迎えたのは二年前。
父が語ったところによると新しいオーガス伯爵夫人は元娼婦らしい。
貴族というのは多かれ少なかれ面子と家柄を大切にする。
俺の婚約者の新しい母親が元娼婦なのは伯爵である父には大問題だった。
父からアイリーンとの婚約解消を打診されたこともある。
ただ俺はそれだけは絶対嫌だと強く否定した。普段は割と流されやすい方だが断固拒絶した。
俺が縁を切ってしまったら、ただでさえ親子関係で悩んでいたアイリーンは消えて無くなってしまう気がしたからだ。
結果俺と彼女の婚約は継続したが、オーガス伯爵は散々説教してきた俺の父を嫌い俺のことも嫌うようになった。
でも結局俺がしたことはアイリーンにとってただの余計なお世話だったのかもしれない。
彼女が求めていた相手はセシリアだったのだろうから。
なら今は満足そうに微笑んでいるのだろうか。
デザートの桃のコンポートの甘さを感じながら俺は思った。
あなたにおすすめの小説
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~
なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。
一つは男であること。
そして、ある一定の未来を知っていること。
エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。
意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…?
魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。
なんと目覚めたのは断罪される2か月前!?
引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。
でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉
まぁどうせ出ていくからいっか!
北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)
「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った
歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。
だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」
追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。
舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。
一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。
「もう、残業はしません」
僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね
舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」
Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。
恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。
蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。
そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。
何もしなかっただけです
希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。
それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。
――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。
AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。