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33.価値と立ち位置
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エストが凄まじい形相でマレーナを追いかけようとする。
俺はそれを止めた。
「駄目ですよ」
「駄目だ」
二人同時に同じ台詞を発する。
エストはマレーナを罰さないのは駄目だという意味。
そして俺は今それをするのは駄目だという意味。
「彼女は貴方を貶めたんですよ? しかも自分を気遣った直後に」
「わかっている。その件は手紙に書いて両親に報告する……とマレーナには伝える」
「伝えるのは私がします。手紙には本当に書いてくださいよ」
念押しするような従者の表情に俺は当たり前だろと答える。
警告した時のマレーナの反応次第で取り消すつもりがあったことは黙っておいた。
優しいだけなんて正直言われ慣れている。
優しさしか持ってないというのはある意味真実だろう。
俺が自分の取り柄を探して見つけたのはそれだけだった。
人の心を慮った振りをして、助けてくれと縋られたらぼやきながら請け負って。
弱々しい人には俺が守ると笑って。
泣きそうな顔をされたらそれ以上は責められなくて。
しかし本当に脆弱なのは俺の心と立場という落ちだった。
秀でたところはないけれど手のかからない騒ぎを起こさない便利な良い子。
そういう立ち位置を俺は自分で築いたつもりだったけれど、婚約解消を拒んで以来それも怪しかった。
でも兄に「お前は伯爵家の一人娘との婚姻にしがみついているだけだ」と言われたっけ。
そしてそう言われるとそんな気持ちもあったかもしれないなんて、思って。
だからアイリーンの行動に対し怒れないのは、後ろめたさも含まれていた。
「そもそも俺は別に優しくはないしな、手紙を書き足すからマレーナを引き止めて置いてくれ」
「……畏まりました」
エストが一礼して退出する。俺は机に向かうと便箋とペンを用意し、言った通りの内容を書いた。
そしてマレーナがセシリア失踪のショックで業務に支障が出るレベルだということも。
休養させるか妹とは無関係な業務を一時的にさせた方が良いと提案した。
セシリアの俺に対する発言を両親はきっと無視する。双子で話し合えで終わる筈だ。
ただマレーナにも注意ぐらいはするだろう。
セシリアが俺を軽く見ていることが事実でも、使用人である彼女がそれを俺に伝える必要はない。
その他にあれこれと書いて俺は新しい封筒に前に書いた手紙と合わせて入れ封をする。
エストはまだ戻ってこない。
そういえば気づいたことがある。公爵が赤色を酷く苦手だとしている件。
それをセシリアが知っているのか確認したいとずっと思っていた。
でも彼女が既にその情報を得ているなら輿入れの際持たされた衣装に赤いものは含まれて居ないだろう。
セシリア用に前もって用意されていたドレス類から俺が着られそうなものを数着選んで持たされた。
アクセサリーや化粧品だってそうだ。
セシリアは赤色の件を知らないか、無視するつもりだったかの二択だと思う。
そしてマレーナの書いた文書をざっと確認した限り、アンブローズ公爵家の後継問題について一切記されていない。
これに関しては侍女の前だから話題にしていない可能性もあった。
だからそれは両親に宛てた手紙の中で質問しておいた。
公爵が身体上の問題で子供をつくる気がないということを。
それを二人は知っているか教えて欲しいという旨を。
そういえば公爵に愛するつもりはないと言われた件も報告して置いた方が良いだろうか。
蜜蝋で封をしてしまった封筒を見ながら首を傾げる。
「……寧ろ真っ先に書くべき内容な気がする」
なんで今頃気づいたのだろう。
もう一度手紙を書き直すか悩んでいると扉がノックされる。
反射的にエストだと思い、俺は無防備にドアを開けた。
立っていたのは顔や手に治療を施された、無表情ながらどこか痛々しい姿のアリオスだった。
彼は何故か黄色い薔薇の花束を持っていた。
俺はそれを止めた。
「駄目ですよ」
「駄目だ」
二人同時に同じ台詞を発する。
エストはマレーナを罰さないのは駄目だという意味。
そして俺は今それをするのは駄目だという意味。
「彼女は貴方を貶めたんですよ? しかも自分を気遣った直後に」
「わかっている。その件は手紙に書いて両親に報告する……とマレーナには伝える」
「伝えるのは私がします。手紙には本当に書いてくださいよ」
念押しするような従者の表情に俺は当たり前だろと答える。
警告した時のマレーナの反応次第で取り消すつもりがあったことは黙っておいた。
優しいだけなんて正直言われ慣れている。
優しさしか持ってないというのはある意味真実だろう。
俺が自分の取り柄を探して見つけたのはそれだけだった。
人の心を慮った振りをして、助けてくれと縋られたらぼやきながら請け負って。
弱々しい人には俺が守ると笑って。
泣きそうな顔をされたらそれ以上は責められなくて。
しかし本当に脆弱なのは俺の心と立場という落ちだった。
秀でたところはないけれど手のかからない騒ぎを起こさない便利な良い子。
そういう立ち位置を俺は自分で築いたつもりだったけれど、婚約解消を拒んで以来それも怪しかった。
でも兄に「お前は伯爵家の一人娘との婚姻にしがみついているだけだ」と言われたっけ。
そしてそう言われるとそんな気持ちもあったかもしれないなんて、思って。
だからアイリーンの行動に対し怒れないのは、後ろめたさも含まれていた。
「そもそも俺は別に優しくはないしな、手紙を書き足すからマレーナを引き止めて置いてくれ」
「……畏まりました」
エストが一礼して退出する。俺は机に向かうと便箋とペンを用意し、言った通りの内容を書いた。
そしてマレーナがセシリア失踪のショックで業務に支障が出るレベルだということも。
休養させるか妹とは無関係な業務を一時的にさせた方が良いと提案した。
セシリアの俺に対する発言を両親はきっと無視する。双子で話し合えで終わる筈だ。
ただマレーナにも注意ぐらいはするだろう。
セシリアが俺を軽く見ていることが事実でも、使用人である彼女がそれを俺に伝える必要はない。
その他にあれこれと書いて俺は新しい封筒に前に書いた手紙と合わせて入れ封をする。
エストはまだ戻ってこない。
そういえば気づいたことがある。公爵が赤色を酷く苦手だとしている件。
それをセシリアが知っているのか確認したいとずっと思っていた。
でも彼女が既にその情報を得ているなら輿入れの際持たされた衣装に赤いものは含まれて居ないだろう。
セシリア用に前もって用意されていたドレス類から俺が着られそうなものを数着選んで持たされた。
アクセサリーや化粧品だってそうだ。
セシリアは赤色の件を知らないか、無視するつもりだったかの二択だと思う。
そしてマレーナの書いた文書をざっと確認した限り、アンブローズ公爵家の後継問題について一切記されていない。
これに関しては侍女の前だから話題にしていない可能性もあった。
だからそれは両親に宛てた手紙の中で質問しておいた。
公爵が身体上の問題で子供をつくる気がないということを。
それを二人は知っているか教えて欲しいという旨を。
そういえば公爵に愛するつもりはないと言われた件も報告して置いた方が良いだろうか。
蜜蝋で封をしてしまった封筒を見ながら首を傾げる。
「……寧ろ真っ先に書くべき内容な気がする」
なんで今頃気づいたのだろう。
もう一度手紙を書き直すか悩んでいると扉がノックされる。
反射的にエストだと思い、俺は無防備にドアを開けた。
立っていたのは顔や手に治療を施された、無表情ながらどこか痛々しい姿のアリオスだった。
彼は何故か黄色い薔薇の花束を持っていた。
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