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61.消えた花嫁
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「その、父からの手紙を読ませてもらってもいいですか?」
俺が頼むとアリオスは少し迷った素振りをしながらも便箋を手渡してくれた。
封筒に入った物もある。開封済みであることを確認して俺は全ての文面に目を通した。
卑屈なご機嫌伺いから始まり、徐々に増えていく金の無心と性生活への詮索。
アリオスは父たちを釣る為に向こうに都合の良い返事をし続けたと言っていた。だから図に乗ったのだろう。
恥ずかしさと怒りで指先が震えて来る。
「……これが父からの手紙なんて、正直信じたくないですね」
「すまない」
「いえ、悪いのは父です」
何故か謝罪してきたアリオスに苦笑いを浮かべた。
けれど、彼の瞳が悲しげだったので笑うのに失敗したかもしれない。
父を偽った誰かが書いた手紙だったら本当に良かった。
実際俺は父の字なんて覚えてない、いや彼だけでなく家族や友人の字だってそうだ。
余程下手だったり変わったりしてなければ記憶になんて残らないだろう。
それにここはアンブローズ公爵邸だから父の直筆と見比べることも出来ない。
でも便箋や封筒にリード伯爵家の家紋が透かしで入っている。
シーリングスタンプの柄も同じだ。
良くそんな物にこんな下品な文章をしたためられたなと逆に感心する。
それに父の名前のサインもある。だからこそ地獄だった。
しかしそれは序の口だった。
俺は、アリオスの手に一通の封筒が残されていることに気づいた。
封筒の柄を見てリード家からの手紙だと判断する。
「すみません、それも見せて欲しいんですけど」
「……要約した内容は私が話す。君は、見ない方が良いと思う。」
白い顔で言うアリオスに俺は大丈夫だとヘラヘラ笑って答えた。
俺は初心な彼とは違う。父親に呆れうんざりして馬鹿野郎とは思っているけれど。
次はどんな下世話な内容なんだろう。そんな気持ちでゆっくりと差し出された封筒を受け取り目を通す。
絶句した。
父はアリオスを脅していた。
彼の妻が男だと知られたくなければ、自分の息子を囲い続けたければ自分へ内密に大金を都合しろと。
もし父が目の前に居たら殴っていたかもしれない、鈍器で。
親に対してここまでの怒りを感じたのは初めてだった。
「は、っ」
呼吸を忘れていたことに気づく。下手くそな深呼吸をした。
これは所謂、美人局のようなものじゃないか。伯爵家当主のやることだろうか。
立場を理解していないにも程がある。
俺たちリード伯爵家はアリオスを騙していた側だ。
追い詰められるのも脅されるのも糾弾されるのも俺たちの方だ。
そのことさえ父は忘れてたのだろうか。もしそうなら迂闊を通り越して痴呆の域だ。
多分アリオスは俺を気に入っていると返事に書いたのだ。
そして父は俺へ彼が執着していると誤解した。だから脅した。
しかし何故ここまで金に執着するのだろう。何度も考えるが実家がそこまで困窮していたようには思えない。
母はセシリアの結婚式の為にドレスや宝石を新調していた筈だ。なら母は知らないのだろうか。
もしかして、結婚式の直前かその後に大金が必要になった?
そこまで考えて手紙を落とす。
怒りは消えていた、それどころでは無かった。
「アリオス、ごめんなさい」
「セレスト……?」
公爵家当主にここまで臆面無く金を無心する父。
けれど娘であるセシリアは退職金という名の大金を以前から持っていた。
でも、彼女はそれを自分の為に使うと決めていた。
そして忽然と居なくなった。
「俺、実家に帰ります」
震えながら声を吐き出す。
大きな勘違いをしていたのかもしれなかった。
俺が頼むとアリオスは少し迷った素振りをしながらも便箋を手渡してくれた。
封筒に入った物もある。開封済みであることを確認して俺は全ての文面に目を通した。
卑屈なご機嫌伺いから始まり、徐々に増えていく金の無心と性生活への詮索。
アリオスは父たちを釣る為に向こうに都合の良い返事をし続けたと言っていた。だから図に乗ったのだろう。
恥ずかしさと怒りで指先が震えて来る。
「……これが父からの手紙なんて、正直信じたくないですね」
「すまない」
「いえ、悪いのは父です」
何故か謝罪してきたアリオスに苦笑いを浮かべた。
けれど、彼の瞳が悲しげだったので笑うのに失敗したかもしれない。
父を偽った誰かが書いた手紙だったら本当に良かった。
実際俺は父の字なんて覚えてない、いや彼だけでなく家族や友人の字だってそうだ。
余程下手だったり変わったりしてなければ記憶になんて残らないだろう。
それにここはアンブローズ公爵邸だから父の直筆と見比べることも出来ない。
でも便箋や封筒にリード伯爵家の家紋が透かしで入っている。
シーリングスタンプの柄も同じだ。
良くそんな物にこんな下品な文章をしたためられたなと逆に感心する。
それに父の名前のサインもある。だからこそ地獄だった。
しかしそれは序の口だった。
俺は、アリオスの手に一通の封筒が残されていることに気づいた。
封筒の柄を見てリード家からの手紙だと判断する。
「すみません、それも見せて欲しいんですけど」
「……要約した内容は私が話す。君は、見ない方が良いと思う。」
白い顔で言うアリオスに俺は大丈夫だとヘラヘラ笑って答えた。
俺は初心な彼とは違う。父親に呆れうんざりして馬鹿野郎とは思っているけれど。
次はどんな下世話な内容なんだろう。そんな気持ちでゆっくりと差し出された封筒を受け取り目を通す。
絶句した。
父はアリオスを脅していた。
彼の妻が男だと知られたくなければ、自分の息子を囲い続けたければ自分へ内密に大金を都合しろと。
もし父が目の前に居たら殴っていたかもしれない、鈍器で。
親に対してここまでの怒りを感じたのは初めてだった。
「は、っ」
呼吸を忘れていたことに気づく。下手くそな深呼吸をした。
これは所謂、美人局のようなものじゃないか。伯爵家当主のやることだろうか。
立場を理解していないにも程がある。
俺たちリード伯爵家はアリオスを騙していた側だ。
追い詰められるのも脅されるのも糾弾されるのも俺たちの方だ。
そのことさえ父は忘れてたのだろうか。もしそうなら迂闊を通り越して痴呆の域だ。
多分アリオスは俺を気に入っていると返事に書いたのだ。
そして父は俺へ彼が執着していると誤解した。だから脅した。
しかし何故ここまで金に執着するのだろう。何度も考えるが実家がそこまで困窮していたようには思えない。
母はセシリアの結婚式の為にドレスや宝石を新調していた筈だ。なら母は知らないのだろうか。
もしかして、結婚式の直前かその後に大金が必要になった?
そこまで考えて手紙を落とす。
怒りは消えていた、それどころでは無かった。
「アリオス、ごめんなさい」
「セレスト……?」
公爵家当主にここまで臆面無く金を無心する父。
けれど娘であるセシリアは退職金という名の大金を以前から持っていた。
でも、彼女はそれを自分の為に使うと決めていた。
そして忽然と居なくなった。
「俺、実家に帰ります」
震えながら声を吐き出す。
大きな勘違いをしていたのかもしれなかった。
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