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65.忘れた記憶
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あの後、アリオスと入れ違いで合流したエストに結局父の手紙を見せることになった。
年上の従者の隠し事をしたら許さないというオーラを前に隠ぺいは不可能だったのだ。
けれどエストは俺が予想したように怒り狂ったりはしなかった。
ただ便箋を見つめる瞳は、ひたすら暗かった。
「もしかして、父の魂胆に気づいていたのか?」
そう質問した後で、これじゃ責めるみたいだと思い慌てた。
けどエストは傷ついた様子もなく静かに頷く。ちょっとショックだった。
「誤解しないでください、伯爵がここまで冷酷に息子の体を売り飛ばすとは流石に考えていませんでした」
「えっと、だったら……?」
「セレスト様をアンブローズ公爵が気に入るだろうという魂胆で身代わりにしたと予想しただけです」
実際その目論見は成功していますし。こちらをじろじろと見ながら言われて、頬に熱が集まる。
「別に気に入られてなんか……いるっぽいけど」
「そこで否定する程鈍感では無くて何よりです」
嫌味なのか本音なのか判断できない言葉を愛想笑いで流す。
鈍いと言われがちな俺だが、アリオスに気に入られていることは流石に理解している。
向こうは最初から気づいていたとはいえ、騙す気満々で偽者花嫁を演じていたのに一切責めてこないし。
それどころか俺がショックを受けることを気にして色々気遣ってくれていた。
こうやってセシリアの件だって協力してくれる。
なんでアリオスが俺をここまで気に入って優しくしてくれるのかはわからないけれど。
そこは今すぐ追求しなくてもいい。というか追及している場合じゃない。
そんなことをしたらアリオスのことばかり考えて、今大変なセシリアのことさえ疎かになりそうだ。
俺は忘れっぽくて薄情だと、昔誰かが言っていた。エスト以外の使用人か、それとも親戚の誰かかもしれない。
目の前から無くなったものはすぐ忘れてしまうと。
今考えれば結構酷いことを言われている。なのに誰が言ったか覚えていないから否定出来ない。
実際普段関わりの無い兄や姉たちの顔も名前もすぐに思い出せないし。
最後は関係が悪化したとはいえ次兄には幼い頃、結構可愛がって貰っていたらしいのに。
そんなことを考えていたら、少し前に見た不思議な光景を思い出した。
子供の頃の俺とセシリアが縛られている姿だ。
「……どうかされましたか?」
考えている時間が長すぎたのかエストが不思議そうに問いかけてくる。
丁度良いと思い、俺は長い間従者を務めてくれている彼に質問した。
「俺とセシリアが子供の頃、二人で縛られて泣いてたりしたことはあったか?」
口にした後で気づいた。よく考えたら泣いていたのは俺だけだ。
まあ訂正する程のことでは無いか。
俺の発言を聞くと今度はエストが黙ってしまった。先程とは立場が逆だ。
しかもエストの沈黙の方が長い。俺は耐え切れず口を開いた。
「あ、思い出せないなら別にいいけど……」
「……昔、御二人が誘拐されたことはありました、短時間ですけれど」
エストが告げた情報は結構衝撃的な物だった。だけど同時にやっぱりとも思う。
折檻や虐めに遭った記憶も無いから、縛られるなんてシチュエーションは誘拐ぐらいだろう。
「俺たち怪我とかした?」
「いいえ、犯人はすぐに自主的に人質を解放しましたので」
良心に耐えかねたのでしょう。掠り傷一つありませんでした。
エストの言葉に俺は、二人とも無事でよかったなと間抜けな感想を呟いた。
年上の従者の隠し事をしたら許さないというオーラを前に隠ぺいは不可能だったのだ。
けれどエストは俺が予想したように怒り狂ったりはしなかった。
ただ便箋を見つめる瞳は、ひたすら暗かった。
「もしかして、父の魂胆に気づいていたのか?」
そう質問した後で、これじゃ責めるみたいだと思い慌てた。
けどエストは傷ついた様子もなく静かに頷く。ちょっとショックだった。
「誤解しないでください、伯爵がここまで冷酷に息子の体を売り飛ばすとは流石に考えていませんでした」
「えっと、だったら……?」
「セレスト様をアンブローズ公爵が気に入るだろうという魂胆で身代わりにしたと予想しただけです」
実際その目論見は成功していますし。こちらをじろじろと見ながら言われて、頬に熱が集まる。
「別に気に入られてなんか……いるっぽいけど」
「そこで否定する程鈍感では無くて何よりです」
嫌味なのか本音なのか判断できない言葉を愛想笑いで流す。
鈍いと言われがちな俺だが、アリオスに気に入られていることは流石に理解している。
向こうは最初から気づいていたとはいえ、騙す気満々で偽者花嫁を演じていたのに一切責めてこないし。
それどころか俺がショックを受けることを気にして色々気遣ってくれていた。
こうやってセシリアの件だって協力してくれる。
なんでアリオスが俺をここまで気に入って優しくしてくれるのかはわからないけれど。
そこは今すぐ追求しなくてもいい。というか追及している場合じゃない。
そんなことをしたらアリオスのことばかり考えて、今大変なセシリアのことさえ疎かになりそうだ。
俺は忘れっぽくて薄情だと、昔誰かが言っていた。エスト以外の使用人か、それとも親戚の誰かかもしれない。
目の前から無くなったものはすぐ忘れてしまうと。
今考えれば結構酷いことを言われている。なのに誰が言ったか覚えていないから否定出来ない。
実際普段関わりの無い兄や姉たちの顔も名前もすぐに思い出せないし。
最後は関係が悪化したとはいえ次兄には幼い頃、結構可愛がって貰っていたらしいのに。
そんなことを考えていたら、少し前に見た不思議な光景を思い出した。
子供の頃の俺とセシリアが縛られている姿だ。
「……どうかされましたか?」
考えている時間が長すぎたのかエストが不思議そうに問いかけてくる。
丁度良いと思い、俺は長い間従者を務めてくれている彼に質問した。
「俺とセシリアが子供の頃、二人で縛られて泣いてたりしたことはあったか?」
口にした後で気づいた。よく考えたら泣いていたのは俺だけだ。
まあ訂正する程のことでは無いか。
俺の発言を聞くと今度はエストが黙ってしまった。先程とは立場が逆だ。
しかもエストの沈黙の方が長い。俺は耐え切れず口を開いた。
「あ、思い出せないなら別にいいけど……」
「……昔、御二人が誘拐されたことはありました、短時間ですけれど」
エストが告げた情報は結構衝撃的な物だった。だけど同時にやっぱりとも思う。
折檻や虐めに遭った記憶も無いから、縛られるなんてシチュエーションは誘拐ぐらいだろう。
「俺たち怪我とかした?」
「いいえ、犯人はすぐに自主的に人質を解放しましたので」
良心に耐えかねたのでしょう。掠り傷一つありませんでした。
エストの言葉に俺は、二人とも無事でよかったなと間抜けな感想を呟いた。
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