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70.元婚約者の家庭事情(上)
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そう、俺の呼び名なんて今はどうでも良い。
問題視すべきはアイリーンが俺にセシリアになりすまして金を引き出せと言っていることだ。
当然だが犯罪である。親子間だって委任状が無ければ無理な筈だ。
「悪いけどセシリアの代わりに銀行に行くのは断る。バレた時のリスクが大きすぎる」
「リスクね、アンブローズ公爵家に嫁入りする時には考えなかったの?」
にっこりと微笑みながら指摘する元婚約者に一瞬言葉に詰まる。
彼女の言葉は正しい。リスクの大きさなら今回の件と同等かそれ以上だ。
アリオスが善良な人間だから問題にならなかった。
俺は運が良かっただけに過ぎない。
「考えたよ、でも今なら考えが足りなかったと思う。だからもうそんなことはしない」
「……貴方の……に、命令されても?」
「えっ?」
アイリーンの声が小さすぎて聞き取れない。
唇を僅かに開いて呟くように話す姿は俺の記憶の中の彼女と似ていた。
「ごめん、もう一回話してくれないかな」
「ううん、何でもないの」
婚約時代を思い出すようなやり取りを二人でする。
いつもこのやり取りで会話は終わった。でも今は流すべきじゃないだろう。
「どんな内容でも構わないから伝えてくれ、俺の態度に関係することだろ?」
俺が深追いするとは思わなかったのかアイリーンの目が大きく見開かれた。
「セレスト……変わったね。私は……昔の悪い癖が出ただけなの」
「悪い癖?」
「私にはそんなこと言っても……両親に命令されたら従うんでしょうって思っちゃった」
耳と胸が痛い。
一番きついのはアイリーンが昔から俺をそう評価していたと知ったことだ。
だが間違いじゃない。俺は両親の言いなりだった。
余りにも理不尽なら軽く文句を言うがそれでも結局従ってきた。
でも貴族の家に生まれたのだからそれが当然だと思っていた。
それでも目の前の少女との婚約を解消された時は抗ってみたけれど。
実際は俺の抵抗なんて無意味で知らない内に婚約関係は終わっていた。
俺の沈黙の理由を勘違いしたのかアイリーンが謝って来た。
「ごめんね、そんなの当たり前だよね。私だって少し前までは父の言いなりだったもの」
「アイリーン……」
「親の言いなりで親の決めた相手と婚約して結婚して、それが自分の役目だと思っていた」
以前の自分ならここまで言い切られたら多少は傷ついただろう。
今、そこまで衝撃を受けていないのは傍らにアリオスが居てくれるからだ。
理由はよく分からないけれど彼は俺自身に好意を持ってくれている。俺に執着してくれている。
だから自分の価値を見失って足元が揺らぐことは無かった。
それはとても惨めで卑しい感情かもしれないけれど俺はアリオスを必要としている。
「勿論セレストが嫌だった訳じゃないの。寧ろ結婚相手としては一番良いと思った」
「俺もだよ、アイリーン」
「父の再婚が原因で婚約解消されちゃったけどね。それは仕方ないと思う」
貴族って体面が何よりも大切でしょう。そう笑う彼女は疲れた目をしていた。
俺も婚約解消はショックだったけれど、アイリーンの心労はそれ以上だっただろう。
だって俺との婚約を解消した後も原因は消えてくれないのだから。
「私だってあの人たちと家族でいるのは無理だった。だから家を出たの」
「そうなのか……生活費とかは大丈夫なのか?」
「うん。セシリアが援助してくれたから」
「セシリアが?」
確かに妹ならアイリーンを応援するだろう。
しかしいつ援助が出来たのだろう。
俺が首を傾げてるとアイリーンがクスクスと笑った。
問題視すべきはアイリーンが俺にセシリアになりすまして金を引き出せと言っていることだ。
当然だが犯罪である。親子間だって委任状が無ければ無理な筈だ。
「悪いけどセシリアの代わりに銀行に行くのは断る。バレた時のリスクが大きすぎる」
「リスクね、アンブローズ公爵家に嫁入りする時には考えなかったの?」
にっこりと微笑みながら指摘する元婚約者に一瞬言葉に詰まる。
彼女の言葉は正しい。リスクの大きさなら今回の件と同等かそれ以上だ。
アリオスが善良な人間だから問題にならなかった。
俺は運が良かっただけに過ぎない。
「考えたよ、でも今なら考えが足りなかったと思う。だからもうそんなことはしない」
「……貴方の……に、命令されても?」
「えっ?」
アイリーンの声が小さすぎて聞き取れない。
唇を僅かに開いて呟くように話す姿は俺の記憶の中の彼女と似ていた。
「ごめん、もう一回話してくれないかな」
「ううん、何でもないの」
婚約時代を思い出すようなやり取りを二人でする。
いつもこのやり取りで会話は終わった。でも今は流すべきじゃないだろう。
「どんな内容でも構わないから伝えてくれ、俺の態度に関係することだろ?」
俺が深追いするとは思わなかったのかアイリーンの目が大きく見開かれた。
「セレスト……変わったね。私は……昔の悪い癖が出ただけなの」
「悪い癖?」
「私にはそんなこと言っても……両親に命令されたら従うんでしょうって思っちゃった」
耳と胸が痛い。
一番きついのはアイリーンが昔から俺をそう評価していたと知ったことだ。
だが間違いじゃない。俺は両親の言いなりだった。
余りにも理不尽なら軽く文句を言うがそれでも結局従ってきた。
でも貴族の家に生まれたのだからそれが当然だと思っていた。
それでも目の前の少女との婚約を解消された時は抗ってみたけれど。
実際は俺の抵抗なんて無意味で知らない内に婚約関係は終わっていた。
俺の沈黙の理由を勘違いしたのかアイリーンが謝って来た。
「ごめんね、そんなの当たり前だよね。私だって少し前までは父の言いなりだったもの」
「アイリーン……」
「親の言いなりで親の決めた相手と婚約して結婚して、それが自分の役目だと思っていた」
以前の自分ならここまで言い切られたら多少は傷ついただろう。
今、そこまで衝撃を受けていないのは傍らにアリオスが居てくれるからだ。
理由はよく分からないけれど彼は俺自身に好意を持ってくれている。俺に執着してくれている。
だから自分の価値を見失って足元が揺らぐことは無かった。
それはとても惨めで卑しい感情かもしれないけれど俺はアリオスを必要としている。
「勿論セレストが嫌だった訳じゃないの。寧ろ結婚相手としては一番良いと思った」
「俺もだよ、アイリーン」
「父の再婚が原因で婚約解消されちゃったけどね。それは仕方ないと思う」
貴族って体面が何よりも大切でしょう。そう笑う彼女は疲れた目をしていた。
俺も婚約解消はショックだったけれど、アイリーンの心労はそれ以上だっただろう。
だって俺との婚約を解消した後も原因は消えてくれないのだから。
「私だってあの人たちと家族でいるのは無理だった。だから家を出たの」
「そうなのか……生活費とかは大丈夫なのか?」
「うん。セシリアが援助してくれたから」
「セシリアが?」
確かに妹ならアイリーンを応援するだろう。
しかしいつ援助が出来たのだろう。
俺が首を傾げてるとアイリーンがクスクスと笑った。
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