女運の悪い悪役令息が不憫過ぎるので構ってみたら懐かれた件

砂礫レキ

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 ディエはイオンの婚約者で順当にいけば公爵夫人になる。
 そんな人物に迫られましたなんて軽々しく口に出さないで欲しい。

 更にディエは保身の為なら平気で嘘を吐く。
 自分が不利になったら俺たちが無理やりディエに迫ったと事実改ざんしてイオンに言いつけるのは確定だ。
 実際俺はそうされた。
 恐る恐る執事の反応を見る。彼は驚くこともせず頷いた。

「はい、存じ上げております」
「えっ……」
「ディエ嬢が坊ちゃまとの婚約に乗り気でないのは誰の目にも明らかですから」

 深々と溜息を吐く老執事にかける言葉は見つからない。

「ゴールディング家の支援が無ければ彼女もその父親も毎日の食事にも困るでしょう」 
「それは……」

 ディエの父親は戦争で後遺症を負いまともに歩けなくなった。
 だから騎士を辞めることになりずっと酒浸りだ。
 大の男が働かず酒を飲んでずっと暮らしていけるような国ではない。

「下手したら娼館行きも有り得るだろうな」
「ポプラ!」

 容赦なく残酷なことを言う彼に思わず声を荒げる。

「彼女がされたのは、娼館に売られるのと貴族に売られるのとどっちがマシかって話だろ」

 そう言われるとディエが酷く気の毒に思えてしまう。実際同情すべき境遇ではあるのだ。
 それはそれとして俺やポプラを逆恨みや保身で陥れたことは許せないので色々複雑な気持ちになるが。

 可哀想な境遇の人間が皆同情しやすい善良な性格ではない。
 当たり前の事実だが気持ちの置き所には困る。

「……ディエ嬢の父上と先代の公爵様は身分差はあれど親しく、その子供たちは幼馴染のような間柄でした」

 何かを懐かしむような顔で老執事が呟く。俺は目を見開いた。
 イオンとディエが幼馴染とか初耳だ。 
 ゲームの「恋と騎士と冒険と」の設定にも記載されて無かったと思う。

「子供の頃は本当に仲のいい二人でした。ですが二人とも別人のように変わってしまった……」

 ディエにベタ惚れのイオンは兎も角、ディエはイオンに対し基本余所余所しい塩対応を貫いている筈だ。
 幼馴染で過去仲が良かった相手への態度ではない。
 ディエは没落した自分を買うような形で婚約したのが許せないのかもしれない。
 だとしても二人の関係に幼馴染が加わると違和感が隠せなかった。

「まあ環境が変われば人間も変わるだろ」

 あっさりとポプラが結論付ける。

「……そうかもしれないな」
「それよりディエが嘘ついてまで又太らせようとしてるのを疑った方が良いぜ」

 絶対何か企んでいる。彼女に陥れられた経験のあるポプラの言葉は重い。
 俺も頷いた。太った姿が素敵だなんて絶対ディエは思っていない。

 それに前世推理小説で似たような話を見たことがあることを思い出した。
 夫に高カロリーの物を食べさせ続け早死にさせようとする妻の話だ。
 ただこの世界の住人がそういう発想をするのかは疑わしい。
 太り過ぎると健康に悪いという発想自体がまだ周知されていない筈なので。

 まともに動けなかったりウェストの細いいドレスを着こなせないとかださいよね位の認識だ。
 このままイオンがリバウンドして成人病にでもなったら重度の肥満の健康被害について広まるかもしれないが。

「しかし未来の公爵家当主がそこまで婚約者の言いなりなのは流石に不味くないか」

 ポプラは俺とは違う方面からディエとイオンの関係について指摘する。
 確かにそれはそうだ。

「それは御尤もです、しかし今回はイオン坊ちゃまも即婚約者に従ったという訳では無いのです」
「というと?」
「体が軽くなった快適さを知ったのかイオン坊ちゃまは、ディエ嬢の発言に落ち込んだ様子を見せても食生活を変えることはございませんでした」
「でも、先程は昔以上に食べるようになったって……?」

 俺の疑問に対し老執事は意味深に沈黙をする。
 その理由がわからずこれも黙っていると向こうから口を開いた。

「坊ちゃまが無理にでも太ろうとし始めたのは……お一人でそちらの菓子店に行った日からです」
「え……」
「あの日、いったい何があったのですか?」

 そう尋ねられ、俺の首を冷たい汗が伝った。

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