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謎の青年に話しかけられ肩を叩かれ、そして目が覚めた。
イオンが死ぬのが嫌なら助けてやれと言われて。
「アリオ、気が付いたのか?!」
濡れたタオルを手にしたポプラが扉を開いて驚いた声を上げる。
周囲を見渡すと彼の寝室だと理解出来た。何回か泊ったことがある。
いつも彼は床で寝て俺は客だからとベッドだった。今みたいに。
「うん、ごめん。俺どれぐらい気絶してた?」
「一時間ぐらいしか経ってないよ。医者呼ぶか?」
「大丈夫。ただの睡眠不足だから」
「寝てないのか?」
「寝てるけどそうなる時がある。前世病の症状だよ」
俺は一時間ほど気絶していたらしい。予想より短時間でホッとする。
そういえば先程はイオンが死ぬ光景を見なかった。
だから悪夢を見た後特有の気が塞ぐ感覚も無い。
寧ろ家を出るよりもずっと楽な気分だ。
何というかぐっすり眠った後みたいな意欲がわく。
「なら家帰るか? このまま寝ててもいいけど」
「いや、家に帰る。それよりゴールディング家の執事の人は?」
彼との会話の途中で俺は気を失ったのだ。
質問するとポプラは渋面になった。
「追い出そうとしたのに粘ってまだいるよ。医者代と言って金渡そうとしてくるし」
「何であの人が金出そうとするんだよ」
「具合悪いのわかっていて声をかけたのに、そのことを忘れて申し訳ない謝罪したいってことらしいけど」
「律儀なのかそうでないのかわからないな……」
「まあお前が元気なら顔見せてもう関わるなって言えば終わるだろ」
それでも引き下がるなら俺が尻蹴り飛ばして追い出すし。
ポプラは笑顔を浮かべ言う。
スマートな優男の外見なのにちょくちょく発言が荒っぽい。元ガキ大将の名残が見え隠れする。
俺は頷いてベッドから降りた。ふらついたりもしない。寧ろ今からランニングぐらいできそうだ。
配達の仕事があるので体調が良好なのは有難い。
もし夢の中の謎の人物が理由なら毎日夢に出てきて欲しい。
そんな軽はずみなことを考えながら俺は幼馴染の寝室を後にした。
客間兼リビングでは老執事が肩身が狭そうに座っている。
しかし俺の姿を目にした途端安堵を浮かべた。そして凄い勢いで謝って来た。
「体調が芳しくないと知っていたのに、こちらの身勝手な要求を何度もぶつけ引き留めて申し訳御座いませんでした!」
「ああ、それはもういいです。俺も平気だって言いましたし」
よく覚えてないけど多分言ったし、言ってなくても似たようなことは口にした筈だ。
声をかけて来たこの人を追い払いたくて言ったが、発言したからには責任は生じる。
「それより、ゴールディング公爵令息と話をしてみようと思いました」
「……は?」
呆然と驚愕が入り交じった声が老執事とポプラの両者から同時に聞こえた。
そういう反応にもなるだろう。
気絶する前と全然逆のことを言っているのだから。
「でも改善するとは思わないでくださいね。人って中々変えられないですし」
夢の中の青年の台詞を思い出しながら言う。
人を変えるより自分が変わる方が楽。前世でも何回か聞いた言葉だ。
ポジティヴなのかネガティヴなのかわからない。
「はい、はい……有難うございます!!」
老執事は感激した様子を隠しもせず何度も振り子みたいに俺に頭を下げた。
この人なりに悩み続けて膠着していたのかなと単純な俺は思う。
要望を受け入れると現金な物で彼はさっさと帰って行った。
まあ打ち合わせは後日改めてと俺が言ったせいもある。
流石に今日いきなりは無理だ。配達の仕事もあるし。
姉と父と、そして後ろで険しい顔をしているポプラを納得させなければいけないし。
夢で謎の人物にアドバイスされましたとか言ったら、どんな反応をするだろう。
流石にそれを実践する勇気はなかった。きっと前世病が悪化したと思われる。
実際そうかもしれないが不思議なほど軽やかな気分だった。
イオンが死ぬのが嫌なら助けてやれと言われて。
「アリオ、気が付いたのか?!」
濡れたタオルを手にしたポプラが扉を開いて驚いた声を上げる。
周囲を見渡すと彼の寝室だと理解出来た。何回か泊ったことがある。
いつも彼は床で寝て俺は客だからとベッドだった。今みたいに。
「うん、ごめん。俺どれぐらい気絶してた?」
「一時間ぐらいしか経ってないよ。医者呼ぶか?」
「大丈夫。ただの睡眠不足だから」
「寝てないのか?」
「寝てるけどそうなる時がある。前世病の症状だよ」
俺は一時間ほど気絶していたらしい。予想より短時間でホッとする。
そういえば先程はイオンが死ぬ光景を見なかった。
だから悪夢を見た後特有の気が塞ぐ感覚も無い。
寧ろ家を出るよりもずっと楽な気分だ。
何というかぐっすり眠った後みたいな意欲がわく。
「なら家帰るか? このまま寝ててもいいけど」
「いや、家に帰る。それよりゴールディング家の執事の人は?」
彼との会話の途中で俺は気を失ったのだ。
質問するとポプラは渋面になった。
「追い出そうとしたのに粘ってまだいるよ。医者代と言って金渡そうとしてくるし」
「何であの人が金出そうとするんだよ」
「具合悪いのわかっていて声をかけたのに、そのことを忘れて申し訳ない謝罪したいってことらしいけど」
「律儀なのかそうでないのかわからないな……」
「まあお前が元気なら顔見せてもう関わるなって言えば終わるだろ」
それでも引き下がるなら俺が尻蹴り飛ばして追い出すし。
ポプラは笑顔を浮かべ言う。
スマートな優男の外見なのにちょくちょく発言が荒っぽい。元ガキ大将の名残が見え隠れする。
俺は頷いてベッドから降りた。ふらついたりもしない。寧ろ今からランニングぐらいできそうだ。
配達の仕事があるので体調が良好なのは有難い。
もし夢の中の謎の人物が理由なら毎日夢に出てきて欲しい。
そんな軽はずみなことを考えながら俺は幼馴染の寝室を後にした。
客間兼リビングでは老執事が肩身が狭そうに座っている。
しかし俺の姿を目にした途端安堵を浮かべた。そして凄い勢いで謝って来た。
「体調が芳しくないと知っていたのに、こちらの身勝手な要求を何度もぶつけ引き留めて申し訳御座いませんでした!」
「ああ、それはもういいです。俺も平気だって言いましたし」
よく覚えてないけど多分言ったし、言ってなくても似たようなことは口にした筈だ。
声をかけて来たこの人を追い払いたくて言ったが、発言したからには責任は生じる。
「それより、ゴールディング公爵令息と話をしてみようと思いました」
「……は?」
呆然と驚愕が入り交じった声が老執事とポプラの両者から同時に聞こえた。
そういう反応にもなるだろう。
気絶する前と全然逆のことを言っているのだから。
「でも改善するとは思わないでくださいね。人って中々変えられないですし」
夢の中の青年の台詞を思い出しながら言う。
人を変えるより自分が変わる方が楽。前世でも何回か聞いた言葉だ。
ポジティヴなのかネガティヴなのかわからない。
「はい、はい……有難うございます!!」
老執事は感激した様子を隠しもせず何度も振り子みたいに俺に頭を下げた。
この人なりに悩み続けて膠着していたのかなと単純な俺は思う。
要望を受け入れると現金な物で彼はさっさと帰って行った。
まあ打ち合わせは後日改めてと俺が言ったせいもある。
流石に今日いきなりは無理だ。配達の仕事もあるし。
姉と父と、そして後ろで険しい顔をしているポプラを納得させなければいけないし。
夢で謎の人物にアドバイスされましたとか言ったら、どんな反応をするだろう。
流石にそれを実践する勇気はなかった。きっと前世病が悪化したと思われる。
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