女運の悪い悪役令息が不憫過ぎるので構ってみたら懐かれた件

砂礫レキ

文字の大きさ
67 / 73

67.

しおりを挟む
「お前なんかに何が出来る。ゴールディング公爵家かかりつけの名医だって睡眠薬しか出せないというのに」
「成程。眠っている間は過食をしないからということですか」
「……よく分かったな」

 感心したように言うイオンに俺は曖昧な表情を返した。
 別にそこまで驚かれるようなことではない。俺も似たような治療をされたことがあるからだ。

 前世の記憶を取り戻した直後の俺は髪が真っ白になる程ショックを受けた。
 そんな精神が不安定だった時期に俺も一人目の医者に大量に睡眠薬を処方された。

 しかし不眠に対する治療では無くパニック症状が出た時に飲むようにという指示だった。
 父や姉にもそういう指示がされていたらしい。

 要は俺が暴れたら睡眠薬で大人しくさせるということだ。
 その治療がこの世界的に正しいのか間違ってるのか俺にはわからない。ただそれで俺の前世病は改善しなかった。
 しかしその睡眠薬は即効性の強い薬だった。つまり副作用も強いということだ。

 そしてあの頃の俺は周囲に迷惑をかけることを恐れ、少しでも狂乱に心が支配されそうになったら即薬を飲んだ。
 結果睡眠薬が手元に無いと不安になったり、逆に薬を飲まないと眠れなくなったりした。
 俺の髪は白くなっただけでなく手で掴むと大量に抜けるようになったりした。

 父が知り合いに相談しまくって他の医師を見つけなければ俺は今生きていなかったような気がする。
 少なくとも今みたいに元気に外を出歩いたり父の店の手伝いをしたりは出来なかった。

「その睡眠薬の副作用は知っていますか?」
「フクサヨウ? 何だそれは」

 初めて聞く言葉のようにイオンは聞き返す。 
 副作用という単語さえ知らないのか。俺は頭の中でどう説明すればいいのか迷った。

「効き目が早かったり強い薬はそれだけ体に大きな影響を及ぼします、良くも悪くも」
「……つまり、何が言いたい?」

 何も知らない相手に説明をするというのはこんなにも難しいのか。 
 強い薬だから使ったら駄目だなんて言えない。
 確かに俺は医師が交代して睡眠薬に依存した治療を止めてからの方が良好化はした。

 ただそれがイオンにも当てはまるかなんてわからない。

「医師からの説明は誰が受けているかお聞きしても?」
「僕だ。薬をちゃんと飲んで安静にしていれば大丈夫だと言われた」
「……他に食事についての指導は?」
「無いぞ。心に負担をかけず好きなように楽しい事をしろというのが指示だ」

 なんだか胃がモヤモヤしてきた。医者の指示は完全な間違いではないかもしれない。
 でも先程の老執事の態度を見ると、イオンの不興を買いたくないから耳障りの良い指示だけ並べたように見える。
 というかゴールディング家かかりつけの医師は心因性だと判断しているのか。
 間違ってはいないけれどここまで激痩せしているのに食事に対して口出しはしていないのか。
 そんなことを考えているとイオンはとんでもないことを言い出した。

「ああそうだ、体重がどんどん落ちているから油や砂糖の多く入った物を食べるように言われたな」
「うっそだろ」

 思わず口に出る。
 でも過食で吐いて胃が弱ってる人間に砂糖や油を沢山摂れはスパルタ過ぎないか?
 少なくとも俺が前世病で吐いたりしてた頃にそんな食事させられたら胃が荒れて更に悪化しそうだ。
 いやイオンは樽のように太れるぐらいなのだから胃が常人離れしているのかもしれない。
 俺は彼に一つ質問してみた。

「食事の後に胃がもたれて吐いたりしたことはありますか」
「もたれるとは?」
「……えぇと、胃が重くなったりムカムカして気持ち悪くなったりとかですね」
「それなら最近はずっとだ」

 駄目じゃん。俺は口に出さず思った。

「そのことを医師に報告しましたか」
「言ったさ。ならすぐ睡眠薬を飲めば良いと言われた」
「駄目じゃん!」

 今度は我慢できず叫んでしまった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

四天王一の最弱ゴブリンですが、何故か勇者に求婚されています

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
「アイツは四天王一の最弱」と呼ばれるポジションにいるゴブリンのオルディナ。 とうとう現れた勇者と対峙をしたが──なぜか求婚されていた。倒すための作戦かと思われたが、その愛おしげな瞳は嘘を言っているようには見えなくて── 「運命だ。結婚しよう」 「……敵だよ?」 「ああ。障壁は付き物だな」 勇者×ゴブリン 超短編BLです。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜

ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

処理中です...