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「お前なんかに何が出来る。ゴールディング公爵家かかりつけの名医だって睡眠薬しか出せないというのに」
「成程。眠っている間は過食をしないからということですか」
「……よく分かったな」
感心したように言うイオンに俺は曖昧な表情を返した。
別にそこまで驚かれるようなことではない。俺も似たような治療をされたことがあるからだ。
前世の記憶を取り戻した直後の俺は髪が真っ白になる程ショックを受けた。
そんな精神が不安定だった時期に俺も一人目の医者に大量に睡眠薬を処方された。
しかし不眠に対する治療では無くパニック症状が出た時に飲むようにという指示だった。
父や姉にもそういう指示がされていたらしい。
要は俺が暴れたら睡眠薬で大人しくさせるということだ。
その治療がこの世界的に正しいのか間違ってるのか俺にはわからない。ただそれで俺の前世病は改善しなかった。
しかしその睡眠薬は即効性の強い薬だった。つまり副作用も強いということだ。
そしてあの頃の俺は周囲に迷惑をかけることを恐れ、少しでも狂乱に心が支配されそうになったら即薬を飲んだ。
結果睡眠薬が手元に無いと不安になったり、逆に薬を飲まないと眠れなくなったりした。
俺の髪は白くなっただけでなく手で掴むと大量に抜けるようになったりした。
父が知り合いに相談しまくって他の医師を見つけなければ俺は今生きていなかったような気がする。
少なくとも今みたいに元気に外を出歩いたり父の店の手伝いをしたりは出来なかった。
「その睡眠薬の副作用は知っていますか?」
「フクサヨウ? 何だそれは」
初めて聞く言葉のようにイオンは聞き返す。
副作用という単語さえ知らないのか。俺は頭の中でどう説明すればいいのか迷った。
「効き目が早かったり強い薬はそれだけ体に大きな影響を及ぼします、良くも悪くも」
「……つまり、何が言いたい?」
何も知らない相手に説明をするというのはこんなにも難しいのか。
強い薬だから使ったら駄目だなんて言えない。
確かに俺は医師が交代して睡眠薬に依存した治療を止めてからの方が良好化はした。
ただそれがイオンにも当てはまるかなんてわからない。
「医師からの説明は誰が受けているかお聞きしても?」
「僕だ。薬をちゃんと飲んで安静にしていれば大丈夫だと言われた」
「……他に食事についての指導は?」
「無いぞ。心に負担をかけず好きなように楽しい事をしろというのが指示だ」
なんだか胃がモヤモヤしてきた。医者の指示は完全な間違いではないかもしれない。
でも先程の老執事の態度を見ると、イオンの不興を買いたくないから耳障りの良い指示だけ並べたように見える。
というかゴールディング家かかりつけの医師は心因性だと判断しているのか。
間違ってはいないけれどここまで激痩せしているのに食事に対して口出しはしていないのか。
そんなことを考えているとイオンはとんでもないことを言い出した。
「ああそうだ、体重がどんどん落ちているから油や砂糖の多く入った物を食べるように言われたな」
「うっそだろ」
思わず口に出る。
でも過食で吐いて胃が弱ってる人間に砂糖や油を沢山摂れはスパルタ過ぎないか?
少なくとも俺が前世病で吐いたりしてた頃にそんな食事させられたら胃が荒れて更に悪化しそうだ。
いやイオンは樽のように太れるぐらいなのだから胃が常人離れしているのかもしれない。
俺は彼に一つ質問してみた。
「食事の後に胃がもたれて吐いたりしたことはありますか」
「もたれるとは?」
「……えぇと、胃が重くなったりムカムカして気持ち悪くなったりとかですね」
「それなら最近はずっとだ」
駄目じゃん。俺は口に出さず思った。
「そのことを医師に報告しましたか」
「言ったさ。ならすぐ睡眠薬を飲めば良いと言われた」
「駄目じゃん!」
今度は我慢できず叫んでしまった。
「成程。眠っている間は過食をしないからということですか」
「……よく分かったな」
感心したように言うイオンに俺は曖昧な表情を返した。
別にそこまで驚かれるようなことではない。俺も似たような治療をされたことがあるからだ。
前世の記憶を取り戻した直後の俺は髪が真っ白になる程ショックを受けた。
そんな精神が不安定だった時期に俺も一人目の医者に大量に睡眠薬を処方された。
しかし不眠に対する治療では無くパニック症状が出た時に飲むようにという指示だった。
父や姉にもそういう指示がされていたらしい。
要は俺が暴れたら睡眠薬で大人しくさせるということだ。
その治療がこの世界的に正しいのか間違ってるのか俺にはわからない。ただそれで俺の前世病は改善しなかった。
しかしその睡眠薬は即効性の強い薬だった。つまり副作用も強いということだ。
そしてあの頃の俺は周囲に迷惑をかけることを恐れ、少しでも狂乱に心が支配されそうになったら即薬を飲んだ。
結果睡眠薬が手元に無いと不安になったり、逆に薬を飲まないと眠れなくなったりした。
俺の髪は白くなっただけでなく手で掴むと大量に抜けるようになったりした。
父が知り合いに相談しまくって他の医師を見つけなければ俺は今生きていなかったような気がする。
少なくとも今みたいに元気に外を出歩いたり父の店の手伝いをしたりは出来なかった。
「その睡眠薬の副作用は知っていますか?」
「フクサヨウ? 何だそれは」
初めて聞く言葉のようにイオンは聞き返す。
副作用という単語さえ知らないのか。俺は頭の中でどう説明すればいいのか迷った。
「効き目が早かったり強い薬はそれだけ体に大きな影響を及ぼします、良くも悪くも」
「……つまり、何が言いたい?」
何も知らない相手に説明をするというのはこんなにも難しいのか。
強い薬だから使ったら駄目だなんて言えない。
確かに俺は医師が交代して睡眠薬に依存した治療を止めてからの方が良好化はした。
ただそれがイオンにも当てはまるかなんてわからない。
「医師からの説明は誰が受けているかお聞きしても?」
「僕だ。薬をちゃんと飲んで安静にしていれば大丈夫だと言われた」
「……他に食事についての指導は?」
「無いぞ。心に負担をかけず好きなように楽しい事をしろというのが指示だ」
なんだか胃がモヤモヤしてきた。医者の指示は完全な間違いではないかもしれない。
でも先程の老執事の態度を見ると、イオンの不興を買いたくないから耳障りの良い指示だけ並べたように見える。
というかゴールディング家かかりつけの医師は心因性だと判断しているのか。
間違ってはいないけれどここまで激痩せしているのに食事に対して口出しはしていないのか。
そんなことを考えているとイオンはとんでもないことを言い出した。
「ああそうだ、体重がどんどん落ちているから油や砂糖の多く入った物を食べるように言われたな」
「うっそだろ」
思わず口に出る。
でも過食で吐いて胃が弱ってる人間に砂糖や油を沢山摂れはスパルタ過ぎないか?
少なくとも俺が前世病で吐いたりしてた頃にそんな食事させられたら胃が荒れて更に悪化しそうだ。
いやイオンは樽のように太れるぐらいなのだから胃が常人離れしているのかもしれない。
俺は彼に一つ質問してみた。
「食事の後に胃がもたれて吐いたりしたことはありますか」
「もたれるとは?」
「……えぇと、胃が重くなったりムカムカして気持ち悪くなったりとかですね」
「それなら最近はずっとだ」
駄目じゃん。俺は口に出さず思った。
「そのことを医師に報告しましたか」
「言ったさ。ならすぐ睡眠薬を飲めば良いと言われた」
「駄目じゃん!」
今度は我慢できず叫んでしまった。
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