女運の悪い悪役令息が不憫過ぎるので構ってみたら懐かれた件

砂礫レキ

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 医者の件について、実は提案できることがある。
 俺が前世病の治療と今でも定期検診を受けている町医者がいる。彼も巷では名医と言われている。

 精神方面の不調についても他の医者より詳しいという触れ込みだった。
 だからこそ前世病についての知識も深く、改善率も高いという話だった
 少なくとも一番目の医者に治療されていた時よりは俺の前世病は改善した。

 彼にイオンを診察して貰う。前世で言うセカンドオピニオンという奴だ。
 ただ最大の問題は別にイオンと仲良くない俺が薦めて診察を受けてくれるかという事だ。
 立場を逆にして考えると難しい。何より胡散臭い。
 医者の心当たりが居ないかと訊かれた訳でもないのに。

 それに医者側も突然大貴族の令息を診察しろと言われても困ると思う。
 しかもイオンの家には指定の主治医がいるようだし。患者の奪い合いでトラブルになるかもしれない。
 これは提案するにしても、もう少し考える必要がある。町医者側にも確認した方が良い。

 ただこれだけは言っておかなきゃいけない。

「吐いた後に睡眠薬飲む場合ですけれど、もしどうしても飲まなければいけない場合眠った後も誰かに見守ってもらってください」

 比較的強い口調で言ってしまったがこれは譲れない。
 無礼だと咎めることも無くイオンは首を傾げた。

「何故だ」
「……知り合いの祖父が寝た切りだったんですけど、吐いたものが喉に詰まって窒息しかけたことがあるらしいです」 
「そんなことが……」

 本当は俺の前世の祖父だ。そして俺は家事をしていて気づくのが遅れた。
 その時は慌てて救急車を呼んで救命して貰ったが俺は姉のレッスン見学から帰宅した父に祖父を殺す気かと殴られた。
 嫌な思い出だ。そして改めて嫌な家族だ。
 そのお陰で前世の血縁に対する愛着も薄く前世病の症状も比較的軽かったのは皮肉だが。 

「そんな話は初めて聞いたが……」
「可能ならで構わないです。俺は医師では無いので」

 そして彼の家族でも無いし友達でもない。この距離感を何故かもどかしく感じた。
 俺の突き放すような言葉にイオンは少し考え老執事へ向き直る。

「まあ別にそれぐらいなら大した手間じゃない。……そうだな?」
「はっ」

 イオンの指示に老執事は頭を下げたまま即答する。
 その珍妙さに気付いたのかイオンがすぐにさっさと立てと老執事に命じた。

 よく考えたらこの国では室内でも土足だ。今いるイオンの寝室だってそうだ。
 そう考えると土下座なんて良く出来るなと思ったけれど、だからこそ謝罪の意思が強く伝わるのかもしれないと考えたりもした。
 今回の老執事の件に関しては土下座するようなことをするなと思うが。

 彼のしでかしたことを考えるとやはり俺のかかりつけ医にも予め話を通しておこうと改めて思った。
 事前相談無しはやっぱり駄目だ。
 俺が屋敷から出た後のことを考えているとイオンの青い瞳がこちらを向いた。

 扉を開けた時よりは生命力を感じる。
 もしかしてあの時も直前まで睡眠薬で眠っていたのだろうか。
 よくよく観察すると痩せて顔色も悪いし頬も少しこけているが肌自体はむくんでいる気がする。
 痩せたことばかりに意識が向いて今まで気づかなかった。
 俺の視線に気づいたのかイオンが自分の頬に手を当て言う。痩せたことで彼の指が長いということに俺は気づいた。

「……睡眠薬の効き目が強いから肌がこうなるらしい。だが飲むのを止めればすぐ治るから問題無いと言われた」
「それが副作用って言うんですよ」 

 俺は医者じゃないから断言出来ないけど、何というか新しい情報が増える程ゴールディング家の主治医に対し不安になる。
 この世界にインターネットがあったらなと思ってしまった。そんなものがあるならもっと医療技術だって発達してるだろうけど。

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