69 / 73
69.
しおりを挟む
医者の件について、実は提案できることがある。
俺が前世病の治療と今でも定期検診を受けている町医者がいる。彼も巷では名医と言われている。
精神方面の不調についても他の医者より詳しいという触れ込みだった。
だからこそ前世病についての知識も深く、改善率も高いという話だった
少なくとも一番目の医者に治療されていた時よりは俺の前世病は改善した。
彼にイオンを診察して貰う。前世で言うセカンドオピニオンという奴だ。
ただ最大の問題は別にイオンと仲良くない俺が薦めて診察を受けてくれるかという事だ。
立場を逆にして考えると難しい。何より胡散臭い。
医者の心当たりが居ないかと訊かれた訳でもないのに。
それに医者側も突然大貴族の令息を診察しろと言われても困ると思う。
しかもイオンの家には指定の主治医がいるようだし。患者の奪い合いでトラブルになるかもしれない。
これは提案するにしても、もう少し考える必要がある。町医者側にも確認した方が良い。
ただこれだけは言っておかなきゃいけない。
「吐いた後に睡眠薬飲む場合ですけれど、もしどうしても飲まなければいけない場合眠った後も誰かに見守ってもらってください」
比較的強い口調で言ってしまったがこれは譲れない。
無礼だと咎めることも無くイオンは首を傾げた。
「何故だ」
「……知り合いの祖父が寝た切りだったんですけど、吐いたものが喉に詰まって窒息しかけたことがあるらしいです」
「そんなことが……」
本当は俺の前世の祖父だ。そして俺は家事をしていて気づくのが遅れた。
その時は慌てて救急車を呼んで救命して貰ったが俺は姉のレッスン見学から帰宅した父に祖父を殺す気かと殴られた。
嫌な思い出だ。そして改めて嫌な家族だ。
そのお陰で前世の血縁に対する愛着も薄く前世病の症状も比較的軽かったのは皮肉だが。
「そんな話は初めて聞いたが……」
「可能ならで構わないです。俺は医師では無いので」
そして彼の家族でも無いし友達でもない。この距離感を何故かもどかしく感じた。
俺の突き放すような言葉にイオンは少し考え老執事へ向き直る。
「まあ別にそれぐらいなら大した手間じゃない。……そうだな?」
「はっ」
イオンの指示に老執事は頭を下げたまま即答する。
その珍妙さに気付いたのかイオンがすぐにさっさと立てと老執事に命じた。
よく考えたらこの国では室内でも土足だ。今いるイオンの寝室だってそうだ。
そう考えると土下座なんて良く出来るなと思ったけれど、だからこそ謝罪の意思が強く伝わるのかもしれないと考えたりもした。
今回の老執事の件に関しては土下座するようなことをするなと思うが。
彼のしでかしたことを考えるとやはり俺のかかりつけ医にも予め話を通しておこうと改めて思った。
事前相談無しはやっぱり駄目だ。
俺が屋敷から出た後のことを考えているとイオンの青い瞳がこちらを向いた。
扉を開けた時よりは生命力を感じる。
もしかしてあの時も直前まで睡眠薬で眠っていたのだろうか。
よくよく観察すると痩せて顔色も悪いし頬も少しこけているが肌自体はむくんでいる気がする。
痩せたことばかりに意識が向いて今まで気づかなかった。
俺の視線に気づいたのかイオンが自分の頬に手を当て言う。痩せたことで彼の指が長いということに俺は気づいた。
「……睡眠薬の効き目が強いから肌がこうなるらしい。だが飲むのを止めればすぐ治るから問題無いと言われた」
「それが副作用って言うんですよ」
俺は医者じゃないから断言出来ないけど、何というか新しい情報が増える程ゴールディング家の主治医に対し不安になる。
この世界にインターネットがあったらなと思ってしまった。そんなものがあるならもっと医療技術だって発達してるだろうけど。
俺が前世病の治療と今でも定期検診を受けている町医者がいる。彼も巷では名医と言われている。
精神方面の不調についても他の医者より詳しいという触れ込みだった。
だからこそ前世病についての知識も深く、改善率も高いという話だった
少なくとも一番目の医者に治療されていた時よりは俺の前世病は改善した。
彼にイオンを診察して貰う。前世で言うセカンドオピニオンという奴だ。
ただ最大の問題は別にイオンと仲良くない俺が薦めて診察を受けてくれるかという事だ。
立場を逆にして考えると難しい。何より胡散臭い。
医者の心当たりが居ないかと訊かれた訳でもないのに。
それに医者側も突然大貴族の令息を診察しろと言われても困ると思う。
しかもイオンの家には指定の主治医がいるようだし。患者の奪い合いでトラブルになるかもしれない。
これは提案するにしても、もう少し考える必要がある。町医者側にも確認した方が良い。
ただこれだけは言っておかなきゃいけない。
「吐いた後に睡眠薬飲む場合ですけれど、もしどうしても飲まなければいけない場合眠った後も誰かに見守ってもらってください」
比較的強い口調で言ってしまったがこれは譲れない。
無礼だと咎めることも無くイオンは首を傾げた。
「何故だ」
「……知り合いの祖父が寝た切りだったんですけど、吐いたものが喉に詰まって窒息しかけたことがあるらしいです」
「そんなことが……」
本当は俺の前世の祖父だ。そして俺は家事をしていて気づくのが遅れた。
その時は慌てて救急車を呼んで救命して貰ったが俺は姉のレッスン見学から帰宅した父に祖父を殺す気かと殴られた。
嫌な思い出だ。そして改めて嫌な家族だ。
そのお陰で前世の血縁に対する愛着も薄く前世病の症状も比較的軽かったのは皮肉だが。
「そんな話は初めて聞いたが……」
「可能ならで構わないです。俺は医師では無いので」
そして彼の家族でも無いし友達でもない。この距離感を何故かもどかしく感じた。
俺の突き放すような言葉にイオンは少し考え老執事へ向き直る。
「まあ別にそれぐらいなら大した手間じゃない。……そうだな?」
「はっ」
イオンの指示に老執事は頭を下げたまま即答する。
その珍妙さに気付いたのかイオンがすぐにさっさと立てと老執事に命じた。
よく考えたらこの国では室内でも土足だ。今いるイオンの寝室だってそうだ。
そう考えると土下座なんて良く出来るなと思ったけれど、だからこそ謝罪の意思が強く伝わるのかもしれないと考えたりもした。
今回の老執事の件に関しては土下座するようなことをするなと思うが。
彼のしでかしたことを考えるとやはり俺のかかりつけ医にも予め話を通しておこうと改めて思った。
事前相談無しはやっぱり駄目だ。
俺が屋敷から出た後のことを考えているとイオンの青い瞳がこちらを向いた。
扉を開けた時よりは生命力を感じる。
もしかしてあの時も直前まで睡眠薬で眠っていたのだろうか。
よくよく観察すると痩せて顔色も悪いし頬も少しこけているが肌自体はむくんでいる気がする。
痩せたことばかりに意識が向いて今まで気づかなかった。
俺の視線に気づいたのかイオンが自分の頬に手を当て言う。痩せたことで彼の指が長いということに俺は気づいた。
「……睡眠薬の効き目が強いから肌がこうなるらしい。だが飲むのを止めればすぐ治るから問題無いと言われた」
「それが副作用って言うんですよ」
俺は医者じゃないから断言出来ないけど、何というか新しい情報が増える程ゴールディング家の主治医に対し不安になる。
この世界にインターネットがあったらなと思ってしまった。そんなものがあるならもっと医療技術だって発達してるだろうけど。
156
あなたにおすすめの小説
四天王一の最弱ゴブリンですが、何故か勇者に求婚されています
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
「アイツは四天王一の最弱」と呼ばれるポジションにいるゴブリンのオルディナ。
とうとう現れた勇者と対峙をしたが──なぜか求婚されていた。倒すための作戦かと思われたが、その愛おしげな瞳は嘘を言っているようには見えなくて──
「運命だ。結婚しよう」
「……敵だよ?」
「ああ。障壁は付き物だな」
勇者×ゴブリン
超短編BLです。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される
あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。
推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜
ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。
――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん!
ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。
これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…?
ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる