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「そういえば、聞き忘れてたな」
唐突にイオンがそんなことを言う。
そして俺を見つめながら言った。
「謝罪に来たわけじゃないということは……僕が無様に弱っているのを笑いに来たのか?」
「俺はそんな悪趣味じゃありません」
隈の目立つ目でこちらを見上げながら言うイオンに即座に返した。そんなことしたら俺の方が悪役だ。
いやケーキを床に落とした直後なら、ざまあみろと思ってしまったかもしれない。でも今は無理だ。
理由がただの食欲だとしても彼が落ちたケーキを残さず全部食べたと知ってしまったからた。
「……だろうな。だったら尚更何しに来たんだ」
イオンは疲れたようにそう口にした。良く見ると口端が微妙に笑っている。何が楽しいのか理解できない。
ただ彼は怒る時も笑う時も喧しいタイプだと思っていた。
そんな体力も気力も無いのかもしれない。傲慢に高笑いしたり癇癪玉のように激怒していた彼と今の病人然とした彼はまるで別の人間だ。
「ラルズにでも何か吹き込まれたのか?」
「俺と話した日から……イオン様の体調が優れないと伺いました」
そう口にすると目の前の青年は馬鹿にしたように笑った。自嘲かもしれない。
「俺がお前に冷たくされたせいでこうなったと? 平民風情が図に乗るなよ」
相変わらずの悪役貴族仕草だ。これだけ弱っていてもそれが出来るのはある意味感心する。
イオンがここまでボロボロになってなかったら多分俺は笑顔で退室して二度とゴールディング邸に近づかなかっただろう。
でも今それをすると後味の悪いことになりそうだ。大金持ちの一人息子で立派な寝室に何人も使用人がいる。
医者だってこの国基準では名医が担当しているだろう。それなのにここまで体調を崩しているのだ。しかも精神的な理由で。
イオンは否定しているが多分それに俺は関わっている。俺の言葉で彼は急激に痩せ、そして同じように過食に走った。
何故そこまで俺の言葉に影響されたのかはわからないけれど。
「……じゃあ、今のままの自分で良いんですか?」
「何?」
「今のイオン様ってどれだけ食べても満足できなくて、吐いても食べ続けてしまっているんですよね?」
「……そんなことまで話しているのか」
イオンが老執事を睨みつける。それを庇う事もせず俺は言った。
「理由がどうでも、俺が注文断った日からそうなったのが嫌なんです」
貴方の事が心配だからとかそういう綺麗な言葉は出てこなかった。
会話したのが数度だけの俺にそこまで心配されてもイオンも不気味に思うだろうし。
イオンに親切にして貰ったとか恩が有るなら別だけど今の時点でそんなことは無い。
寧ろ迷惑な思いばかりだ。それでイオン様を元気にしてあげたいんですとか言えるのは聖女とか聖人の類だろう。
「成程、俺に何かあったら店が潰されると思ったからか……庶民らしい保身だな」
納得したようにイオンが言う。相変わらず一言多い。
「保身というか……貴方に死んで欲しくないだけです」
口にした後にもう少し言葉を選ぶべきだと思ったが、イオンは気分を害した様子も無かった。
病気って人間を変えるんだな。自分も前世病で別人になったことを棚に上げそう思う。
「お人好しだな。お前の父親が作った菓子を俺は台無しにしたというのに」
「お人好しというか……」
先程は否定したが保身という指摘はある意味当たっている。
俺はイオンに死んで欲しくないのだ。ディエに捨てられ転落死するイオンが前世の自分の死に様と重なるから。
そう考えて内心で疑問が浮かぶ。だったらそれ以外の死に方なら別に構わないのでは無いかと。
しかしそれでは流石に人でなし過ぎるだろうと考え直した。中途半端な関係だがここまで関わった相手が若い身空で急逝するのは後味が悪い。
だから彼の肩を死神が叩いてると思ってしまったら、出来る範囲でその手をどかしてやりたいと思うのはおかしくはない。
俺の知ったイオンは傲慢だし権力を悪用するけれど根っからの悪人では無かった。
唐突にイオンがそんなことを言う。
そして俺を見つめながら言った。
「謝罪に来たわけじゃないということは……僕が無様に弱っているのを笑いに来たのか?」
「俺はそんな悪趣味じゃありません」
隈の目立つ目でこちらを見上げながら言うイオンに即座に返した。そんなことしたら俺の方が悪役だ。
いやケーキを床に落とした直後なら、ざまあみろと思ってしまったかもしれない。でも今は無理だ。
理由がただの食欲だとしても彼が落ちたケーキを残さず全部食べたと知ってしまったからた。
「……だろうな。だったら尚更何しに来たんだ」
イオンは疲れたようにそう口にした。良く見ると口端が微妙に笑っている。何が楽しいのか理解できない。
ただ彼は怒る時も笑う時も喧しいタイプだと思っていた。
そんな体力も気力も無いのかもしれない。傲慢に高笑いしたり癇癪玉のように激怒していた彼と今の病人然とした彼はまるで別の人間だ。
「ラルズにでも何か吹き込まれたのか?」
「俺と話した日から……イオン様の体調が優れないと伺いました」
そう口にすると目の前の青年は馬鹿にしたように笑った。自嘲かもしれない。
「俺がお前に冷たくされたせいでこうなったと? 平民風情が図に乗るなよ」
相変わらずの悪役貴族仕草だ。これだけ弱っていてもそれが出来るのはある意味感心する。
イオンがここまでボロボロになってなかったら多分俺は笑顔で退室して二度とゴールディング邸に近づかなかっただろう。
でも今それをすると後味の悪いことになりそうだ。大金持ちの一人息子で立派な寝室に何人も使用人がいる。
医者だってこの国基準では名医が担当しているだろう。それなのにここまで体調を崩しているのだ。しかも精神的な理由で。
イオンは否定しているが多分それに俺は関わっている。俺の言葉で彼は急激に痩せ、そして同じように過食に走った。
何故そこまで俺の言葉に影響されたのかはわからないけれど。
「……じゃあ、今のままの自分で良いんですか?」
「何?」
「今のイオン様ってどれだけ食べても満足できなくて、吐いても食べ続けてしまっているんですよね?」
「……そんなことまで話しているのか」
イオンが老執事を睨みつける。それを庇う事もせず俺は言った。
「理由がどうでも、俺が注文断った日からそうなったのが嫌なんです」
貴方の事が心配だからとかそういう綺麗な言葉は出てこなかった。
会話したのが数度だけの俺にそこまで心配されてもイオンも不気味に思うだろうし。
イオンに親切にして貰ったとか恩が有るなら別だけど今の時点でそんなことは無い。
寧ろ迷惑な思いばかりだ。それでイオン様を元気にしてあげたいんですとか言えるのは聖女とか聖人の類だろう。
「成程、俺に何かあったら店が潰されると思ったからか……庶民らしい保身だな」
納得したようにイオンが言う。相変わらず一言多い。
「保身というか……貴方に死んで欲しくないだけです」
口にした後にもう少し言葉を選ぶべきだと思ったが、イオンは気分を害した様子も無かった。
病気って人間を変えるんだな。自分も前世病で別人になったことを棚に上げそう思う。
「お人好しだな。お前の父親が作った菓子を俺は台無しにしたというのに」
「お人好しというか……」
先程は否定したが保身という指摘はある意味当たっている。
俺はイオンに死んで欲しくないのだ。ディエに捨てられ転落死するイオンが前世の自分の死に様と重なるから。
そう考えて内心で疑問が浮かぶ。だったらそれ以外の死に方なら別に構わないのでは無いかと。
しかしそれでは流石に人でなし過ぎるだろうと考え直した。中途半端な関係だがここまで関わった相手が若い身空で急逝するのは後味が悪い。
だから彼の肩を死神が叩いてると思ってしまったら、出来る範囲でその手をどかしてやりたいと思うのはおかしくはない。
俺の知ったイオンは傲慢だし権力を悪用するけれど根っからの悪人では無かった。
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