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4.ゲームヒロインと噛ませ犬の登場
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『いやっ、止めてください!誰か……助けてぇ!』
声として聞こえた筈の悲鳴が突如脳内で文字として再生される。
同時にモヒカンのチンピラたちに掴まれる少女の姿も頭に浮かんだ。
まるでゲームムービーのようだ。
「おいっ、どうしたアリオ!」
ポプラの声と肩を強く掴まれる感覚で現実に引き戻される。
垂れ目が心配そうな光を浮かべこちらを見ていた。
「お前急に黙ったかと思えば真っ青な顔になって…もしかして前世痛か?」
気遣うように言われ俺は首を振った。
前世痛とは俺のように前世の記憶を思い出した人間が起こすパニック症状のことだ。
まるで酷い頭痛に苦しむような様子からそう言われるらしい。
恐らく過去のトラウマを思い出してパニックになっているのがそう見えているのだ。
「違うと思うけど……今、女の子の悲鳴が聞こえなかったか?」
「悲鳴? 俺は聞こえなかったけど……」
不思議そうに答えるポプラに俺はわかったと答えた。
ならさっきのは幻聴の可能性が高い。
ポプラに傭兵の話をされゲーム主人公のことを思い出した。
結果ゲーム冒頭のイベントを思い出したのだろう。
先程見えたのは「恋と騎士と冒険と」で主人公が入国して目にする光景だ。
港でメインヒロインがチンピラに絡まれている。
それを助ければそのヒロインに礼を言われ友達になれる。無視をすると嫌われ絶対恋愛関係にはならない。
「おい、本当に大丈夫かよ。家まで送ってやろうか」
顔を覗き込むようにして言われ再び現実に戻る。
ゲーム内容を思い出し無言でいたせいか又ポプラを不安にさせてしまったようだ。
「大丈夫だよ、ポプラは店番があるだろ。子供じゃないんだから一人で帰れる」
「……絶対寄り道せず真っ直ぐ帰れよ」
まるでお使いへ出す子供に言い聞かすように告げられ俺は少し心外な気持ちになりながら彼のいる花屋を後にした。
□□□
「……そして今、こんなところに居るんだけどな」
ごめん、ポプラ。
俺は心の中で友人に謝りながら潮の匂いのする風に吹かれていた。
王国の出入り口、デュノス港。
ポプラの花屋から三十分程歩くと到着するそこは実家であるブルーム菓子店は逆の方角にある。
国外に知り合いもおらず、国外に出る予定も無い俺がここに来る理由は無い。
前世の記憶を取り戻しこの世界が「恋と騎士と冒険と」と同じでは無いかと疑いを抱いた当初は頻繁に訪れていた。
ゲームの主人公が現れるのでは無いかと思い、しかし結局見つからなかった。
そして俺はこの世界がゲームと同じでも現実だと受け入れることを決め、この港に来ることは無かった。
今日久し振りに潮風に吹かれる気分になったのは先程浮かんだ光景のせいだ。
チンピラに絡まれるヒロイン。ゲームならその場面に主人公が通りがかる。
俺はきょろきょろと周囲を見渡した。観光客に港で働く役人や漁師と猫とカモメ。
そしてポプラが言っていたように外国人の傭兵とわかる武装した男たち。
主人公らしき黒髪の青年は見当たらない。
けれどその代わりに別の人物を見つけた。
人混みの中だろうと一目でわかるピンク色の髪。
それはまるで私はその他大勢とは違う特別な存在ですと主張しているよう見える。
実際特別な存在なのだ。彼女は「恋と騎士と冒険と」のパッケージを飾るメインヒロインなのだから。
「……ディエ、本当にこの世界に居たのか」
小声で呟く。十八年間この街で生きて来たが初めてその姿を見た。
セミロングの髪を花柄の髪飾りで止めて、カミツレ学園高等部の制服を着ている。
制服姿の少女が大人ばかりの港に居るので余計に目立つ。でも目立っていいのだ。
彼女はヒロインなのだから。
じっと見ているとまるで昔読んだ本を読み返すみたいに色々思い出した。
ディエは舞台女優を目指す女の子だ。
でも父親が大怪我をして仕事を辞めてから貧乏暮らしになった。
何とか学校には通えているけれど贅沢など出来ず、放課後はアルバイト三昧。
当然女優になる為の歌や演技のレッスンをする暇はない。
だが彼女の生活には又転機が訪れる。
名門貴族の息子に一目惚れ婚約を条件に多額の支援を受けられるのだ。
結果演劇部での活動が出来るようになり、レッスンの時間を得ることが出来た。
でもディエは貴族の息子を愛しているわけでは無い。
だから誰かが自分をこの暮らしから連れ出して欲しいと港を散歩するのが日課なのだ。
何故か今まで一度もバッティングしたことは無いけれど。時間帯が合わなかったのかもしれない。
そして彼女を遠くから見守ってると、もう一人目立つ存在がいるのに気づいた。
港にある大きなコンテナの陰に全く隠れてないその姿。
真っ白なタキシードっぽい衣装を着た肉達磨。
恐らくオーダーメイドだと思われる服がミチミチと悲鳴を上げてそうなのは体重が増加したからだろう。
「あいつは……確か、ディエの婚約者で、白豚……じゃなく、イオンだっけか?」
時折夢に見る悪役令息の名を俺は数十年ぶりに思い出した。
ディエと金の力で強引に婚約した名門貴族の甘やかされた一人息子。
そして主人公がディエと恋人になったら死ぬ運命の噛ませ犬である。プレイヤーからは白豚貴族と呼ばれていた。
声として聞こえた筈の悲鳴が突如脳内で文字として再生される。
同時にモヒカンのチンピラたちに掴まれる少女の姿も頭に浮かんだ。
まるでゲームムービーのようだ。
「おいっ、どうしたアリオ!」
ポプラの声と肩を強く掴まれる感覚で現実に引き戻される。
垂れ目が心配そうな光を浮かべこちらを見ていた。
「お前急に黙ったかと思えば真っ青な顔になって…もしかして前世痛か?」
気遣うように言われ俺は首を振った。
前世痛とは俺のように前世の記憶を思い出した人間が起こすパニック症状のことだ。
まるで酷い頭痛に苦しむような様子からそう言われるらしい。
恐らく過去のトラウマを思い出してパニックになっているのがそう見えているのだ。
「違うと思うけど……今、女の子の悲鳴が聞こえなかったか?」
「悲鳴? 俺は聞こえなかったけど……」
不思議そうに答えるポプラに俺はわかったと答えた。
ならさっきのは幻聴の可能性が高い。
ポプラに傭兵の話をされゲーム主人公のことを思い出した。
結果ゲーム冒頭のイベントを思い出したのだろう。
先程見えたのは「恋と騎士と冒険と」で主人公が入国して目にする光景だ。
港でメインヒロインがチンピラに絡まれている。
それを助ければそのヒロインに礼を言われ友達になれる。無視をすると嫌われ絶対恋愛関係にはならない。
「おい、本当に大丈夫かよ。家まで送ってやろうか」
顔を覗き込むようにして言われ再び現実に戻る。
ゲーム内容を思い出し無言でいたせいか又ポプラを不安にさせてしまったようだ。
「大丈夫だよ、ポプラは店番があるだろ。子供じゃないんだから一人で帰れる」
「……絶対寄り道せず真っ直ぐ帰れよ」
まるでお使いへ出す子供に言い聞かすように告げられ俺は少し心外な気持ちになりながら彼のいる花屋を後にした。
□□□
「……そして今、こんなところに居るんだけどな」
ごめん、ポプラ。
俺は心の中で友人に謝りながら潮の匂いのする風に吹かれていた。
王国の出入り口、デュノス港。
ポプラの花屋から三十分程歩くと到着するそこは実家であるブルーム菓子店は逆の方角にある。
国外に知り合いもおらず、国外に出る予定も無い俺がここに来る理由は無い。
前世の記憶を取り戻しこの世界が「恋と騎士と冒険と」と同じでは無いかと疑いを抱いた当初は頻繁に訪れていた。
ゲームの主人公が現れるのでは無いかと思い、しかし結局見つからなかった。
そして俺はこの世界がゲームと同じでも現実だと受け入れることを決め、この港に来ることは無かった。
今日久し振りに潮風に吹かれる気分になったのは先程浮かんだ光景のせいだ。
チンピラに絡まれるヒロイン。ゲームならその場面に主人公が通りがかる。
俺はきょろきょろと周囲を見渡した。観光客に港で働く役人や漁師と猫とカモメ。
そしてポプラが言っていたように外国人の傭兵とわかる武装した男たち。
主人公らしき黒髪の青年は見当たらない。
けれどその代わりに別の人物を見つけた。
人混みの中だろうと一目でわかるピンク色の髪。
それはまるで私はその他大勢とは違う特別な存在ですと主張しているよう見える。
実際特別な存在なのだ。彼女は「恋と騎士と冒険と」のパッケージを飾るメインヒロインなのだから。
「……ディエ、本当にこの世界に居たのか」
小声で呟く。十八年間この街で生きて来たが初めてその姿を見た。
セミロングの髪を花柄の髪飾りで止めて、カミツレ学園高等部の制服を着ている。
制服姿の少女が大人ばかりの港に居るので余計に目立つ。でも目立っていいのだ。
彼女はヒロインなのだから。
じっと見ているとまるで昔読んだ本を読み返すみたいに色々思い出した。
ディエは舞台女優を目指す女の子だ。
でも父親が大怪我をして仕事を辞めてから貧乏暮らしになった。
何とか学校には通えているけれど贅沢など出来ず、放課後はアルバイト三昧。
当然女優になる為の歌や演技のレッスンをする暇はない。
だが彼女の生活には又転機が訪れる。
名門貴族の息子に一目惚れ婚約を条件に多額の支援を受けられるのだ。
結果演劇部での活動が出来るようになり、レッスンの時間を得ることが出来た。
でもディエは貴族の息子を愛しているわけでは無い。
だから誰かが自分をこの暮らしから連れ出して欲しいと港を散歩するのが日課なのだ。
何故か今まで一度もバッティングしたことは無いけれど。時間帯が合わなかったのかもしれない。
そして彼女を遠くから見守ってると、もう一人目立つ存在がいるのに気づいた。
港にある大きなコンテナの陰に全く隠れてないその姿。
真っ白なタキシードっぽい衣装を着た肉達磨。
恐らくオーダーメイドだと思われる服がミチミチと悲鳴を上げてそうなのは体重が増加したからだろう。
「あいつは……確か、ディエの婚約者で、白豚……じゃなく、イオンだっけか?」
時折夢に見る悪役令息の名を俺は数十年ぶりに思い出した。
ディエと金の力で強引に婚約した名門貴族の甘やかされた一人息子。
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