女運の悪い悪役令息が不憫過ぎるので構ってみたら懐かれた件

砂礫レキ

文字の大きさ
11 / 73

11.どうか縁を切らせてください

しおりを挟む
「俺がディエという女の子をチンピラから助けたのはチンピラが店の常連だったからです。絡まれた相手が誰でも同じことをします」
「おや、どうして急にそのようなことを……?」

 しらばっくれた台詞を言っているが執事の視線がこちらを探っているのは明らかだった。
 確かに港の時はイオンが俺とディエの前に姿を見せることは一切無かった。
 チンピラを雇ってディエに絡ませたのを知っているのは俺が前世で「恋と騎士と冒険と」をプレイしたことがあるからだ。 
 そんなことを言える筈が無いので言葉を選びながら説明する。

「港でコンテナに隠れたつもりになっているイオン様を見たからです。彼はディエさんを熱い目で見ていた。だから俺が彼女と話したことが原因ではと邪推しました」

 イオンとディエが婚約関係だと知っていると伝えるのが一番手っ取り早いが俺がそれを知ってるのも不自然なので黙って置いた。

「成程……凄い観察力だ。まだお若いのにブルーム菓子店を国内有数の人気店にした手腕にも納得致します」
「はあ、どうも……」

 別に俺はケーキのアイディアと宣伝について少し口を出しただけだ。
 売り上げが良いのは父の作る商品が美味しいからだろう。そうでなければ一度食べたらもういいやとなるのだから。

「そちらの店の菓子は女性を美しくすると貴族会でも評判です」
「有難うございます。お陰様で貴族の方からも御贔屓にして頂いております」

 評判になっていたのは初耳だが確かに貴族の家からもしょっちゅう注文は来る。
 カロリー低めで肌に良いという宣伝をした商品ばかりなので、そういう需要を満たしているのは知っていた。
 しかし急に何でそんな話をしてきたのだろう。

 俺が内心首を傾げていると執事はモノクルを指で押し上げる。そして丁寧な口調で言った。

「先程の御要望ですが私の一存では判断が出来かねます。恐れ入りますが持ち帰り、日を改めてゴールディング家から回答させて頂けませんでしょうか?」

 話が戻り俺はほっとする。彼の言い分にもおかしい所はない。
 確かにゴールディング家の後継であるイオンの行動を執事が制限するのは難しいだろう。

「大丈夫です」
「寛大なお答え、感謝致します。それでは本日は失礼致します」

 俺の答えに執事は深々と頭を下げ、帰って行った。
 俺は彼の姿が見えなくなるまで立ち尽くし、完全に見えなくなると脱力する。

「はああ……喋ってるだけで疲れた」

 別に言葉や態度で脅されたり不快なことをされたわけでは無いが、非情に緊張した。
 ある意味イオン相手よりもだ。

「回答、手紙とかで届けてくれないかなあ……」

 いっそそのまま二度と店や俺に近づかないのが答えでも良い。
 しかし俺の淡い願いは叶わなかった。

 数日後ゴールディング家のしかもイオンの名義で大量の菓子の配達依頼が来たからである。
 これは本当に完全犯罪されてしまうのだろうか。

 依頼を断ることも考えたが、それはそれで無礼だと手打ちにされる可能性もある。
 姉や父に配達に行って貰うのも駄目だ。人質にされる可能性がある。
 父は巨漢だが多勢に無勢で負けるだろう。寡黙な父よりは、多少口が回る俺が行くのが一番マシだ。
 そういえば「恋と騎士と冒険と」って選択肢で主人公死んだりヒロインが失踪したりするんだよなと嫌な事を思い出す。  

「……これが本当にゲームなら、バッドエンド対策でセーブできるのに」

 俺はストレスと緊張で痛む胃を抑えながら呟いた。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

四天王一の最弱ゴブリンですが、何故か勇者に求婚されています

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
「アイツは四天王一の最弱」と呼ばれるポジションにいるゴブリンのオルディナ。 とうとう現れた勇者と対峙をしたが──なぜか求婚されていた。倒すための作戦かと思われたが、その愛おしげな瞳は嘘を言っているようには見えなくて── 「運命だ。結婚しよう」 「……敵だよ?」 「ああ。障壁は付き物だな」 勇者×ゴブリン 超短編BLです。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜

ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

処理中です...