13 / 73
13.もしかしなくても嫌がらせですか
しおりを挟む
港で助けを求めるディエを無視した時にだけ選択できる半分裏技みたいな要素である。
給料は良いがイオン邸を訪れたディエと目が合い睨まれるというランダムイベントがある。
そして何故か他のヒロインたちの好感度も下がる。
多分ディエが悪評を言いふらしたのだろうというのが当時のプレイヤーの共通認識だった。恋愛ゲームでは珍しくないことだ。
ただ俺は意図せずとはいえディエをチンピラから助けた形である。
だからゲームのようにこの豪邸で働くことは無いだろう。働きたくも無いけれど。
昔行った観光スポットを眺めるような形でゴールディング公爵邸を観察し終えると俺は再び歩き始めた。
注文された品を納入する為に裏口を探さなければいけない。
ここまでの規模の屋敷だと正門から入ると怒られる時がある。貴族相手の商売が面倒くさい理由の一つだ。
軽い運動になりそうな距離を歩きやっと裏門らしき場所を見つける。
そこで暇そうに立っている門番に近寄り頭を下げた。
「恐れ入ります、私はブルーム洋菓子店の者です。御依頼頂いた品をお持ちしたので取り次いでいただけませんでしょうか」
「ああ、話は聞いている。ちょっと待っていろ」
挨拶をすると門番はそう言い、屋敷の方へと消えた。
門から屋敷までも大分距離がある。そこを歩かなければいけないと思うと少しうんざりした。
二十分ほどして門番が戻ってくる。待たせ過ぎだと思ったが表情に出すことはせず愛想笑いを浮かべた。
しかし相手の言葉でそれは凍り付く。
「おい、イオン様が正門から入ってくるようにと仰せだ。さっさと行け」
一秒後、丸々と太った憎たらしい顔に脳内でパンチを叩きこむ。
確認しなくてもわかる。これがイオンの嫌がらせだと。
ゲーム内でイオンの嫌いな事は歩くことと剣の鍛錬だった。あの体型ならそうだろうと納得する。
つまり奴は自分の嫌な事を俺にさせようとしているのだ。
今から来た道を戻って正面玄関まで行って更にそこから庭を通過して屋敷に入ることを考えるとうんざりした。
嫌がらせとしては正解だ。
どうせ最初から正門で受け付けをしても裏門から入って品を届けろと言われたことだろう。
ゲーム内でもディエルートを選ぶと主人公に嫌がらせと妨害を散々行ってくるキャラだ。これぐらいは予想すべきだった。
「かしこまりました、では失礼します」
俺は門番に頭を下げ、それなりの重さの荷物を持ち来た道を戻る。
カートに保冷魔法をかけて貰っていて良かった。でなければケーキのクリームが溶けて型崩れしたかもしれない。
そうしたらそれを理由に文句を言われるのだろう。もしかしたら食べもせず目の前で捨てられるかもしれない。
目の前で父が作ったケーキにそんなことをされたら、俺は何をするかわからない。
「……いや頑張って耐えなきゃだな、絶対家族巻き込むし」
俺だけが処罰されるならまだいいけど、そんな慈悲など期待出来ないだろう。
ただ、もし本当にそんなことをされたら俺はゲーム知識を悪用してイオンとディエを別れさせるだろう。
実は主人公と駆け落ちしなくてもディエがイオンを捨てるイベントは発生するのだ。
観光に来た他国の王子に見初められて略奪されるとか、宝くじを当てて大金持ちになるとか、他国に亡命してそこで女優として大成するとか。
「はは、寧ろ婚約破棄されてない方が少ないなあいつ……」
ゲーム内で婚約者に捨てられて泣いていたイオンの顔を思い出すと、褒められたことではないがちょっとスッキリする。
俺は歩き疲れた足を励まし正面門を目指した。
給料は良いがイオン邸を訪れたディエと目が合い睨まれるというランダムイベントがある。
そして何故か他のヒロインたちの好感度も下がる。
多分ディエが悪評を言いふらしたのだろうというのが当時のプレイヤーの共通認識だった。恋愛ゲームでは珍しくないことだ。
ただ俺は意図せずとはいえディエをチンピラから助けた形である。
だからゲームのようにこの豪邸で働くことは無いだろう。働きたくも無いけれど。
昔行った観光スポットを眺めるような形でゴールディング公爵邸を観察し終えると俺は再び歩き始めた。
注文された品を納入する為に裏口を探さなければいけない。
ここまでの規模の屋敷だと正門から入ると怒られる時がある。貴族相手の商売が面倒くさい理由の一つだ。
軽い運動になりそうな距離を歩きやっと裏門らしき場所を見つける。
そこで暇そうに立っている門番に近寄り頭を下げた。
「恐れ入ります、私はブルーム洋菓子店の者です。御依頼頂いた品をお持ちしたので取り次いでいただけませんでしょうか」
「ああ、話は聞いている。ちょっと待っていろ」
挨拶をすると門番はそう言い、屋敷の方へと消えた。
門から屋敷までも大分距離がある。そこを歩かなければいけないと思うと少しうんざりした。
二十分ほどして門番が戻ってくる。待たせ過ぎだと思ったが表情に出すことはせず愛想笑いを浮かべた。
しかし相手の言葉でそれは凍り付く。
「おい、イオン様が正門から入ってくるようにと仰せだ。さっさと行け」
一秒後、丸々と太った憎たらしい顔に脳内でパンチを叩きこむ。
確認しなくてもわかる。これがイオンの嫌がらせだと。
ゲーム内でイオンの嫌いな事は歩くことと剣の鍛錬だった。あの体型ならそうだろうと納得する。
つまり奴は自分の嫌な事を俺にさせようとしているのだ。
今から来た道を戻って正面玄関まで行って更にそこから庭を通過して屋敷に入ることを考えるとうんざりした。
嫌がらせとしては正解だ。
どうせ最初から正門で受け付けをしても裏門から入って品を届けろと言われたことだろう。
ゲーム内でもディエルートを選ぶと主人公に嫌がらせと妨害を散々行ってくるキャラだ。これぐらいは予想すべきだった。
「かしこまりました、では失礼します」
俺は門番に頭を下げ、それなりの重さの荷物を持ち来た道を戻る。
カートに保冷魔法をかけて貰っていて良かった。でなければケーキのクリームが溶けて型崩れしたかもしれない。
そうしたらそれを理由に文句を言われるのだろう。もしかしたら食べもせず目の前で捨てられるかもしれない。
目の前で父が作ったケーキにそんなことをされたら、俺は何をするかわからない。
「……いや頑張って耐えなきゃだな、絶対家族巻き込むし」
俺だけが処罰されるならまだいいけど、そんな慈悲など期待出来ないだろう。
ただ、もし本当にそんなことをされたら俺はゲーム知識を悪用してイオンとディエを別れさせるだろう。
実は主人公と駆け落ちしなくてもディエがイオンを捨てるイベントは発生するのだ。
観光に来た他国の王子に見初められて略奪されるとか、宝くじを当てて大金持ちになるとか、他国に亡命してそこで女優として大成するとか。
「はは、寧ろ婚約破棄されてない方が少ないなあいつ……」
ゲーム内で婚約者に捨てられて泣いていたイオンの顔を思い出すと、褒められたことではないがちょっとスッキリする。
俺は歩き疲れた足を励まし正面門を目指した。
390
あなたにおすすめの小説
四天王一の最弱ゴブリンですが、何故か勇者に求婚されています
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
「アイツは四天王一の最弱」と呼ばれるポジションにいるゴブリンのオルディナ。
とうとう現れた勇者と対峙をしたが──なぜか求婚されていた。倒すための作戦かと思われたが、その愛おしげな瞳は嘘を言っているようには見えなくて──
「運命だ。結婚しよう」
「……敵だよ?」
「ああ。障壁は付き物だな」
勇者×ゴブリン
超短編BLです。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される
あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。
推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜
ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。
――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん!
ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。
これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…?
ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる