女運の悪い悪役令息が不憫過ぎるので構ってみたら懐かれた件

砂礫レキ

文字の大きさ
19 / 73

19.せめてデッドエンドは回避して欲しい

しおりを挟む
 他者にはあれ程までに傲慢なのに、ディエに対してこの悪役令息は随分と弱気だ。
 金で強引に婚約した癖に嫌われたくないという感情に支配されている。恋の奴隷状態だ。

 ここまで都合の良い婚約者がいるのにディエはよく俺みたいな平民に乗り換えようとしたと半分呆れる。
 わかっている。好き嫌いは損得では決められない。

 何よりイオンには分かりやすい欠点がある。偉そうで暴走しがちな性格もだが、最大の問題は。 

「なら、まずイメージチェンジをしてみるのはどうでしょうか」

 俺の提案にイオンは驚いた顔をする。 
 別にそこまで奇抜な事を言ったつもりはない。何故ならイオンの問題点はとても分かりやすい。

「たとえば体重を……少し減らしてみるとか」

 少しと言うか大分減らした方が良い。俺はイオンの丸々とした体を見ながら内心呟いた。
 こういう体型を好む人間もいるだろう。でもディエは確実に違う。

 ゲーム内で彼女がイオンから乗り越えた相手は主人公含め全員均整の取れた体格の男性だった。
 そして現実でも彼女が乗り換え先として俺を品定めしてきた。
 
 判断基準は体格だけじゃないかもしれない。
 本当はディエ本人にイオンへの不満を問い質すのが確実だ。でもそれはやりたくないと言う。
 だったら消去法を試すしかない。

 そして真っ先に消すべきはイオンの贅肉だと俺は判断した。
 痩せたらイオンの白豚貴族という個性が消えるかもしれないが、今いる場所はゲームではなく現実だ。豚キャラに執着する必要はない。
 
「イオン様は持ってないというより、持ちすぎているのだと思います」
「持ちすぎている……僕が恵まれすぎているということか?」
「……まあ、そういう部分もあるとは思いますが」

 イオンの発言に心中で呆れながら俺は返答した。
 確かにイオンが恵まれ過ぎているのは事実だ。家柄が良く、なのに惚れた相手との婚約を許して貰える程親に溺愛されている。
 ディエは元騎士の娘だが今は貧しい平民と変わらない。

 騎士の娘が公爵令息と婚約することさえ玉の輿扱いされるだろう。それぐらいは平民の俺でも知っている。
 ディエの父は怪我が原因で騎士から無職で借金持ちになった。
 ゲーム内では昼から酒浸りで娘に働かせて暮らしているような駄目人間だった。

 そんな父親を持つディエを借金ごと囲い込んで妻にするなんて計画、貴族の親なら普通は止める。
 嫌な話だがどうしてもというなら愛人にするよう持ち掛ける筈だ。十六歳のイオンにそんな生臭い話をするかは謎だけれど。
 ゴールディング公爵家がどういう判断をしたのかはわからない。

 ただ分かるのはディエは今イオンの愛人ではなく正式な婚約者という事実だけだ。
 このまま関係が上手く行けばイオンは身分を気にせず好きな人と結婚出来る筈だった。

 そうなった光景など俺はゲーム内で一度も見たこと無かったが。
 そしてこの世界でもイオンとディエの幸せな結婚式が見られる可能性は限りなく低く思えた。

「ディエさんは恐らく、太り過ぎてない男性の方が好みです」

 これは事実だと思う。ディエがゲーム内で最終的に選んだ男たちは皆そうだった。ついでに顔も良かった。
 主人公だけは前髪で目が隠れていたからよく分からないが不細工ではないだろう。

 そして今のイオンは美形以前の状態だ。丸々と太った人間が好みで無ければ異性扱いするのも難しい。
 寧ろ人間として嫌悪感を抱く者もいるかもしれない。
 更にイオンの身長は高い方なので女性なら縦にも横にも大きい彼に恐怖を感じてもおかしくない。

「それに健康の為にも痩せた方が良いですよ。体が重いと転んだ時にダメージが大きいらしいので」

 実際落下時のダメージが大きすぎてゲーム内のイオンは死んだわけだし。
 俺は心の中で呟いた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

四天王一の最弱ゴブリンですが、何故か勇者に求婚されています

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
「アイツは四天王一の最弱」と呼ばれるポジションにいるゴブリンのオルディナ。 とうとう現れた勇者と対峙をしたが──なぜか求婚されていた。倒すための作戦かと思われたが、その愛おしげな瞳は嘘を言っているようには見えなくて── 「運命だ。結婚しよう」 「……敵だよ?」 「ああ。障壁は付き物だな」 勇者×ゴブリン 超短編BLです。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜

ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...