女運の悪い悪役令息が不憫過ぎるので構ってみたら懐かれた件

砂礫レキ

文字の大きさ
20 / 73

20.迷惑過ぎるカップル

しおりを挟む
「だが、母上はこのままで良いと……」

 溺愛にも程があるだろう。俺は顔も知らないゴールディング公爵夫人に舌打ちする。
 まあ珍しい事ではない。イオンがここまで太ったのは、太れる環境があったからだ。

 肥満児となる生活に親の影響はかなり大きい。
 我慢の効かない子供に好きな物を好きなだけ食べさせていたら球体にもなるだろう。
 前世のケーキ屋でも、父のやっている菓子店でもイオン程では無いが似たような存在は見て来た。

 そんな場合は大抵裕福そうな身なりの親子だった。
 子供がケーキや菓子を好きなだけ買うのを許すのだから当然だろう。

 しかし甘やかすだけが子供の為になるとは限らないのだ。
 虫歯や肥満が原因で好き放題ケーキを食べられなくなって店内で泣いたり暴れたりした子供もいた。
 親の困り切った顔に寧ろ困っているのはこちらだと文句を言いたくなったものだ。

 生活レベルが違うからか、この暮らしでそこまで酷い親子に対面したことは無い。
 平民は贅沢品であるケーキや肉などを丸々と太らせる程子供に食べさせることはできないからだ。

 でもイオンの家は公爵家だからそれが可能で、結果甘やかされた息子は白豚悪役令息になった訳だ。
 俺は立ったまま腕組みをしてソファーに座るイオンを見た。

「イオン様が愛されたい相手は誰ですか」
「それは、ディエに決まっている」 
「だったら変わる必要があるとは思いませんか?」

 これは暗に今のお前は彼女に愛されていないと告げたようなものだ。
 口にした後でストレート過ぎたかとひやりとする。
 しかしイオンは先程のように癇癪を起こすことは無かった。余程ディエに愛されたいのだろう。

 そして愛されていないと自覚もしているのだろう。
 ゲーム内の彼の悲惨な末路を含めて哀れな気持ちになった。

 しかし、目の端にイオンが力任せに叩きつけたケーキの残骸が目に入る。
 紙箱の中だから直接惨状を見ることは無いが想像はついた。そのせいか同情の気持ちも殆ど消えた。

 ディエとイオンはシンプルに言えば俺にとって迷惑カップルでしかない。
 ディエは確かに父のせいで金に困り嫌いな相手と婚約する羽目になった。
 その境遇は気の毒だがイオンに嘘をついて俺を悪役にしていい理由にはならない。乗り換え先を探すにしてももっと上手くやれと思う。

「俺は絶対ディエさんに恋愛感情を抱きませんが、ディエさんは俺みたいな体型が好みなのかもしれません」
「なっ、貴様っ……!」
「勘違いしないでください。俺は彼女みたいな女性は全く好みでは無いです」

 寧ろ嫌いだ。前世で俺を裏切った元婚約者を思い出す。
 別れたいなら別れ話をちゃんとして欲しかった。正月休みは互いに実家に挨拶に行こうという約束に彼女は楽しみだと笑っていた。
 彼女が欲しがるからその為の振袖を買ったばかりだった。
 黙って出ていくにしても通帳を盗むのはやめて欲しかった。
 俺にも原因はあったかもしれないが、それが騙したり盗んでいい良い理由にはならない。

 ディエはイオンに逆らえないのかもしれないけれど、だからと言って自分から積極的に話しかけてきたのに俺が口説いたみたいに嘘を吐いたのは正直どうかと思うのだ。
 それを馬鹿正直に信じ込んでこちらの話も聞かず父のケーキを台無しにしたイオンも、二人ともまだ子供とは言え腹が立つのは止められなかった。
 
 俺がチンピラたちを止めて結果イオンの作戦は失敗した。そのせいかディエとゲーム主人公の傭兵が出会うことは無かった。
 ただディエがゲームと同じようにイオン以外の相手を求めているのは変わらないと思う。イオンが彼女の嫉妬深い婚約者なのも変わらなかった。
 この二人はこのまま時間が経てば、やっぱり周囲を巻き込んで取り返しのつかないことになる気がした。 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

四天王一の最弱ゴブリンですが、何故か勇者に求婚されています

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
「アイツは四天王一の最弱」と呼ばれるポジションにいるゴブリンのオルディナ。 とうとう現れた勇者と対峙をしたが──なぜか求婚されていた。倒すための作戦かと思われたが、その愛おしげな瞳は嘘を言っているようには見えなくて── 「運命だ。結婚しよう」 「……敵だよ?」 「ああ。障壁は付き物だな」 勇者×ゴブリン 超短編BLです。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜

ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...