女運の悪い悪役令息が不憫過ぎるので構ってみたら懐かれた件

砂礫レキ

文字の大きさ
29 / 73

29.彼も被害者だった

しおりを挟む
「やっぱあの馬鹿貴族に泣かされたのか」

 居間に移動して洗いざらい白状させられ、言われた台詞に俺はがっくりとうなだれた。

「分かってたのにしつこく聞いてきたのかよ!」
「予想できててもちゃんと確認しないと駄目だろ、冤罪で相手恨んだら良くないし」

 非の打ちどころの無い正論に俺は奥歯を噛みしめるしかない。それは本当にそうなのだ。
 話し続けて喉が渇いた。それを察したのか目の前にカップに入ったカフェオレが差し出される。

 熱過ぎない温度で、一気に飲めた。
 こういう気遣いがポプラが女性に人気な秘訣だろう。
 俺が一息ついたのを待って彼が話しかける。

「ゴールディング家の子豚は甘やかされ切ってるからそういうことやるだろうな」
「ポプラも知ってるのか」
「愛しの婚約者の為にって季節じゃない花で花束用意しろって無理難題を、昔な」

 遠い目をして言われ俺はポプラの苦労を察した。イオンなら言いそうな我儘でもある。

「そりゃ大変だったな……でも貴族って、花にしても注文する店って決まってるんじゃないか?」
「そいつらにも断られたんだろ。普通はそこで諦めるんだけどな。あいつは駄目だよ」

 ポプラに珍しく切り捨てるような口調に、俺は少しだけ怯える。
 それに気づいたのか彼は表情を人好きのする笑顔に変えて俺の頭を撫でた。

「子ども扱いするなって」
「してないって」

 くしゃりと笑いながらポプラが言うが納得できない。
 しかし先程の険しい表情は消えたので俺は話をイオンに戻した。

「金は幾らでも出すから絶対用意しろって凄い剣幕でな、俺が色んな知り合いに頭下げて金も使って頼んで何とか用意したんだよ」
「凄いな、用意できたのか」

 貴族お抱えの花屋さえ匙を投げたのに。俺は感心して言う。
 ポプラは本当に知り合いが多い。外国や地方から来た商人たちとも懇意だから出来たのだろう。

「そうだよ、大変だったけどその分達成感は凄かったね。その後が本当に最悪だったけど」
「……最悪って、もしかして」

 嫌な予感がして俺は恐る恐る質問した。深く重い息を吐き切った後にポプラが口を開く。

「これは欲しいのと全然違う花だ、やっぱり平民は駄目だなって目の前で床に捨てられたよ」
「うわ……」
「しかも子豚貴族が直々に店に来て俺を呼びつけて叩きつけてくれたからな……殴りかからなかったと今は思うよ」
「いや本当偉いよお前」

 そう言って労わるようにポプラの頭を撫でる。俺にしょっちゅうしてきて自分が嫌だということも無いだろう。
 彼は特に文句も言わず大きな犬のように俺に撫でられてた。

「まあそれ言うならアリオも凄いよ。親父さんのケーキ台無しにされてよく殴らなかったな」
「殴るのは我慢したけど泣いたから普通に情けないけどな」
「いや泣くぐらいしていいよ、お前はあんだけケーキ作りに一生懸命だったんだから」

 そう慰めるように言われて胸の一部分が痛んだ。
 前世を思い出す前まで俺は父の跡を継いで菓子職人なるのだと必死だった。その未来しか見えていなかった。
 けれど記憶を取り戻して、自分の死因や直前の過重労働も思い出した結果俺は製菓作業自体にトラウマを抱いてしまった。

 でもケーキも菓子も好きだ。一時期は匂いだけでも駄目だったが今は食べる事や見る事は出来るようになった。
 もし叶うなら再び調理台の前に立ちたいと願う。今はまだ難しいけれど。 
 
「実は、今日お前の店にパン買いに行ったんだよ。そしたらパルが暗い顔しててさ」
「姉さんが……」
「いつも元気過ぎる人なのに、そりゃ変に思うだろ。だから何があったって聞いたら教えてくれた」
「顧客情報をあっさり話したら駄目だろ」
「俺が誰にも言わないからってしつこく言ったんだよ、さっきみたく」
「ああ……」

 その一言で俺は納得した。それに俺も今ポプラにイオンについて話したばかりだ。姉を責める資格は無い。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

四天王一の最弱ゴブリンですが、何故か勇者に求婚されています

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
「アイツは四天王一の最弱」と呼ばれるポジションにいるゴブリンのオルディナ。 とうとう現れた勇者と対峙をしたが──なぜか求婚されていた。倒すための作戦かと思われたが、その愛おしげな瞳は嘘を言っているようには見えなくて── 「運命だ。結婚しよう」 「……敵だよ?」 「ああ。障壁は付き物だな」 勇者×ゴブリン 超短編BLです。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜

ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

処理中です...