30 / 73
30.ヒロインが黒すぎる
しおりを挟む
「それで追いつけるかと思ってすぐ貴族の屋敷ある方行ったんだけど無理だったな」
「俺の後追いかけて来たのかよ、何でそこまでして……」
「そりゃ一人より二人の方が気が楽だろ。まあ俺がその場に居たら公爵家のバカ息子をぶん殴っていたと思うけど」
「居なくて良かったよ!」
心からそう吐き出す。そうしたら今頃こうやってポプラの家で寛いでなんていられない。
下手したら牢屋行きだ。その場で切り捨てられるかもしれない。
俺は店にやって来た全身鎧の騎士を思い出した。イオンによって解雇されたらしいが二度と関わりたくない。
「それで仕方なく帰って来たんだが、お前をこうやって捕まえられて良かったよ」
「人を逃亡犯みたく言うな」
「どっちかというと逃げた猫みたいなもんだ」
「何のフォローにもなってないけど」
言い返しながらポプラの拳を見る。大きくがっしりとしている。
これで本気で殴ったらイオンの丸々とした体は吹っ飛んでしまいそうだ。そして俺たちの平穏な生活も吹っ飛びそうだ。
「しかしまあ、馬鹿ボンボンが馬鹿なのはわかってたけど……やっぱり裏に女がいたんだなあ」
「女って」
ディエの名前は流石に言っていないのでそう呼ぶしかないのはわかっている。
けれどポプラの乱暴な物言いの理由はそれだけじゃない気がした。
「ゴールディング家の坊主の婚約者はディエって娘だろ」
「……知ってたのかよ」
「そりゃ有名人だからな。貧民街の歌姫が次期公爵に見初められたって」
ポプラに当たり前のように言われて、俺は先程までの苦労が無駄だったことを知った。
よく考えたら、それはそうだ。
ディエが貧民街の歌姫と言われていたのは初耳だが彼女の外見はとても目立つ。
そして家が貧しいのも知っている。この時点でちょっとした有名人にはなるだろう。
更に普通は有り得ない平民と高位貴族の婚約だ。
娯楽が少なくプライバシーという概念も希薄な平民たちはさぞかし興味深いニュースだっただろう。
貴族間でも似たことになっているかもしれないが。
だったら顔が広くて耳の早いポプラがディエについてあれこれ知っていてもおかしくはないのだ。
「それに俺も彼女にちょっかいかけられたことがあるしか」
「んん?」
なんかとんでもない事を言われた気がする。
「前さ、貧民街に用があって行ったことがあるんだよ。お前には話して無いけど」
「う、うん」
「そしたら道端の飲み屋で若い娘相手に怒鳴ってる酔っ払いがいたわけよ」
「それは酷いな」
「だろ、だから俺が止めたんだけど何とそいつら親子だったわけ。それで父親は娘の稼いだ金で飲んでたらしくてさ」
「最低過ぎる……」
ゲーム内でもディエの父親は飲んだくれの無職だったが、生々しい屑さがパワーアップしている。
俺はその光景を想像してうんざりと言った。
「で、俺は情けない真似するなって親父に怒鳴って飲み代を払ってやったわけ」
「善人過ぎるだろ」
「だって怒鳴っただけだとそいつの娘さんが後で八つ当たりされるだろ」
「そこまで考えてたのか……」
こういう奴だから女性にもてるんだろうな。俺は今まで何十回も実感したことを再度感じた。
多分これからも同じことを定期的に思うのだろう。
「まあ、結果ディエという娘には恨まれちまったみたいだけどな」
「えっ」
「当時は気づかなかったけど、うちの花屋に無理な注文させるよう婚約者にけしかけたのも彼女だろうさ」
ディエが父親に怒鳴られてたところに割って入って助けた。その上で飲み代まで奢ってフォローもした。
そこまでした彼がディエに逆恨みされる意味がわからない。
俺が首を傾げているとポプラが自分の分のコーヒーを一口飲んで溜息を吐いた。
「告白されたのを断ったんだよ、俺が」
「ああ……」
凄く分かりやすい理由だった。だとしても理不尽な事には違いないけれど。
イオンという巨大爆弾を好き放題投げつける爆弾魔みたいな美少女だ。俺は改めてディエという娘を恐れた。
まあゲーム内でも嫌われると結構酷い事してきたもんな。知り合いに主人公の悪評振りまいて評判下げるとか。
ゲームと現実は違うのは重々承知だが、どちらかというとゲームより報復が過激になっていて笑えない。
イオンとディエって、このまま結婚させて良いのだろうか。
下手したら平民や使用人に酷い事をしまくる悪の公爵や公爵夫人を生み出すことになりそうだ。
ゲームには存在しない未来がこの世界で起こる可能性を意識してずっしりと重い気持ちになった。
「俺の後追いかけて来たのかよ、何でそこまでして……」
「そりゃ一人より二人の方が気が楽だろ。まあ俺がその場に居たら公爵家のバカ息子をぶん殴っていたと思うけど」
「居なくて良かったよ!」
心からそう吐き出す。そうしたら今頃こうやってポプラの家で寛いでなんていられない。
下手したら牢屋行きだ。その場で切り捨てられるかもしれない。
俺は店にやって来た全身鎧の騎士を思い出した。イオンによって解雇されたらしいが二度と関わりたくない。
「それで仕方なく帰って来たんだが、お前をこうやって捕まえられて良かったよ」
「人を逃亡犯みたく言うな」
「どっちかというと逃げた猫みたいなもんだ」
「何のフォローにもなってないけど」
言い返しながらポプラの拳を見る。大きくがっしりとしている。
これで本気で殴ったらイオンの丸々とした体は吹っ飛んでしまいそうだ。そして俺たちの平穏な生活も吹っ飛びそうだ。
「しかしまあ、馬鹿ボンボンが馬鹿なのはわかってたけど……やっぱり裏に女がいたんだなあ」
「女って」
ディエの名前は流石に言っていないのでそう呼ぶしかないのはわかっている。
けれどポプラの乱暴な物言いの理由はそれだけじゃない気がした。
「ゴールディング家の坊主の婚約者はディエって娘だろ」
「……知ってたのかよ」
「そりゃ有名人だからな。貧民街の歌姫が次期公爵に見初められたって」
ポプラに当たり前のように言われて、俺は先程までの苦労が無駄だったことを知った。
よく考えたら、それはそうだ。
ディエが貧民街の歌姫と言われていたのは初耳だが彼女の外見はとても目立つ。
そして家が貧しいのも知っている。この時点でちょっとした有名人にはなるだろう。
更に普通は有り得ない平民と高位貴族の婚約だ。
娯楽が少なくプライバシーという概念も希薄な平民たちはさぞかし興味深いニュースだっただろう。
貴族間でも似たことになっているかもしれないが。
だったら顔が広くて耳の早いポプラがディエについてあれこれ知っていてもおかしくはないのだ。
「それに俺も彼女にちょっかいかけられたことがあるしか」
「んん?」
なんかとんでもない事を言われた気がする。
「前さ、貧民街に用があって行ったことがあるんだよ。お前には話して無いけど」
「う、うん」
「そしたら道端の飲み屋で若い娘相手に怒鳴ってる酔っ払いがいたわけよ」
「それは酷いな」
「だろ、だから俺が止めたんだけど何とそいつら親子だったわけ。それで父親は娘の稼いだ金で飲んでたらしくてさ」
「最低過ぎる……」
ゲーム内でもディエの父親は飲んだくれの無職だったが、生々しい屑さがパワーアップしている。
俺はその光景を想像してうんざりと言った。
「で、俺は情けない真似するなって親父に怒鳴って飲み代を払ってやったわけ」
「善人過ぎるだろ」
「だって怒鳴っただけだとそいつの娘さんが後で八つ当たりされるだろ」
「そこまで考えてたのか……」
こういう奴だから女性にもてるんだろうな。俺は今まで何十回も実感したことを再度感じた。
多分これからも同じことを定期的に思うのだろう。
「まあ、結果ディエという娘には恨まれちまったみたいだけどな」
「えっ」
「当時は気づかなかったけど、うちの花屋に無理な注文させるよう婚約者にけしかけたのも彼女だろうさ」
ディエが父親に怒鳴られてたところに割って入って助けた。その上で飲み代まで奢ってフォローもした。
そこまでした彼がディエに逆恨みされる意味がわからない。
俺が首を傾げているとポプラが自分の分のコーヒーを一口飲んで溜息を吐いた。
「告白されたのを断ったんだよ、俺が」
「ああ……」
凄く分かりやすい理由だった。だとしても理不尽な事には違いないけれど。
イオンという巨大爆弾を好き放題投げつける爆弾魔みたいな美少女だ。俺は改めてディエという娘を恐れた。
まあゲーム内でも嫌われると結構酷い事してきたもんな。知り合いに主人公の悪評振りまいて評判下げるとか。
ゲームと現実は違うのは重々承知だが、どちらかというとゲームより報復が過激になっていて笑えない。
イオンとディエって、このまま結婚させて良いのだろうか。
下手したら平民や使用人に酷い事をしまくる悪の公爵や公爵夫人を生み出すことになりそうだ。
ゲームには存在しない未来がこの世界で起こる可能性を意識してずっしりと重い気持ちになった。
330
あなたにおすすめの小説
四天王一の最弱ゴブリンですが、何故か勇者に求婚されています
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
「アイツは四天王一の最弱」と呼ばれるポジションにいるゴブリンのオルディナ。
とうとう現れた勇者と対峙をしたが──なぜか求婚されていた。倒すための作戦かと思われたが、その愛おしげな瞳は嘘を言っているようには見えなくて──
「運命だ。結婚しよう」
「……敵だよ?」
「ああ。障壁は付き物だな」
勇者×ゴブリン
超短編BLです。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される
あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。
推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜
ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。
――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん!
ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。
これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…?
ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる