女運の悪い悪役令息が不憫過ぎるので構ってみたら懐かれた件

砂礫レキ

文字の大きさ
31 / 73

31.貴方の白馬の王子様ではありません

しおりを挟む
「でも俺にも非があったと思うよ」
「は? どこがだよ」

 ポプラの言葉に俺は顔を上げた。
 彼は父親に虐げられていたディエを助けただけだ。
 なのに告白を断ったからと言って嫌がらせをするのは逆恨みにも程がある。

 俺の胸に生まれつつある憤りに気付いたのかポプラは、大きな手で頭を撫でて来た。
 癇癪を起した子供を宥めるような仕草だ。
 俺はこの国では成人扱いだし前世の記憶も含めれば彼より年上なのだが。

「下心無しに助けちまったからな」
「……意味が分からない」
「気まぐれに一回じゃなく、最後まで責任もって助け続けろとあの嬢ちゃんは思ったんだろうさ」

 ポプラの指摘にどきりとする。
 一回だけディエを助けたというなら俺もその条件に当てはまるからだ。
 だから俺のこともイオンに対し悪く言ったのだろうか?
 考えてもやっぱりディエの考えは理解出来なかった。

「……やっぱり俺には良く分からない」
「お前はそれで良いよ」

 頭をポンポンと軽く叩かれ俺は軽く唸った。

「簡単に言えば彼女は目の前に差し出された餌を、急に引っ込められたと思って噛みついたんだろう」
「……益々わからん」
「俺を自分を攫ってくれる白馬の王子様だと思ったら、ただの通りすがりだったってことかな」

 性別や年齢差を考えても俺はディエがポプラに嫌がらせした理由に共感は出来ない。
 確かに彼女はゲーム内ではひたすら主人公の助けを待つヒロインだった。
 逃げ出したいけど逃げられない。誰か私を救って欲しい。
 そういうタイプの悲劇のヒロインで、儚げで可哀想な姿が人気でもあった。
 しかし助けてくれなければ攻撃するとなれば話は別だ。
 俺は首を傾げながらポプラに尋ねる。

「助けてくれると思ったのに助けなかったから許せない……って感じか?」
「まあ、そういう認識で良いよ。しかしディエ自体は無力でも彼女に惚れてる男が厄介過ぎるな」
「それはそう」

 今度は心からポプラの言葉に同意出来る。
 金と権力を持ち、更にディエの言葉を鵜呑みにするイオンの存在はタチが悪いなんてもんじゃない。
 
 ゲーム内でディエを攻略する時もあの悪役令息イオンはそこそこ邪魔なキャラだった。
 しかしディエに嫌われた場合の方がイオンは厄介な相手だと今更気づいた。
 彼は婚約者の言いなりに権力を使って嫌がらせしてくると知ったからだ。
  
 難しい顔をした俺にポプラが今度は質問してきた。

「見た限り怪我はしてないみたいだけど、貴族の屋敷で大体どんな嫌がらせされたんだ?」
「……親父のケーキを滅茶苦茶にされた、かな」
「他には?」
「部屋に入るまで散々歩かされたけど、敷地が広すぎるだけかも」 
「ケーキか、気持ちとしては今すぐ怒鳴りつけに行きたいんだがな」
「いいよ、しなくて!」

 ポプラの言葉に俺は慌てて首を振った。ケーキの代金は予約時に既に受け取っている。
 ならイオンが買い取ったケーキを食べようが捨てようが壊そうが、俺には本来抗議する権利はないのだ。

 感情的には全く割り切れはしない。
 だからこそ貴族相手に身の程知らずに怒鳴ったりしたわけだが。

「俺だって感情的過ぎて失敗したと思ってるし」 

 イオンは心情的には怒鳴られても仕方ないことはした。食べ物を粗末にすること自体が許せない。
 でも俺も自分のやったことが完全に正しいと思い込める程、感情だけで生きてはいない。

 この世界には大きな身分差があるし、そうでなくても客と売り手だ。
 前世だって、俺が作ったケーキを食べずに捨てた客は居たに違いない。
 目の前で嫌がらせの為にそれをやるような人物はいなかったけれど。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

四天王一の最弱ゴブリンですが、何故か勇者に求婚されています

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
「アイツは四天王一の最弱」と呼ばれるポジションにいるゴブリンのオルディナ。 とうとう現れた勇者と対峙をしたが──なぜか求婚されていた。倒すための作戦かと思われたが、その愛おしげな瞳は嘘を言っているようには見えなくて── 「運命だ。結婚しよう」 「……敵だよ?」 「ああ。障壁は付き物だな」 勇者×ゴブリン 超短編BLです。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。

推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜

ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。 ――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん! ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。 これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…? ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

処理中です...