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2.高貴な銀狼は怒る
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アンドリュース公爵家は数代前にも王妃を輩出している名門貴族だ。
嫉妬に狂い別人のようになった娘を放置する筈は無かった。
アラベラは間もなく卒業だった王立学院を休学させられた。
そして療養の名目で公爵邸に引きこもることになった。
彼女の父であるアンドリュース公爵が閉じ込めているというのが貴族たちの共通認識だった。
かってアラベラは地位だけでなくその美貌で王太子の心を射止めた。
そして複数人居た婚約者候補の中から選ばれた結果孝行娘の見本と呼ばれていた。
しかしエミリの出現後は一転してアンドリュース公爵家の恥さらしと陰口を叩かれるようになった。
今ナヴィスの多くの貴族が集結している場にアラベラの家族は一人もいない。
王太子サディアスの生誕を祝う舞踏会。
そこに婚約者であるアラベラは精神の病気を理由に招かれていなかった。
なのに彼女はやってきた。
ろくに梳かれていない髪、化粧っ気の無い顔にみすぼらしいドレスと裸足という姿で。それはまるで悪霊のようだった。
入口に居た令嬢が悲鳴を上げるような有様のアラベラはサディアスとエミリを見つけた。
ホールの中央で金髪碧眼の王太子と黒髪を清楚に結い上げた桃色の瞳の聖女が微笑んでワルツを踊っている。
それはアラベラには許しがたいことだったのだろう。
「わたくしのサディアス様から離れなさい、この悪女!」
地を這う声で呪詛を吐きエミリに襲い掛かろうとしたところを衛兵たちに捕らえられたのだ。
それでも暴れ狂う婚約者にサディアスは冷たい声で「喚くな、見苦しい」と言い放った。
途端、借りてきた猫のようにアラベラは大人しくなる。しかしサディアスはそれで許したりはしなかった。
彼女の頬を張り飛ばすとエミリの肩を抱き婚約破棄を宣言したのである。
アラベラに同情する貴族は居なかった。
面白がるか不快なものを見るようにするかのどちらかだ。
「お願いします、お願いします、何でも致します、愛してください、愛して……」
焦点の合わない眼差しを王太子へ向けながらアラベラは病的な懇願を続ける。
震えながら自分にしがみつくエミリを愛おし気に見つめたサディアスは唇を吊り上げた。
「そうか、何でもするか」
「はい、何でも致します!」
「なら、そこから飛び降りてみろ」
王太子が指差す先にはバルコニーがあった。興味津々に見守っていた貴族たちからどよめきが上がる。
このダンスホールは三階に存在していた。そこから飛び降りたら捻挫どころでは済まない。
けれどアラベラは躊躇わなかった。
「はい、わたくしは飛び降ります」
そう不気味な程晴れやかな笑顔で告げるとフラフラと歩き出す。
舞踏会への参加者たちは彼女が近づくと化け物を見たように道を開けた。
そして夜の闇に染まるバルコニーへアザレアが足を踏み入れた瞬間、その腕を何者かが掴んだ。
「いい加減にしろ」
短く、しかし深い怒りを孕んだ低い声。
それはアラベラに向けられたものではない。
「従属国の小僧の分際でこの俺を呼びつけたのは、ナヴィスの王侯貴族が腐りきっている事を伝えたかったのか?」
どうなんだ、サディアス・イディオット・ナヴィス。
銀色の髪を夜風に纏わせ燃える赤い瞳で恫喝する美男子。
その正体はオスカー・フォン・ヴェルデン。
銀狼と言う異名を持つ、ナヴィスの宗主国ヴェルデンの第二王子だった
嫉妬に狂い別人のようになった娘を放置する筈は無かった。
アラベラは間もなく卒業だった王立学院を休学させられた。
そして療養の名目で公爵邸に引きこもることになった。
彼女の父であるアンドリュース公爵が閉じ込めているというのが貴族たちの共通認識だった。
かってアラベラは地位だけでなくその美貌で王太子の心を射止めた。
そして複数人居た婚約者候補の中から選ばれた結果孝行娘の見本と呼ばれていた。
しかしエミリの出現後は一転してアンドリュース公爵家の恥さらしと陰口を叩かれるようになった。
今ナヴィスの多くの貴族が集結している場にアラベラの家族は一人もいない。
王太子サディアスの生誕を祝う舞踏会。
そこに婚約者であるアラベラは精神の病気を理由に招かれていなかった。
なのに彼女はやってきた。
ろくに梳かれていない髪、化粧っ気の無い顔にみすぼらしいドレスと裸足という姿で。それはまるで悪霊のようだった。
入口に居た令嬢が悲鳴を上げるような有様のアラベラはサディアスとエミリを見つけた。
ホールの中央で金髪碧眼の王太子と黒髪を清楚に結い上げた桃色の瞳の聖女が微笑んでワルツを踊っている。
それはアラベラには許しがたいことだったのだろう。
「わたくしのサディアス様から離れなさい、この悪女!」
地を這う声で呪詛を吐きエミリに襲い掛かろうとしたところを衛兵たちに捕らえられたのだ。
それでも暴れ狂う婚約者にサディアスは冷たい声で「喚くな、見苦しい」と言い放った。
途端、借りてきた猫のようにアラベラは大人しくなる。しかしサディアスはそれで許したりはしなかった。
彼女の頬を張り飛ばすとエミリの肩を抱き婚約破棄を宣言したのである。
アラベラに同情する貴族は居なかった。
面白がるか不快なものを見るようにするかのどちらかだ。
「お願いします、お願いします、何でも致します、愛してください、愛して……」
焦点の合わない眼差しを王太子へ向けながらアラベラは病的な懇願を続ける。
震えながら自分にしがみつくエミリを愛おし気に見つめたサディアスは唇を吊り上げた。
「そうか、何でもするか」
「はい、何でも致します!」
「なら、そこから飛び降りてみろ」
王太子が指差す先にはバルコニーがあった。興味津々に見守っていた貴族たちからどよめきが上がる。
このダンスホールは三階に存在していた。そこから飛び降りたら捻挫どころでは済まない。
けれどアラベラは躊躇わなかった。
「はい、わたくしは飛び降ります」
そう不気味な程晴れやかな笑顔で告げるとフラフラと歩き出す。
舞踏会への参加者たちは彼女が近づくと化け物を見たように道を開けた。
そして夜の闇に染まるバルコニーへアザレアが足を踏み入れた瞬間、その腕を何者かが掴んだ。
「いい加減にしろ」
短く、しかし深い怒りを孕んだ低い声。
それはアラベラに向けられたものではない。
「従属国の小僧の分際でこの俺を呼びつけたのは、ナヴィスの王侯貴族が腐りきっている事を伝えたかったのか?」
どうなんだ、サディアス・イディオット・ナヴィス。
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