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9.アラベラの使命
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アラベラはサディアスを愛していない。
彼女がナヴィス王太子の婚約者になったのは、ただ選ばれたからだ。決して自分から求めた訳ではない。
国王が四十歳の頃に王妃の命と引き換えのように生まれた男児。
それが現在この国で一人だけの王子サディアス。
妻と瓜二つの外見をした我が子を国王は溺愛した。
賢王と名高いバイロンだったが、一人息子のサディアスにだけはどんな我儘も許した。
そして王太子が十五歳になった時、彼の婚約者を選定する運びになった。
城に高位貴族の娘たちが集められ、当時十三歳のアラベラもその中に居た。
サディアスは彼女を一目見ると言葉すら交わしていない少女の腕を強く引いた。
アラベラはその時嬉しさよりも痛みと恐怖を感じたことを覚えている。
「父上、これがいいです!」
まるで玩具を強請る幼児のように自分よりも二歳年上の王太子が笑う。
国王は息子の暴挙を軽く窘めたが、結局その我儘を聞き入れた。
王太子に挨拶することすら許されず退出する着飾った令嬢たちの憎しみに満ちた視線をアラベラは覚えている。
そんな彼女たちを羨ましいと思ったことも。
サディアスに捕まれた手首から暫く痣は消えなかった。
アラベラの兄であるイザークも幼い妹のディシアも王太子の乱暴さに憤った。
でも彼からの求めを断る権利はアラベラには無かった。
父であるアンドリュース公爵はアラベラに「耐えられるか」と聞いた。
それに当時十三歳のアラベラは「はい」と答えた。
バイロン国王は「サディアスを支えてやってくれ」とアラベラに頼んだ。
アラベラは「この命に代えましても」と優雅に微笑んだ。
アラベラはこの国の貴族だ。王家を支えるのは当然のことだった。
サディアスは年下のアラベラの目から見ても不安しかない王太子だった。
だからこそ彼が国を傾けないよう、道を間違えないよう隣で目を光らせていようと決意した。
それを父も国王も己に望んでいるのだとアラベラは理解していた。
サディアスは語学も経済学も地政学も苦手だった。だからアラベラが彼の分も学んだ。
外交も嫌っていたので、正式に王太子の婚約者になったアラベラが代理のような真似をすることも多々あった。
サディアスは体調不良を理由に欠席することが多かった。
どうしてもこの日だけはと王に命じられても当日姿を晦ました。結果「体の弱い王太子でこの国が心配だ」と他国の使者から嫌味を言われることもあった。
それを本人に伝えれば激怒し後先考えない行動を取ることは予想できた。アラベラは痛切な皮肉を自分だけで飲み込み彼の代わりに深々と頭を下げ続けた
王太子の婚約者という立場はアラベラにとって幸せでも誇らしい立場でもなかった。
華やかなドレスと作り笑いだけを纏い一人で立たされた戦場だった。隣にサディアスは居なかった。
そう、サディアスはアラベラを愛してはいなかった。だから守ろうとなど一度もしなかった。
彼が求めたのは十三歳の若さで既に「ナヴィスの紅薔薇」と呼ばれていたアラベラの華やかな美貌だけ。
そしてサディアスは己の十八歳の誕生日に当時十六歳のアラベラを汚そうとした。
彼女がナヴィス王太子の婚約者になったのは、ただ選ばれたからだ。決して自分から求めた訳ではない。
国王が四十歳の頃に王妃の命と引き換えのように生まれた男児。
それが現在この国で一人だけの王子サディアス。
妻と瓜二つの外見をした我が子を国王は溺愛した。
賢王と名高いバイロンだったが、一人息子のサディアスにだけはどんな我儘も許した。
そして王太子が十五歳になった時、彼の婚約者を選定する運びになった。
城に高位貴族の娘たちが集められ、当時十三歳のアラベラもその中に居た。
サディアスは彼女を一目見ると言葉すら交わしていない少女の腕を強く引いた。
アラベラはその時嬉しさよりも痛みと恐怖を感じたことを覚えている。
「父上、これがいいです!」
まるで玩具を強請る幼児のように自分よりも二歳年上の王太子が笑う。
国王は息子の暴挙を軽く窘めたが、結局その我儘を聞き入れた。
王太子に挨拶することすら許されず退出する着飾った令嬢たちの憎しみに満ちた視線をアラベラは覚えている。
そんな彼女たちを羨ましいと思ったことも。
サディアスに捕まれた手首から暫く痣は消えなかった。
アラベラの兄であるイザークも幼い妹のディシアも王太子の乱暴さに憤った。
でも彼からの求めを断る権利はアラベラには無かった。
父であるアンドリュース公爵はアラベラに「耐えられるか」と聞いた。
それに当時十三歳のアラベラは「はい」と答えた。
バイロン国王は「サディアスを支えてやってくれ」とアラベラに頼んだ。
アラベラは「この命に代えましても」と優雅に微笑んだ。
アラベラはこの国の貴族だ。王家を支えるのは当然のことだった。
サディアスは年下のアラベラの目から見ても不安しかない王太子だった。
だからこそ彼が国を傾けないよう、道を間違えないよう隣で目を光らせていようと決意した。
それを父も国王も己に望んでいるのだとアラベラは理解していた。
サディアスは語学も経済学も地政学も苦手だった。だからアラベラが彼の分も学んだ。
外交も嫌っていたので、正式に王太子の婚約者になったアラベラが代理のような真似をすることも多々あった。
サディアスは体調不良を理由に欠席することが多かった。
どうしてもこの日だけはと王に命じられても当日姿を晦ました。結果「体の弱い王太子でこの国が心配だ」と他国の使者から嫌味を言われることもあった。
それを本人に伝えれば激怒し後先考えない行動を取ることは予想できた。アラベラは痛切な皮肉を自分だけで飲み込み彼の代わりに深々と頭を下げ続けた
王太子の婚約者という立場はアラベラにとって幸せでも誇らしい立場でもなかった。
華やかなドレスと作り笑いだけを纏い一人で立たされた戦場だった。隣にサディアスは居なかった。
そう、サディアスはアラベラを愛してはいなかった。だから守ろうとなど一度もしなかった。
彼が求めたのは十三歳の若さで既に「ナヴィスの紅薔薇」と呼ばれていたアラベラの華やかな美貌だけ。
そしてサディアスは己の十八歳の誕生日に当時十六歳のアラベラを汚そうとした。
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