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第一章

五十九話※ある魔物視点

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 勇者の愚かさ、流されやすさはリンナの企てにより知っていた。

 けれど愚か者だけでは魔王討伐など成し遂げられなかっただろう。

 つまり、勇者以外に聡いものが他にいるということだ。

 そう双子草は予想を立てる。

 そしてその上で勇者と組んでいた女戦士二人。

 その内のいずれかか両方、それにリンナの本体をこっそりと知らせる気でいた。

 リンナ自身への攻撃によって、双子草への支配が弱まることを狙っての策謀だ。

 勇者やアデリーンの件でわかるが完全に魔物の姿となった今でもリンナの中身は変わらない。

 村娘の価値観を有している彼女は『殺人』を大罪だと考えているのだ。だからそれだけは避ける。

 しかしそれはあくまで建前であって、襲い掛かられたら抵抗するだろうしその上で殺害もするだろう。

 もしくは猛獣のように相手を殺す気がなくても力の抑えが効かず殺してしまうことも有り得る。

 そしてその時にリンナは全く悪びれないだろう。彼女の道徳観は歪だ。

 父親を生きたまま奇怪な植物にする程度には。

 リンナの許可を得て彼女の父親が植えられた鉢植えを、宅内の目立つところに置く。

 勇者の仲間に家に踏み込まれた時に地下でなく別の場所を誘導させる目的で使うのだ。

 その為の台詞は双子草が考えて奇怪な植物に覚えさせた。

 本当はこの男の妻も娘も地下にいるが、墓場にいるように誤解させなければいけない。

 リンナに頼んで、まるで目印のように長い根を数本都合させて貰った。

 幾つかの鉢植えと組み合わせて分かり易く謎めいた感じを演出する。

 その作業の中でその内の一本を、こっそりと地下を辿れるような形で室内に残す。

 リンナに気付かれた時の為に、対策したと見せかける為の罠用の魔植物も設置した。

 どの道この程度倒せなければリンナ本体に叶うことはないだろう。

 せっせと作業する娘と同じ姿の魔物をリンナの父親は何も言わず虚ろな目で見ていた。

 目が合い、気まぐれに話しかける。

 未婚のリンナの胎が膨らんだことにこの男は激怒し娘を地下に幽閉した。

 そのまま衰弱死させるつもりだったのか、地下で飼殺すつもりだったのかはわからない。

 けれどリンナはあっさりと人間であることを捨てて、力を選んだ。

 結果この男が制裁されたことに同情はしないが、リンナの狂った道徳観が理由で生かされているのは哀れだと思う。  


「……死にたいか?」

「タスケテクレ」

「……それは私の台詞なんだがな」

「タスケテクレ、ツマヲ、タスケ」

「……あれは上手く媚びている。案外最後まで生き残るだろうよ。私たちと違ってな」


 お互いろくな死に方はしないだろうが、お前の方が早く逝けるだろう。

 そう慰めるように双子草は笑った。
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