その木かげで待つひとへ(1)光る道を進んで

端木 子恭

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手にした戦果

魔法使いの剣

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 すごく、疑われているような気がする。

 馬で連れ立って行きながら、リロイは居心地悪そうにクレイグをうかがった。

 クレイグの家のコラリー伯爵領。
 川を挟んで隣になる。
 小さな領地だ。

 領地全体が黒土に覆われている。
 羨ましい環境なのだが、山が迫っていて農地を広くできなかった。
 湖と山と川に囲まれた美しい土地である。

 その川の分かれ道にやってきたリロイはそれじゃあと別の道を行きかけた。

「どうして今それを手入れする必要があるんだ?」

 待てという代わりに質問を投げてくる。
 指しているのはリロイの背にある長剣だ。

「綺麗にしとくのが変なこと?」
「別に」
「早く家に帰れ」

 それでもクレイグの馬は自分の家を向かない。

 川の分かれた方にはロードの炉があった。
 昔はすごく長生きのドワーフが鍛治工部門を率いていたらしい。

 だが今は若いドワーフがひとりいるだけ。
 かつてあったはずの鉱山からの輸送路も途絶えてしまっていた。
 人間の作業員が一緒に鉄を打っている。

「それ、エレーヌ様が大切にしてた形見だ。
 まさか溶かしたり改造したりするわけじゃないよな?」

 母の名前にリロイはどきっとした顔をする。

「使える状態か、見てもらうんだ」

 クレイグの出発を待たずに馬を進め始めた。
 下った先に台地がある。
 そのあたりは小さな村のようだ。
 職人の家があり、鍛治舎がある。

 執務室の長剣を壁から外して持ってきた。
 これの持ち主は伯父。
 会ったことはない。

 リロイが生まれる前に戦で亡くなっていた。

 背格好はよく似ているらしい。
 年寄りの中には驚く人もいる。


「急にどうした?」

 おまえの方だ。



 まだついてきていたクレイグに問いかけられた。
 びっくりして心臓が出かけたリロイが振り向く。

「家に帰って顔を見せて来いってば」
「あーほら、実家はどうせ変わり映えしないだろ。
 変わったことしてるリロイの方がおもしろい」
「剣を、手入れ、するだけ」

 両親が旅に出てしまってからはこまめに確認していなかった。
 母はよく錆を調べていた。



  落ち着くの。



 そう理由を話した。

 柄頭の紋章はロードのものとは異なる。
 山と斧の紋章が刻んであった。

 柄は白い石で出来ていて金の模様の中に橙の石が嵌め込まれている。

 伯父の最後の戦いでもこれを使っていたと聞いた。
 頑丈な剣なのだ。
 背を比べるとリロイの胸の高さくらいまである。


 くっついてくるクレイグの姿は見えないものとして。
 リロイは剣を職人に見せた。

 サビはほとんどない。
 刃はどうすると聞かれ、出さなくていいと答えた。

 小さな砥石で錆を取ってから軽く拭いてもらう。
 
「……」

 自分の武器を職人に見せているクレイグをそっと見た。
 ついでに研いであげる。
 そう言われてお願いするところだ。

 ディアドラはどうしてるんだろう。
 慌ただしく「また今度」と挨拶してから二日だ。
 野菜はどうなっているか。
 あの万能薬の木の枝からは何か分かっただろうか。

 受け取った剣を無意識に構えた。

 春の風は温い。
 大ぶりな剣は振り回すと鈍い音がした。

 ……まだだめかな、と切先を地面に下ろす。

 地の精霊はどこにでもいる。

 ディアドラが話していたことを思い出した。

 あまり無理をさせず、成長を促す。
 力は要らない。

 足元の雑草を見つめた。
 すっと葉が増えた気がして目を見開く。

 剣を鞘に収めて地面に置いた。
 自分も屈んで指で草をかき分ける。

「よく分からないな……」

 口の中で呟いた。
 少し場所をずらしてやってみる。
 何か起こっている感じはない。

 剣、だろうか?

 傍の白い柄を見た。
 よく分からないが、この石は宝石ではないのかもしれない。
 
 指の先ほどの石に触れてみた。
 ぐ、と押し込んでしまって慌てて手を引っこめる。

「……」

 壊した? それとも何かの仕掛け?

 見た目は特に何も変化はなかった。
 きょろきょろと辺りを見回し、リロイは川沿いを森の方へ下り始めた。
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