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背を預ける時
運輸の大動脈
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背の高い狼。
焔蹄獣、脚先の黒い大型獣の馬車が往き過ぎるのを、ディアドラは見送っていた。
貴族の人のような装いをして、飾りのついた小さな馬車に乗っている。
パースの国境で入国書類に記入するために待っていた。
「主人」
肩の丸い、小柄な女性に呼びかけられて戸口を向く。
台を用意するその人は目付女中のようだった。
「署名する番が来ましたよ」
下りてくる主人に手を貸して地面に立たせる。
六組ほどが並んでいて、係官が順に書類を確認していた。
ディアドラは木でできたペンを取り出して署名する。
手作りのものだ。
中にインクが内蔵してある。
署名の時に小さな紋章に触れれば自動で書けた。
「自分で作った筆記具か? ご婦人」
隣の組の高いところから声をかけられる。
振り仰いだディアドラは、親子くらい歳の離れていそうな武人と目が合った。
「そうです。墨壺を持ち歩かずに済んで楽ですよ」
そして相手の服の刺繍を眺める。
数台の荷馬車を率いてきていた一団だ。
駄馬の飾りに同じ紋章がある。
「ずいぶん大きな商人団ですね。取引で?」
顔に傷の多いその人に尋ねた。
「そのようなところだ」
よく見るとリロイより背が高いかもしれない。
チラッと見た書類にはアレスティアの文字があった。
「ヘイデンの魔法使いか? こちらには任務で赴いたのかな?」
反対にその武人は質問する。
ディアドラは笑顔で首を振った。
「休暇で、ルースエンバーを観に行く途中です。
前に計画した時には砂嵐で行けなかったものですから」
わずかに不審そうに瞳が揺れる。
ディアドラは書類を女中に渡した。
「イレーネ、承認を受け取ってきて」
そそくさと馬車へと戻る。
「……失敗した……?」
ヘイデンの魔法使いとばれたのもそうだが。
休暇と答えたのはまずかったか。
ディアドラたちの境遇を知る者は外国には少ない。
知っているのは軍関係者や役人たちだ。
それも、外交に関わる立場の。
馬車の小窓からそっとうかがった。
先ほどのアレスティアの商人団が手続きを終えて入国していく。
「何だか嫌な目つきの人だった……」
ため息をついて見送っていると、イレーネが馬車に乗りこんだ。
「さあ、参りましょう」
車が進み始める。
パースに入ってしまえば嫌な感じのする人のことなど一瞬で消えた。
焔蹄獣のひく車が目につくようになる。
「かっこいい生き物……」
本当は、馬車でなく騎乗してみたかった。
とても足が速く、力強い走り方をする。
しかし保護の対象になっているこの動物はレース以外で騎乗できなかった。
軍隊の騎馬として利用されたこともあったのである。
結果、繁殖しづらい生態のため絶滅しそうになった。
今は人の手で飼育された個体の中から、レースに使用できないものを駄馬として使う。
イレーネがその焔蹄獣の馬車を手配している。
その間にディアドラは大きな商店街を歩いていた。
パースは比較的大きな方の国である。
特産品は鉱石だ。
アクセサリーに仕立てる技術はそれほど高くない。
掘り出した状態の石の塊や、原石で売られていることも多かった。
もう一つ盛んなのが中古品の取引。
様々な事情で誰かが使っていた武具や家財品が持ち込まれる。
パースから東に出れば程なく大きな河川に行き当たった。
河辺の街は賑やかで、交通の拠点になっている。
山脈から流れ出る水がちょうどこの辺りで二つに分かれた。。
一つは北へ向かい、一つは南へ向かう。
パースに持ち込まれた品はその川に乗って遠くへ旅をする。
「あっ」
骨董品屋に一人で入っていくあの人を見かけた。
急いで手近の宝飾品店に入る。
ディアドラは素朴な作りの髪留めを見た。
魔導具に加工するならこういうものの方がいい。
戦で使うのだ。
もしかしたら使い切りという可能性が高い。
手持ちの魔導鉱石を確かめた。
ちょうどいい大きさの石がいくつかある。
「これにしようかしら」
取り出したのは、橙色の鉱石だ。
封印に使う石である。紋様と合わせて音を随意の時間封じておけないかと試行錯誤中。
「こちらの品の石を付け替えていただける?
そうしてもらえたら買いたいのです」
店の主に相談してみた。
ちょっと待っていてくれればやるという。
窓際に運ばれた椅子に腰かけて外を見た。
あの顔に傷が多い人は何をしに骨董屋なんかに入ったのだろう。
自分でたくさん持ち込んでいそうなのに。
取引は部下に任せているようだ。
大きな武器を携えていた。
焔蹄獣、脚先の黒い大型獣の馬車が往き過ぎるのを、ディアドラは見送っていた。
貴族の人のような装いをして、飾りのついた小さな馬車に乗っている。
パースの国境で入国書類に記入するために待っていた。
「主人」
肩の丸い、小柄な女性に呼びかけられて戸口を向く。
台を用意するその人は目付女中のようだった。
「署名する番が来ましたよ」
下りてくる主人に手を貸して地面に立たせる。
六組ほどが並んでいて、係官が順に書類を確認していた。
ディアドラは木でできたペンを取り出して署名する。
手作りのものだ。
中にインクが内蔵してある。
署名の時に小さな紋章に触れれば自動で書けた。
「自分で作った筆記具か? ご婦人」
隣の組の高いところから声をかけられる。
振り仰いだディアドラは、親子くらい歳の離れていそうな武人と目が合った。
「そうです。墨壺を持ち歩かずに済んで楽ですよ」
そして相手の服の刺繍を眺める。
数台の荷馬車を率いてきていた一団だ。
駄馬の飾りに同じ紋章がある。
「ずいぶん大きな商人団ですね。取引で?」
顔に傷の多いその人に尋ねた。
「そのようなところだ」
よく見るとリロイより背が高いかもしれない。
チラッと見た書類にはアレスティアの文字があった。
「ヘイデンの魔法使いか? こちらには任務で赴いたのかな?」
反対にその武人は質問する。
ディアドラは笑顔で首を振った。
「休暇で、ルースエンバーを観に行く途中です。
前に計画した時には砂嵐で行けなかったものですから」
わずかに不審そうに瞳が揺れる。
ディアドラは書類を女中に渡した。
「イレーネ、承認を受け取ってきて」
そそくさと馬車へと戻る。
「……失敗した……?」
ヘイデンの魔法使いとばれたのもそうだが。
休暇と答えたのはまずかったか。
ディアドラたちの境遇を知る者は外国には少ない。
知っているのは軍関係者や役人たちだ。
それも、外交に関わる立場の。
馬車の小窓からそっとうかがった。
先ほどのアレスティアの商人団が手続きを終えて入国していく。
「何だか嫌な目つきの人だった……」
ため息をついて見送っていると、イレーネが馬車に乗りこんだ。
「さあ、参りましょう」
車が進み始める。
パースに入ってしまえば嫌な感じのする人のことなど一瞬で消えた。
焔蹄獣のひく車が目につくようになる。
「かっこいい生き物……」
本当は、馬車でなく騎乗してみたかった。
とても足が速く、力強い走り方をする。
しかし保護の対象になっているこの動物はレース以外で騎乗できなかった。
軍隊の騎馬として利用されたこともあったのである。
結果、繁殖しづらい生態のため絶滅しそうになった。
今は人の手で飼育された個体の中から、レースに使用できないものを駄馬として使う。
イレーネがその焔蹄獣の馬車を手配している。
その間にディアドラは大きな商店街を歩いていた。
パースは比較的大きな方の国である。
特産品は鉱石だ。
アクセサリーに仕立てる技術はそれほど高くない。
掘り出した状態の石の塊や、原石で売られていることも多かった。
もう一つ盛んなのが中古品の取引。
様々な事情で誰かが使っていた武具や家財品が持ち込まれる。
パースから東に出れば程なく大きな河川に行き当たった。
河辺の街は賑やかで、交通の拠点になっている。
山脈から流れ出る水がちょうどこの辺りで二つに分かれた。。
一つは北へ向かい、一つは南へ向かう。
パースに持ち込まれた品はその川に乗って遠くへ旅をする。
「あっ」
骨董品屋に一人で入っていくあの人を見かけた。
急いで手近の宝飾品店に入る。
ディアドラは素朴な作りの髪留めを見た。
魔導具に加工するならこういうものの方がいい。
戦で使うのだ。
もしかしたら使い切りという可能性が高い。
手持ちの魔導鉱石を確かめた。
ちょうどいい大きさの石がいくつかある。
「これにしようかしら」
取り出したのは、橙色の鉱石だ。
封印に使う石である。紋様と合わせて音を随意の時間封じておけないかと試行錯誤中。
「こちらの品の石を付け替えていただける?
そうしてもらえたら買いたいのです」
店の主に相談してみた。
ちょっと待っていてくれればやるという。
窓際に運ばれた椅子に腰かけて外を見た。
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