その木かげで待つひとへ(1)光る道を進んで

端木 子恭

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背を預ける時

ひとの値打ち

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 オーヴェが盗賊を襲ったらしい。

 他領地で輸送路の舗装を終えた職人が教えてくれた。
 テオと一緒に帰ってきた。

 すごく役に立ってくれた茶色い熊を撫でながらリロイはその話を聞いた。

「正義感で?」

 珍しい。

「いやあ、仕返しだったって話だよ」

 都で仕入れた噂を楽しそうに語る。

「荷を捌きに行った先でオーヴェを襲った愚か者がいたんだ。
 身元を割り出して、潰しに行ったんだと」
「運が悪かったのかな……」


 よりによってあのけだものに手を出すなんて。


 ゆっくりお休みと言うと、テオは森の方へ歩いていった。

「その盗賊はどうなった?」
「ちょうど俺たちが通りかかった時には都で晒されてた。
 どっちが盗賊なのか分からないくらい。
 身包み剥がされて通りに打ち捨てられてたよ。
 あんまり可哀想で着替えを全部恵んできたんだが……」
「相変わらず酷いなあ」

 そこまでしなくても、いいと思う。
 その弱いのが悪い理論を改めてもらえないだろうか。





 そう話していた二日後だった。
 ロードの主門の前に物乞いのような人間たちがやってきた。

 応対したクレイグが兵舎の一画を提供することを承諾した。



 マルテは反対だったようで、リロイが呼ばれている。



「あいつら盗賊なんだ」

 今はぐったりしている集団を指して厳しい顔をした。
 人数は二十人ほどである。

「兵舎には子どももいるんだぞ。危ない目に遭ったらどうする」
「ロードで悪さはしないだろう?」

 クレイグが何か紙に書きながら反論した。

「たとえば、そこの彼は私たちの捕虜になったことがある。
 ロードでどんな扱いになるか分かってるからここを頼ってきた。
 そんな人間たちが悪さするもんか。少なくともロードにいる間は」
「人買いって言ってたじゃないか。
 出てく時に子どもの数が減ったら責任持って奪い返せるか?」
「そこはリロイに任せてる」
「任せられてるって今知った」

 リロイは少し首を傾げて考える。

「一日だけここに寝かせておいてくれる? マルテ。
 私もここに泊まるから。
 動かせる者からゆっくり門の近くへ移そう」

 そこには昔の兵舎があった。
 今は使っていない。
 小川が近く、地下にはならず者を閉じ込めておける部屋もあった。

「ちょうど捕虜が帰ったりする時期だから空き家も把握できないんだ。
 共同生活になるけれど我慢してください」

 領主は盗賊相手に丁寧に処遇を説明する。
 何事か考えていたクレイグがリロイを見た。

「前から思ってはいたんだが、やっぱりうちにも治療師を雇おう。
 今回みたいなのは滅多にないだろうが、捕虜のことを考えても。
 ここで常に迅速に診られる方がいい」
「それはそうだが、騎士以上の腕の治療師って、あんまり見ないぞ」

 マルテがこの国の現状を思い返しながら言う。
 学校がないので引退した騎士が治療師を名乗ることが多かった。

「どこかに魔法使い、落ちてないかなー」

 クレイグがため息をつく。
 リロイはそっと森を向いた。

 ディアドラがここにいたら、とふと思う。
 





 次の日、事態はちょっと深刻になっていた。
 頭が痛いと訴える者が出た。

 ガエルで治療師を探そうと話していたら、盗賊の一人が話しかけてきた。

「魔法使いを連れた一団が、今日あたり近くを通ってると思うよ」

 ハーゼと名乗ったその盗賊は、その理由を教える。

「俺たちは取引の途中で襲われた。
 他にも盗賊の組がいて、そのうち一つは捕まえた魔法使いを連れてた」
「売り物としてか」

 カミルと同じくらいの歳の盗賊に、クレイグが聞いた。

「そうだ。闇市場がある集落に持ち込むと言ってた。
 そいつらのうち何人かは被害者のふりして商品と逃げ出した。
 行き先はフメルの南。国境近くだって聞いたよ。ここから遠くないだろう?」

 フメルは山間の国。
 ロードとはわずかに国境を接している。

「でもその魔法使いは何の魔法を使う?」

 リロイが質問した。

「いろいろだが、中には病気や怪我を何とかできそうな奴もいた」

 ハーゼは片足のくるぶしの上を示す。
 インクで描かれたような紋様があった。

「これを書いた魔法使いはいのちを司ると言っていた。
 この紋様を読める魔法使いが荷の中にいた」
「それが治療師か?」

 クレイグにハーゼが首を傾げて見せる。
 そこまでははっきり知らない。

 けれどリロイは頷いた。

「いのちを司る地の精霊の魔法使いは、傷つけることも癒すこともできる」

 ディアドラでないといいと願う。

「……。ガエルで探すか、闇市場で買うか?」

 少しの間視線を回して、クレイグは逡巡した。

 ガエルで自分を売りこむ魔法使いもいることはいる。
 けれど毎日見るわけではないし、何の魔法使いかも行ってみないと分からなかった。

 わずかに見込みのあるフメルに行く方が望みがあるか。


「……行こう。ハーゼが案内してくれ」
「マルテ、カミル、傷が悪化した者の看護を兵舎のみんなで頼む。
 薬を用意していくから、具合が悪い者が出たら一口ずつ与えて」

 リロイもすぐさま指示を出す。

「ハーヴェ、その闇市場はどういう仕組みで買える?
 歩きながら話そう」

 盗賊を連れて、闇市場へ向かうことになった。




 
 盗賊たちがロードにたどり着く一週間ほど前のこと。
 ディアドラの元に紋様が戻ってきた。

 紋様の力を解き放つ前後の少しの時間が目の前に現れる。

 あの大きなアレスティアの武人が片刃の戦斧を振るっていた。
 いくつかのグループが取引しているところに踏みこんだ様子である。
 魔導鉱石が飛び散るのが見えた。
 赤い石は確認できない。

 助けて、と紋様を送った盗賊は囁いた。

「そういう機能じゃないのだけれど」

 これしかないならもういいかと消しかけた手が止まる。
 映像に見知った顔があった。
 後輩の魔法使いで、彼女は少し前の従軍の際に行方不明になっている。

 ディアドラの紋様だと気づいた彼女は近寄ってきた。

 地名を二つ告げる。
 現在地と目的地だと分かった。

 逃亡の可能性も疑われていたが、彼女は誘拐されていたのか。
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