その木かげで待つひとへ(1)光る道を進んで

端木 子恭

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背を預ける時

保護と管理

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「先ほど興味を示されていた商品と話すこともできますよ」

 入荷の品を全て見せた支配人が言った。
 有料、という断りがつく。

 この通路の突き当たりのような部屋だった。
 壁際に掘りかけの穴がいくつかあって、今は物置に使っている。
 数歩先には大穴があいていた。その底は見えない。

「先に一つ購入したい品があります」

 リロイは近くの戦利品の部屋を指す。

「あちらにあった小物を一ついただきたい」
「どれです?」

 リロイの示した髪留めを、支配人はすぐに手渡した。

「お代は別個に、今すぐお支払いください。
 お話しする料金と合わせて」

 農民一人くらい買える値段を提示される。
 支払ってしまうリロイをクレイグが唖然と見ていた。

「高いよ、きっと」

 ハーゼと支配人が品と値段を決めるために広場の方へ引き返していく。
 クレイグはその背中を見やりながら言った。

 番人が連れてくる黒髪の魔法使いに警戒するような顔をする。

「あの人は強いだろ」
「私の腕を治してくれた」
「もっと早く教えろ」
「機会がなかった」

 ランプの火が揺れた。
 小柄な人かげが進み出る。

「身分を聞いてもいいですか」

 不躾に問うクレイグをリロイは宥めた。

「彼女は何も知らず、私を助けてくれた。
 何者だってあの時には他意なんてなかったことだ」

 それからディアドラを見る。

「すみません、ディアドラ。こちらはクレイグです。
 私の幼馴染です。今日は緊急に治療師を求めてここを訪れました」
「それなら、隣の部屋の魔法使いにも治癒の魔法が使える魔法使いがいました。
 私の隊の人間ではないので実力は分からないけれど。
 緊急とは、領地に加療の必要な人がいるのね。
 怪我ですか、病気ですか」

 隊、と聞いてリロイがこわばった。

「リロイ、この人は隊長かそれに準ずる身分だよ。
 一緒にいた魔法使いより上官だ」

 クレイグは言い聞かせるように言う。

「この人は全く怯えていない。身を守れる自信があるんだ」
「領地の患者は? どんな症状なの」

 ディアドラがもう一度尋ねた。

「頭に攻撃を加えられて数日経っています。
 今朝から頭痛が始まりました」
「……」

 ディアドラの表情が沈む。
 隣の安値の魔法使いに任せられるか不安に感じているようだった。

「この枷はなんです?」

 他に拘束具もなさそうなことを不思議に思ってリロイが聞く。

「魔導具です。これを身につけると魔力の流れがおかしくなる。
 魔法が使えなくなるんです」

 それは剣士から剣を奪うようなものだ。
 大丈夫なのか。

「何でできているんです?」
「魔導鉱石。魔力を貯めるのではなく、乱す性質のものです」

 鉱石でできているのは前部分だけ。
 後ろは普通の金属で、鍵穴がある。

「魔法使いを捕まえたり、使役するときにはこういったものが必要です」

 リロイはまた心配そうな表情になった。

「大丈夫。私たちを買える人は滅多にいません。
 売れ残れば移動して、時間貸し業者に引き渡されます。
 そこで隙ができるでしょう。逃げ出せますよ」

 安心させるようにディアドラは言う。

 そんな保証はないと彼女自身も分かってはいた。
 けれど不安をリロイに感じさせては行けないと、義務感のようなものが働く。

 時間貸し、というさらに恐ろしい言葉にリロイはますます沈んだ。

 手元に視線が落ちて、彼女のものをまだ返していないことを思い出す。

「髪留めを……」

 綺麗な緑の石がついた銀の髪留めだ。
 セージのモチーフが刻まれている。
 大きさの違う石が四つ付いていた。

 この色味をどこかで見た気がする。

「イシュナ」

 クレイグが呟いた。

「ヘイデンの魔法使いの部隊。あんた隊長なのか」

 髪留めを受け取り、ディアドラは服の胸に刺し通して留める。

「そうですね。最近は代行を立てることもありますけど」

 人に教える立場。
 それは部隊長としてという意味だった。

「同じ部屋に捕まっているのは私の後輩です。
 救出のために捕まりました。だから心配はいらないんです」

 番人に聞こえないように小さな声で彼女は話す。
 それでもリロイは心配の消えない顔でいた。

 作戦が必ず成功するわけじゃないことをよく知っている。

「リロイ、利き手と逆の腕を出して」

 彼女に言われるまま、リロイは腕を差し出した。

 紋様が浮かび上がり、腕を伝うと内側に定着する。

「もし連れ帰った魔法使いが治せなかったなら、リロイが頭部の怪我に触れてみてください。
 それほど力は出ない。一度で治らないときは何度か試して。
 紋様が消えないうちなら何度でも試せます」
「……魔法が使えるのですか?」

 驚いた顔のリロイを制した。

「魔導具に対抗する魔導具もあるということです。
 この髪留めは魔力の流れを分ける。
 身につけていれば、一つは乱されて使えないけれど、他の経路は使えます。
 ただし枷の影響で不安定なことに変わりはない。
 紋様がすぐに描けたのは幸運でした」

 そんな状態で敵地にいる。
 全然大丈夫ではない。

 クレイグを見た。
 憮然としたような顔をしてディアドラを見つめている。
 
 通路をやってくる気配がした。
 新たな客なのかと緊張する。

 もし潤沢な資金を持ってやってくる客がいたら。

 ディアドラは買われて行ってしまう。
 そうしたらこの枷を外す機会はない。



「やっぱり買う」
「だから衝動買いするなって」

 値段を聞く前に決めるリロイを張り倒す勢いでクレイグが舌打ちした。
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