その木かげで待つひとへ(1)光る道を進んで

端木 子恭

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背を預ける時

掘りだしものを得て

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 真夜中を回っていて、客たちは大声で文句を言った。
 支配人がもてなすことにして広場が賑やかになる。


「盗賊」

 柵の中から厳しい声がかかった。
 ハーゼの足元にディアドラの紋様が現れて蔓が両足を絡めとる。

「涼しい顔で初対面風を貫きましたね。
 リロイをここに連れてくるなんてどういうつもりだったの」

 目の据わったディアドラが紋様を移動させた。
 ひっぱられて尻もちをついたハーゼは粟を食ってリロイに助けを求める。

「俺は親切でここに連れてきたんだよなあ?
 この印をつけられてからすぐ大変なことになったんだ。
 アレスティアの将軍に取引の席を襲撃されて捕まった。
 身包み剥がされて捨てられたんだよ。
 他の組の人間も巻き添えになった。
 その中の一人が少し前にロードの捕虜になったことがあったんだ」

 だからどうしたとばかりに紋様は壁を上り始めた。

「アレスティアで捕虜になるならロードのところに行けって噂が立ってんだよ」

 ハーゼは頭を守りつつ叫ぶ。

「あそこだけは手当が受けられる。日当もらって働ける。
 まともな人間になるなら残ったっていい。
 今回だって、押しかけてきたのが盗賊だって分かってるのに。
 すぐ治療師を探しに出かけてくれた。
 あんたがいるなんて知らないよ。
 俺はただこの人たちのために持ってる情報を使っただけだ」

 リロイが吹き出した。

 ディアドラの仕置きにははらはらするが、思いがけず盗賊に褒めてもらった。
 ロードのやり方を認めてもらった。

「……」

 クレイグは落ちていた枷のかけらを拾ってハーゼに触れる。
 紋様が乱れてハーゼは解放された。

 リロイが平気かと聞きながら助けおこす。
 盗賊は小声であの怖い魔法使いのことをリロイに説明し始めた。



「隊長、リロイは暴力が好きじゃない」

 柵越しにクレイグが魔法使いを見つめる。
 何か隠し事がないか見透かしているようだった。

 何事もない。
 そういう表情でディアドラはリロイの幼馴染を見返した。


 幼馴染として以上に、クレイグにはリロイを守るという矜持がある。
 リロイが嫌と言っても、彼はためにならないものは遠ざけるつもりだ。


 リロイが領地の話をする時と国の話をするときの顔。
 それらは全く違う。
 リロイはアレスティアの誰かと緊張状態にあると感じていた。

 二人でたたかっている。

 ディアドラは彼らを見てそんなふうに思った。


「これ、いいな。もらってってもいいのかな」

 珍しそうに加工された魔導鉱石を観察してクレイグは言う。

「ここにあるすべての荷がもらえたら、いいのではないかしら。
 そういう道具を作りたいなら、それなりの魔法使いを招くすべきです」

 それなり。

「……ヘイデンはそれなりの魔法使いを外国に出さないんだろ?
 どうやって手配するんだ」

 クレイグの疑問には、リロイが答えを思いついた。

「時間貸し」

 未だ柵の中にいるディアドラを見る。

「時間貸しに売られた後は魔法が使える。
 隙を見て逃げ出す魔法使いもいるんですね。
 そのままどこかに潜伏している可能性があるんだ。
 ヘイデン軍に所属するような力のある魔法使いでも」
「そうです。ここにいる私の後輩も、いなくなった当初は脱走の可能性を疑われていた。
 国に帰ったらまず受けるのは審問です。
 それで疑いないと分かっても、一生行動を制限されます。
 彼女に待っているのは命が助かっただけマシという生活です。
 それを恐れて逃げ出した後も帰らない者がいるのです」
「誘拐されただけなのに?」
「貴重な情報が漏れたかもしれない。
 またはすでに何か術にかけられているかもしれない。 
 そういう猜疑心のかたまりみたいな人間が……」

 イェフが。

「いるよな。どこにでもそういう人間」

 クレイグが鼻で笑う。



 夜が明けた。

 完全に太陽が丸く見えた頃、魔獣の従者たちが戻ってきた。
 王の承諾の返事だと言って、使節は封をされたままの文書をリロイに渡す。

「その手紙とは別に、今からお伝えするのは王の寝言でございます。
 非合法な商いをやめるなら今であると、背中を押してくださって感謝します。
 もうすぐ秋がやってくる。
 あなたの言う通り、国政としてロードとの交易に励む季節にしてもいい」
「こちらこそ、ありがたいお言葉に感謝いたします。王に敬意を」




 
 闇市場は売り切れで解散となった。
 この場所は今後倉庫として使える。

 クレイグが夏の間にできることを支配人と話し合った。
 帰ってきたばかりの職人とテオにはもう一回働いてもらう。

 急いでマルテの元に治療師を送った。
 ディアドラがきちんと見立ててくれた人である。
 リボルの背から落ちないように、ハーゼを付き添わせた。

 職人や農民は一度領地に連れ帰る。

 魔法使いたちにはこの先を決めてもらった。
 違う土地へ行きたい者も何人かいたので旅立たせることにする。

 ロードへはその他の全員が来てくれることになった。

 ディアドラの後輩もやってくる。
 ヘイデンには帰らない。

 


「イシュナ隊……。あの戦場におられました?」

 荷を置いていた通路の一番奥の空間で、リロイは聞いた。
 リボルが何か言いかけていたのを思い出している。

「おりました」

 物置になっている空間を覗き込んだままディアドラは答えた。

 目当てのものがあるかのように小物を一つ一つ確かめている。
 小さな背中が時々すっと伸びて何かを掲げた。

「リロイは気づいていないみたいだったので、私も黙ってやり過ごしました」

 どちらがましだったのだろうか。
 あの場で素性を明かすのと、今こうして露見するのと。

「いるわけがないと思っていたから、全く気づきませんでした」

 リロイが赤い顔をして言う。

 だってあの小柄な兵士はリロイを正面からぶっ飛ばした。
 ディアドラがどんな戦い方をするのか知らなかったし。
 そもそも戦うなんて知らなかった。

 隊を率いているなんて思わなかった。



 リロイは自分の鈍さに呆れているよう。



「私もリロイに会うわけがないと思っていました。
 あれがリロイだって気づいたのは少し後でした」


 ディアドラはちょっと振り返ると歯を見せて笑った。
 その様子にリロイも笑い顔になる。

「できれば、今度からはお顔のわかる兜でお願いしたいです。
 小柄な将を見かけたらまずディアドラでないか確認しないと……」
「私は本当に滅多に戦場へは出ません。全員出撃はヨーリス将軍のお好みでした。
 でも、考えておきますね。せめて目が見えるといいのかしら。
 口元だけでも分かりますか?」

 両手で輪を作った。
 顔の色々な箇所へ移動させて首を傾げる。

 どこがいいかリロイを見上げて確認した。
 じっと見ている彼は困ったような顔をする。

「お鼻のあたりだけで十分です」
「鼻?」

 鼻を囲んで輪を止めた。
 リロイの指が静かに手をどける。

「あまりお顔が出ると、やっぱり目立つから」

 ディアドラの視界を手のひらが覆った。
 じんわりと手のひらの熱が伝わってくる。
 もう片方の手が口元の方も隠した。

「……覆っておきましょうか」

 考えた結果そうなったようだ。
 ディアドラは笑う。
 手が解かれるとリロイはもう別の方を見ていた。
 
「任務の報告はどうしますか?」
「適当に、当てが外れたとでも……」

 再び物置を見始めたディアドラは言葉の途中で黙る。
 手に鉱石をいくつか持って振り返った。

「リロイ。ここにある全ての荷はあなたのものですね」
「ええ」
「魔導鉱石が山のようにありますよ」
「本当に?」

 リロイも横に屈んでのぞいた。

 色とりどりの鉱石がある。
 透明なもの、そうでないもの。
 岩に埋まったまま、掘り出された状態のもの……。

「一般の人から見れば、確かに宝石でない石は価値がありませんね」

 ディアドラは苦笑した。
 思わぬ掘り出し物にリロイは目を丸くしている。

「祖父の代までは研究が盛んだったようなのです。
 これを持って帰れば仲間が大喜びする」

 にこにこ笑いながら石を手に取った。
 その様子は、とてもあの戦場でかち合った将とは思えない。

「ディアドラはこういった紋様を何でも読めるのですか?」

 自分の腕の内側を指してリロイが質問した。

「祖父の研究の中でもこういったものがありました。
 何か意味があるのか、設計図のようなものなのか。
 私には全くわからないのです」
「これは魔法の回路です。
 どういう魔法を、どのように発動するか。
 それを記しています。魔力が回路に通ると発現する」
「そうか……」

 リロイが考えるような顔つきになる。
 そのそばでディアドラは鉱石の中に赤い光を見つけた。

「……あら」

 取り出した丸い鉱石は手のひらほどある。

「これを私にいただける? ロード公」

 冗談のように願い出てみた。
 リロイは苦笑する。

「どうぞ」

 頷いたリロイの耳に声が聞こえた。

 ロード公、と、石の中から。

「……」

 ディアドラにも聞こえたようだ。
 驚いて耳に近づける。

  ロード公。

 亡霊のようなその声に背筋が冷えた。
 話す石とは聞いていたが、実際体験すると確かに怖い。

 リロイの表情は硬く、一度口にした「あげる」という言葉を後悔していた。
 この石はあるはずのないものだと分かった。
 リーンが話してくれた『赫奪』ではないのか。

「これは、……」

 ディアドラがゆっくりと口を開く。

「リロイが持っていた方がいいですね」
「なぜ?」

 よく見ると石ではないと分かった。
 鉱石というより、樹脂に近いものを感じる。

「あなたを呼んだからです。もう伝承の類が残っていないのでしたね。
 直接この石をアズルニスの元へ持って行ってみては?
 何か答えてくれるかもしれませんよ」
「今まで何度も木のもとへ通っていますが、何も起こったことはありません」
「きっと、昔は特別な手順があったはずなんです」

 ディアドラはリロイの腕に手を添えた。

「これを作った者は昔の儀式を知っていたのかもしれないです。
 それに則って作ったとしたら、アズルニスの元へ魔力が届く」

 リロイは受け取った赤い石を見つめる。
 両手で包んで語りかけた。

「ロードへ帰ります。もう少し待っていてくださいね」
「リロイ、そろそろ行くぞ。何か持って帰るものはあるか?」

 クレイグの声が通路に反響する。

「いっぱいある」
「隊長はだめだからな」
「はいはいはい」

 ディアドラは立場が立場なので、ロードには招けなかった。
 クレイグに山のような魔導鉱石を見せると目の色を変える。

「すごいな。これ全部持って帰っていいのか?」
「そういう契約だった」

 革の袋に入れてもらって馬に乗せた。
 出発の直前にディアドラは馬の前足に紋様を描く。

 地の精霊の力で、道を均しながら歩けるのだそうだ。
 途中で魔力が足りなくなったらリロイが足すように言いつかる。

「また今度」

 リロイが笑顔で挨拶した。
 ハーゼが乗ってきた馬の手綱を握りながらディアドラは手を振る。

「また今度」
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