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背を預ける時
精霊のすみか
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魔導鉱石の一部を領地の炉に預けた。
若いドワーフはあまり扱ったことのない石に喜ぶ。
そのまま川沿いを上った。
川の分岐を越えてもう少しコラリーの方へ向かう。
森の道を少し入るとその場所があった。
万能薬の木。
精霊アズルニスの宿る聖木。
「ちょっと試していきたいんだ」
馬を下りて、リロイはクレイグを見る。
「離れていた方がいいか?」
手綱を受け取るとクレイグは冗談のように言った。
「何も起こらないかもしれないよ」
赤い石を手にリロイは笑う。
母と一緒に来たって何か感じたことはない。
肩車で葉を摘み取っていた頃のことだ。
母はここに来るとよく伯父の話をした。
他愛のない話が多かった。
この木に登って枝を折ってしまったことがあるとか。
一緒にしかけを作っては試しうちした話とか。
伯父エクトルはリロイが今摘んでいる葉っぱのところまで手が届いたんだとか。
ディアドラによれば、その時とても失礼なことをしていた。
親子で怒られたって不思議じゃない。
けれどいるはずの精霊は何も言わなかった。
やっぱり、ディアドラにもついてきてもらった方がよかった。
立場上難しいのは彼女よりリロイの方だ。
もしヘイデン軍の将をロードに招き入れたと露見すれば。
オーヴェにいい口実を与えることになる。
復興しつつあるロードを。
また魔獣に守られて生きるこの土地を。
渡すことになりなねない。
リロイは赤い石を掌に収めたまま幹に触れた。
「……」
風ではなく枝がひとりでに揺れる。
クレイグも奇妙な動きに目を細めた。
「どうして……」
木の上の方を見ていたリロイが呟く。
視線の先では葉がみるみる色を失っていった。
枝は枯れ始め、どんどん下へ侵食してくる。
働いたから枯れた。
ディアドラの言葉を思い出した。
けれど異様な事態に混乱して、自分の心を信じていいのか分からない。
「合っていますか、ディアドラ。
これは正しい反応ですか……」
思わず先生に助けを求めた。
もう国境を越えて国に入っただろうか。
これは木を傷つけているのか。
精霊へ力を届けるための正常な過程なのか。
教えてほしい。
後で兄の後輩たちを派遣する。
希少植物をみんなで学習するように。
馬上から命じた後、ディアドラはリロイたちとは別の山道を作って走っていた。
フメルとヘイデンは直接国境を接している。
そちらの方へ、道を均しながら進んだ。
樫の木が軋みを上げながら左右へ寄る。
木の精霊と地の精霊が協力して道を開けた。
国境の手前の少し高い山の上にさしかかる。
そこで束の間馬を止めてあたりを見回した。
どこまでも森が続いている。
できればリロイとクレイグについていきたかった。
何が起こるのかみたい。
何も起こらなくたって、リロイの故郷に行ってみたかった。
ここはロードと、ヘイデンと、フメル、それぞれの国境に近い場所だ。
「……あっ」
ロードの方を見やっていたディアドラが小さく声を上げる。
周りの木々の様子が一変した。
夏の鮮やかな空の下、木のところにだけ冬がやってきたように色を失ってくる。
枝先から枯れ出したのは樫ではない。
「アズルニス」
目の前に現れたのがロードのあの木だと気づいた。
赤い石を持って行ったことで何か起こったのに違いない。
枯れた枝は分かれ目で折れて落ちた。
また新たな枝が枯れ始める。
戸惑うリロイの姿が浮かんだ。
「ロードへ最短距離で道を敷きなさい」
ディアドラの予定変更に精霊たちが悲鳴をあげる。
急に方向転換させられた地の精霊たちが地面を揺らした。
「イシュナ」
自分と契約している精霊の名を呼ぶ。
宙に描き出した紋様に地の精霊が現れた。
つやめく黒髪は射干玉の実を思わせる。
黄味がかった琥珀色の瞳が柔らかくディアドラを見つめた。
山の土のような色の肌には蔦が這う。
花びらや蔓が集まってできたような服を纏っていた。
「みんなを手伝って。
アズルニスのところまで馬を全速力で行かせたい」
呼吸数回分の出来事だった。
岩が割れ、地形は変わり、見る間に拓かれた道は踏みしめられたように固くなる。
「ありがとう」
短く礼を言ってディアドラは馬を走らせた。
ロードの端に出ると傾斜を駆け上がる。
炉の前を走り抜けた。
川を越えると、大きな枝が落下する音が聞こえる。
「隊長」
クレイグが侵入者を振り向いた。
非難するような表情をしている。
ディアドラは構わずに馬を下りてリロイの横へ立った。
「リロイ、そのままで」
傍に現れた人を見やる。
来てくれた。
リロイは安堵したような小さな笑みを見せた。
「赤い石と一緒に幹に触れたんです。
そうしたら、枝が枯れ始めました。
幹の中を何か流れているような感じがします」
「正常な反応だと思います。続けて大丈夫」
ディアドラは膝をついて木と地面にそれぞれ触れて探る。
リロイの魔力はまっさらな状態に戻っていっているようだ。
魔獣の命を吸い込んだ魔力は、一度木の中へ。
流れて行く先にアズルニスが眠っているはずだ。
枯れていくのに木は苦しんでいない。
正常な反応なのだ。
流れ込んだ力は根の先へ行く。
ずっと下の方。
ずっとずっと深いところだ。
「……いる」
何かに触れた感じがする。
ディアドラの前に再生する木が現れた。
枯れた枝は新しく生え変わり、その枝先には花が咲く。
精霊の力を宿した花だ。
花びらが散っていくその先。
その先には、豊かな土地が広がる。
「土地を豊かにする精霊?」
幻は、瞬きと同時に消えてしまった。
若いドワーフはあまり扱ったことのない石に喜ぶ。
そのまま川沿いを上った。
川の分岐を越えてもう少しコラリーの方へ向かう。
森の道を少し入るとその場所があった。
万能薬の木。
精霊アズルニスの宿る聖木。
「ちょっと試していきたいんだ」
馬を下りて、リロイはクレイグを見る。
「離れていた方がいいか?」
手綱を受け取るとクレイグは冗談のように言った。
「何も起こらないかもしれないよ」
赤い石を手にリロイは笑う。
母と一緒に来たって何か感じたことはない。
肩車で葉を摘み取っていた頃のことだ。
母はここに来るとよく伯父の話をした。
他愛のない話が多かった。
この木に登って枝を折ってしまったことがあるとか。
一緒にしかけを作っては試しうちした話とか。
伯父エクトルはリロイが今摘んでいる葉っぱのところまで手が届いたんだとか。
ディアドラによれば、その時とても失礼なことをしていた。
親子で怒られたって不思議じゃない。
けれどいるはずの精霊は何も言わなかった。
やっぱり、ディアドラにもついてきてもらった方がよかった。
立場上難しいのは彼女よりリロイの方だ。
もしヘイデン軍の将をロードに招き入れたと露見すれば。
オーヴェにいい口実を与えることになる。
復興しつつあるロードを。
また魔獣に守られて生きるこの土地を。
渡すことになりなねない。
リロイは赤い石を掌に収めたまま幹に触れた。
「……」
風ではなく枝がひとりでに揺れる。
クレイグも奇妙な動きに目を細めた。
「どうして……」
木の上の方を見ていたリロイが呟く。
視線の先では葉がみるみる色を失っていった。
枝は枯れ始め、どんどん下へ侵食してくる。
働いたから枯れた。
ディアドラの言葉を思い出した。
けれど異様な事態に混乱して、自分の心を信じていいのか分からない。
「合っていますか、ディアドラ。
これは正しい反応ですか……」
思わず先生に助けを求めた。
もう国境を越えて国に入っただろうか。
これは木を傷つけているのか。
精霊へ力を届けるための正常な過程なのか。
教えてほしい。
後で兄の後輩たちを派遣する。
希少植物をみんなで学習するように。
馬上から命じた後、ディアドラはリロイたちとは別の山道を作って走っていた。
フメルとヘイデンは直接国境を接している。
そちらの方へ、道を均しながら進んだ。
樫の木が軋みを上げながら左右へ寄る。
木の精霊と地の精霊が協力して道を開けた。
国境の手前の少し高い山の上にさしかかる。
そこで束の間馬を止めてあたりを見回した。
どこまでも森が続いている。
できればリロイとクレイグについていきたかった。
何が起こるのかみたい。
何も起こらなくたって、リロイの故郷に行ってみたかった。
ここはロードと、ヘイデンと、フメル、それぞれの国境に近い場所だ。
「……あっ」
ロードの方を見やっていたディアドラが小さく声を上げる。
周りの木々の様子が一変した。
夏の鮮やかな空の下、木のところにだけ冬がやってきたように色を失ってくる。
枝先から枯れ出したのは樫ではない。
「アズルニス」
目の前に現れたのがロードのあの木だと気づいた。
赤い石を持って行ったことで何か起こったのに違いない。
枯れた枝は分かれ目で折れて落ちた。
また新たな枝が枯れ始める。
戸惑うリロイの姿が浮かんだ。
「ロードへ最短距離で道を敷きなさい」
ディアドラの予定変更に精霊たちが悲鳴をあげる。
急に方向転換させられた地の精霊たちが地面を揺らした。
「イシュナ」
自分と契約している精霊の名を呼ぶ。
宙に描き出した紋様に地の精霊が現れた。
つやめく黒髪は射干玉の実を思わせる。
黄味がかった琥珀色の瞳が柔らかくディアドラを見つめた。
山の土のような色の肌には蔦が這う。
花びらや蔓が集まってできたような服を纏っていた。
「みんなを手伝って。
アズルニスのところまで馬を全速力で行かせたい」
呼吸数回分の出来事だった。
岩が割れ、地形は変わり、見る間に拓かれた道は踏みしめられたように固くなる。
「ありがとう」
短く礼を言ってディアドラは馬を走らせた。
ロードの端に出ると傾斜を駆け上がる。
炉の前を走り抜けた。
川を越えると、大きな枝が落下する音が聞こえる。
「隊長」
クレイグが侵入者を振り向いた。
非難するような表情をしている。
ディアドラは構わずに馬を下りてリロイの横へ立った。
「リロイ、そのままで」
傍に現れた人を見やる。
来てくれた。
リロイは安堵したような小さな笑みを見せた。
「赤い石と一緒に幹に触れたんです。
そうしたら、枝が枯れ始めました。
幹の中を何か流れているような感じがします」
「正常な反応だと思います。続けて大丈夫」
ディアドラは膝をついて木と地面にそれぞれ触れて探る。
リロイの魔力はまっさらな状態に戻っていっているようだ。
魔獣の命を吸い込んだ魔力は、一度木の中へ。
流れて行く先にアズルニスが眠っているはずだ。
枯れていくのに木は苦しんでいない。
正常な反応なのだ。
流れ込んだ力は根の先へ行く。
ずっと下の方。
ずっとずっと深いところだ。
「……いる」
何かに触れた感じがする。
ディアドラの前に再生する木が現れた。
枯れた枝は新しく生え変わり、その枝先には花が咲く。
精霊の力を宿した花だ。
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その先には、豊かな土地が広がる。
「土地を豊かにする精霊?」
幻は、瞬きと同時に消えてしまった。
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