その木かげで待つひとへ(1)光る道を進んで

端木 子恭

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背を預ける時

ましな方の

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 ソーンがきれいに畳まれた紙を渡した。

 リロイは席を立って広げる。
 大きな解説図だ。

「大公は発明家でいらした。
 私はその当時から今のような分野を担当してたんだ。
 それで相談を受けたことがあったんだよ」

 兵器のようだが、体部に描かれた紋様は魔法の回路なのだろう。
 反射させたり、吸収させたり、圧縮したり……。
 力を一方向に集め、放つ仕組みにも見えた。
 複雑な機械と魔法の組み合わせ。
 
「……」

 リロイはその機械の下に小さな戸口を見つけた。
 人がその中に住んでいるかのような、家の扉である。

「人が乗って操縦する大砲か何かですか?」

 熱でも含むのか。
 機械の頭部が開いて何かを射出する動きを示していた。

 蒸気? それともバネの力?

「精霊を体部に閉じ込めてその魔力を魔導鉱石に吸い取る。
 外側の仕組みで一時的に強い力に変える。
 そういう兵器を考えたと話してくれた」

 ソーンが言う。

「倫理的に問題があるとしたら何かと問われたよ。
 まず精霊の閉じこめ方はと尋ねたら、考えてなかったと笑っていたね。
 無邪気にこんな設計を組み立ててしまわれるんだ。大公という人は。
 兵器の目的を聞いたら、これは汎用性があると。
 平時には粉ひきや石掘りの動力にできる。
 戦時には頭部に付け替え式の大砲や投石機を取りつける」

 これは移動式。
 なら大人の腰ほどの高さか。

「防衛だろうが粉ひきだろうが、精霊を無理に使うとしたら倫理問題と伝えた」
「ここにロードの魔法使いが座ったらどうなりますか?」

 戸口を指してリロイが尋ねた。
 その顔は少し愉快そうに笑っていて、単純に興味なのだと伝わる。

 伯父のように才能豊かな者もいれば、母のように魔力が皆無の者もいた。
 個人差が大きかったことは想像に難くない。
 力の弱い魔法使いでも国の有事に役に立てると分かれば、進んで中に入りそうだ。

「短時間だけ魔力が増大して効果を発揮するだろうね。
 通常時ではとても懐かせられない強い魔物を一時的に従える」
「理論だけど、その場合、増幅時間が過ぎたら何が起こるか分からないよ」

 アーヴィンが続ける。

「もし戦の中に放り込まれた状態で友だち時間が終わったら。
 その魔獣は暴れちゃうんじゃない?」

 シメネス級の魔獣が暴れる戦場を想像してしまった。
 味方も敵も、魔獣も見ながら戦う空間は地獄のような混沌。

 けれど、この発想自体は面白い。

「こちらは私がいただいてもいいものですか?」

 リロイが聞くと、ソーンは頷いた。

「ロードの歴史の一部だ。リロイに持ち帰ってもらおうと持って来たものだよ」
「ありがとうございます。
 私にはまだ何が書いてあるのかわかりませんが……。
 領地に帰ったら仲間に見せようと思います」

 丁寧にたたみ直すうち、マルテに相談したいことが浮かぶ。
 ディアドラに聞いたらこの考えが有効かどうか判別できるだろうか。

 魔導鉱石を複数組み合わせて作る武器。
 もしかしたらヘイデンにはもうそういう武器が発達している……?



 ソーンが館を辞した後、アーヴィンは早速儀礼服を投げ捨てた。

「上官が優しい方で羨ましいです」

 設計図を手にリロイが笑う。

「ソーン様は敬愛できる方なんです。
 魔法使いの身柄の自由を訴えている方で、とてもいい方」

 ディアドラが何度も首肯した。

「いい人なんていないよ」

 上着を替えたアーヴィンは二人を見やる。
 顔は白々と醒めていた。

「大人は、ましか普通の二種類だ。
 ごくごくたまに変異株がいる」

 リロイに護送をやり切ってしまおうと促す。

「ディアドラ、この兵器なのですが」

 時間がないとわかってリロイは早口に質問した。

「ヘイデンにも同じような武器はありますか?
 魔導鉱石を複数種類組み合わせても似たような力が出るのでしょうか?」

 ディアドラは顔を明るくする。

「ヘイデンにこのような武器はありません。
 魔導鉱石を組み合わせることで同じようなことはできます。
 石に詳しい魔法使いと試さないと危ないですが」
「その話、長くなるよ」

 アーヴィンが割り入った。

「ディアドラは仕組みを解き明かすのが好きでね。
 平時の研究課題は封印術とは何か。
 この子に仕組みを聞きだしたら果てなくしゃべる。
 今日のところは護送の任務をこなしておいて」

 まだしゃべりたそうな唇が悔しそうに尖る。
 不承不承に押しだまったディアドラはリロイを見上げた。

「ではリロイの予定が空いたら出かけましょう。
 魔物の森で魔導鉱石の働きを試したらいい」

 その提案にリロイは嬉しそうな笑顔になる。

「はい」

 アーヴィンはお勧めしない表情をしていたが黙っていた。
 青い石を一段下りてからリロイは振り返る。

「また今度」
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