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はじまりの庭 ※過去編です。
剣をもちいて剣によらず 11
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夏の真っ盛りだった。
クレイグはロードの隊列に守られながら歩いていた。
振り返ると緑の多い丘陵地帯は遠くなり、足元に立つのは荒地の砂埃である。
「本当に良かったのか? クレイグ」
ロードで顔見知りの兵士が馬上から尋ねてきた。
「いいの。七〇歳の前祝いはしてきた。心残りなんかないよ」
結局、貯めた給金を全て肉屋に預けた。
メーメットには肉の引換券を渡した。
これでクレイグがいなくても困らない。
「そんな立派なメイスをもらった礼が、肉?
クレイグは本当にちゃっかりしてるよなあ」
「何言ってんの。おじいちゃんには肉が一番いいんだ」
嘯いて笑うクレイグの馬にはハルシャのメイスがあった。
「騎士爵をもらったら即刻辞める。最初から言っておいたことだ」
今思えば、あれは卒業試験であったかと思う。
ガルザルカの政変。
行き詰まりつつあったにわか王政を新体制に変えた。
そのきっかけを取り付けたクレイグは、その功績により騎士の称号を得た。
「タバク王が言ってたよ。
私が王に斬りかかられた時、おじいちゃんが落ち着いてたから話を聞こうと思ったんだと。
おじいちゃんが黙ってるってことは私がめちゃくちゃ強いんだって思ったって」
「へえ……」
兵士は斬りかかられたという状況に首を傾げながら聞いている。
「実はおじいちゃん、私が斬られると思ったら心臓が潰れるかと思っていたんだ。
喉から出てきそうで吐きそうなのをじっと我慢してたんだって。
やっぱりおじいちゃんの力で最後はうまく行ったような感じがする。
悔しいが、おじいちゃんの功に最後まで助けられた」
「いいじゃないか? そこにメーメット殿がついていてくれたからクレイグも物怖じなく話せたんだろう?」
「そういうことにする」
口を尖らせるなりたての騎士に彼は声に出して笑った。
「リロイはどんな? 二年前と比べて何か変わったか?」
その質問に兵士は笑みを少しおさめる。
「自分で確かめろ」
「じゃあさ、先に帰っても構わないか?」
「ん? まあ、いいが……」
戸惑う兵士の前でメイスを掴むと馬を下りた。
「シメネス」
空に両手を差し出して呼ぶと、傍らに大きな竜が現れる。
「乗せて。ロードに早く帰ろう」
身軽に背中へ飛び乗った。
あっという間に飛び去っていく。
ロードの農地を見た時、一気に肩の力が抜けた。
変わらない色彩に安堵の息が漏れる。
兵舎の近くに下りて建物をのぞいた。
「クレイグ」
留学から戻っていたマルテが駆け寄ってくる。
「なんだ、おまえ、リロイの竜に送ってもらったのか」
「今は私のものだ。マルテはいつ帰ったんだ?」
懐かしい兄のような人に嬉しそうな顔になった。
リロイは畑のどこかだと言われて探しに出る。
シメネスについてくるように言った。
この大きな目標物がいれば向こうが気づく。
館の近くでライ麦の畑に波が立った。
波は一直線にクレイグのところへ近づいてくる。
「おかえり」
草の中から飛び出してきた幼馴染に、クレイグはしばし動きを止めた。
また背が伸びていた。
エギルマールは悔しがるかな。
リロイの方が背が高そうだ。
赤毛は短いままで、草の切れ端がひっからまっている。
にこにこと笑う、いつも一緒にいた顔がそこにあった。
「無事に戻った」
「うん。良かった」
クレイグは思い出したようにリロイの前で片膝をつく。
「今日から私はロードに仕える。ロード伯爵リロイに」
「……」
変なところが律儀な幼馴染を、リロイは苦笑して見つめた。
「給与は、どれくらい?」
冗談めかした問いにクレイグは鋭く立ち上がった。
「領主と同額もらう。私は領主の三倍働く」
「分かった」
あっさりと承諾して、リロイは館へ足を向ける。
「まずはシメネスを休ませて。私には話を聞かせてくれ。
最初の仕事はそれでいい」
クレイグはロードの隊列に守られながら歩いていた。
振り返ると緑の多い丘陵地帯は遠くなり、足元に立つのは荒地の砂埃である。
「本当に良かったのか? クレイグ」
ロードで顔見知りの兵士が馬上から尋ねてきた。
「いいの。七〇歳の前祝いはしてきた。心残りなんかないよ」
結局、貯めた給金を全て肉屋に預けた。
メーメットには肉の引換券を渡した。
これでクレイグがいなくても困らない。
「そんな立派なメイスをもらった礼が、肉?
クレイグは本当にちゃっかりしてるよなあ」
「何言ってんの。おじいちゃんには肉が一番いいんだ」
嘯いて笑うクレイグの馬にはハルシャのメイスがあった。
「騎士爵をもらったら即刻辞める。最初から言っておいたことだ」
今思えば、あれは卒業試験であったかと思う。
ガルザルカの政変。
行き詰まりつつあったにわか王政を新体制に変えた。
そのきっかけを取り付けたクレイグは、その功績により騎士の称号を得た。
「タバク王が言ってたよ。
私が王に斬りかかられた時、おじいちゃんが落ち着いてたから話を聞こうと思ったんだと。
おじいちゃんが黙ってるってことは私がめちゃくちゃ強いんだって思ったって」
「へえ……」
兵士は斬りかかられたという状況に首を傾げながら聞いている。
「実はおじいちゃん、私が斬られると思ったら心臓が潰れるかと思っていたんだ。
喉から出てきそうで吐きそうなのをじっと我慢してたんだって。
やっぱりおじいちゃんの力で最後はうまく行ったような感じがする。
悔しいが、おじいちゃんの功に最後まで助けられた」
「いいじゃないか? そこにメーメット殿がついていてくれたからクレイグも物怖じなく話せたんだろう?」
「そういうことにする」
口を尖らせるなりたての騎士に彼は声に出して笑った。
「リロイはどんな? 二年前と比べて何か変わったか?」
その質問に兵士は笑みを少しおさめる。
「自分で確かめろ」
「じゃあさ、先に帰っても構わないか?」
「ん? まあ、いいが……」
戸惑う兵士の前でメイスを掴むと馬を下りた。
「シメネス」
空に両手を差し出して呼ぶと、傍らに大きな竜が現れる。
「乗せて。ロードに早く帰ろう」
身軽に背中へ飛び乗った。
あっという間に飛び去っていく。
ロードの農地を見た時、一気に肩の力が抜けた。
変わらない色彩に安堵の息が漏れる。
兵舎の近くに下りて建物をのぞいた。
「クレイグ」
留学から戻っていたマルテが駆け寄ってくる。
「なんだ、おまえ、リロイの竜に送ってもらったのか」
「今は私のものだ。マルテはいつ帰ったんだ?」
懐かしい兄のような人に嬉しそうな顔になった。
リロイは畑のどこかだと言われて探しに出る。
シメネスについてくるように言った。
この大きな目標物がいれば向こうが気づく。
館の近くでライ麦の畑に波が立った。
波は一直線にクレイグのところへ近づいてくる。
「おかえり」
草の中から飛び出してきた幼馴染に、クレイグはしばし動きを止めた。
また背が伸びていた。
エギルマールは悔しがるかな。
リロイの方が背が高そうだ。
赤毛は短いままで、草の切れ端がひっからまっている。
にこにこと笑う、いつも一緒にいた顔がそこにあった。
「無事に戻った」
「うん。良かった」
クレイグは思い出したようにリロイの前で片膝をつく。
「今日から私はロードに仕える。ロード伯爵リロイに」
「……」
変なところが律儀な幼馴染を、リロイは苦笑して見つめた。
「給与は、どれくらい?」
冗談めかした問いにクレイグは鋭く立ち上がった。
「領主と同額もらう。私は領主の三倍働く」
「分かった」
あっさりと承諾して、リロイは館へ足を向ける。
「まずはシメネスを休ませて。私には話を聞かせてくれ。
最初の仕事はそれでいい」
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