その木かげで待つひとへ(1)光る道を進んで

端木 子恭

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はじまりの庭                         ※過去編です。

剣をもちいて剣によらず 10

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 その年、ハルシャは珍しく戦に出たがっていた。
 ドワーフの職人からもらったメイスを振るってみたかった。

 そんな折にリヴェルノートはある仕事を引き受けた。

 同じ丘陵地帯にある王国で政情不安が起こった。
 王政が廃れ、廃位を迫る市民が王宮へ向かっていた。
 リヴェルノートは騎士団を派遣して王家に加勢することにした。

 メーメットとハルシャが任務を仰せつかった。

「初めてこのメイスを振るうのが国民相手か……」

 残念そうにハルシャは言ったものだ。
 悪を相手に力を奮いたかった。

 王国についてみるとその内情が明らかになった。

 しきたり通りにやってきた王。
 伝統を守り暮らしてきた国民。
 誰も悪い人間はいないのに国勢を失っていった。

 王に味方しにきた騎士団は歓迎されなかった。
 国の中を歩いていても口を聞いてくれる人間はいない。

 一つの世帯では家計を維持できなくなっていて、何世帯かが密集していた。
 家の中から複数の家族がこちらを見つめてくる。

 畑は細り、産業は停滞している。

 立ち寄った街でハルシャはいつからこうなったのか尋ねた。
 先代王の頃にはこうなりつつあったという。

 メーメットのところには、今の王の無能さを訴える人間が集まった。
 今までのやり方を変えようという意見に耳を貸さない。 
 建国時とは周辺の様子も様変わりしている。
 今まで通りやったってだめだと言っているのに王はしきたりにこだわった。

 王宮に着いて王に糾すと、果たして王は恐れていた。

 しきたりを変えて、もし今より悪くなったら命を奪われるだろう。
 それが恐ろしい。
 権力を握りしめるためにしきたりを守り、さらに事態が悪くなっていった。
 
 ついに反乱軍は王宮を取り囲んだ。
 メーメットはハルシャと仕方なく前線に出た。

 反乱軍の首領は同世代の若者で、改革を叫んで向かってきた。
 ハルシャはその若者とメイスでやり合った。
 すぐに捕えられた首領はハルシャによって王宮へ連れて行かれた。

 騎士団の団員に反乱軍の見張りを命じて、メーメットはハルシャを追いかけた。

「王様、この首領の案をお聞きください」

 王の前に引っ立てておいて、ハルシャはそんなことを願い出た。

「なかなか面白い案を持っております」

 王の許しを得て首領は話した。

 自分は国の保護の対象となっている工芸品の職人だったが、これまでの取引先の国が輸入をやめた。
 そちらも内政が不安定になってきていたのだ。
 国の保護対象のため勝手に販路を開拓することもできず、廃れるのを見ているしかなかった。

 このような例は国中いたるところで起こった。

 王が全ての決定権を握っているせいだ。
 それを国民に譲り渡せ。そうすれば国は蘇る。

 聞けば聞くほど寿命が縮んでいく心地がする。
 王は物憂げな顔でそれを聞いていた。

「王様。今のお話は面白くありませんか?」

 ハルシャはぬけぬけと問う。

「この者は、王様のご負担を減らすよう申しているのです。
 王政にあって、政治を行うのは民間。
 そのような考えに至るとは、この国の教育の賜物ですよ」

 メーメットも王も、ハルシャが何を言っているのかとその顔を見つめた。

「国の権威の象徴として王様は必要です。
 だから王様らしい生活の保証はしてくれるそうです。
 国の保護の対象となる産業を決めるのは王様。けれど産業の守り手は民間。
 そのようにすれば王様の必要性は確保され、民衆は外国の情勢を見ながら臨機応変に動ける」

 首領の顔つきを見るに、それはハルシャの折衷案のようだった。

 メイスの柄を握ったままのハルシャは笑っていた。
 それはいい道が拓けたというような清々しい表情だった。

「王様、取り急ぎやらねばならぬことは和解です。
 反乱軍の主な幹部たちを連れてきましょう。
 騎士団がいるうちにせねばならない。衆目の前でこの新たな体制を発表するのです。
 遅れれば反乱軍は意気を吹き返し、ふたたび王宮に迫ってきます」
「つまり、お互いのかしらを掴んだから仲直りさせようってことか?」

 唖然として確かめたメーメットにハルシャは大きく頷いた。

「平たく言えばそうだな」

 リヴェルノートの監視の中、ひと月かけて新体制が話し合われた。
 メーメットとハルシャが衝突のたびに双方を説得した。

 お互いボロボロなのだ。
 どっちかをやっつけたって損しか残らない。

 そうして主権の譲渡は行われた。
 王は権威を握り、国民は主権を握る。
 王の命令は聞かなければならないが、その命令を話し合うのは国民の代表者たちだ。

 大きな反発もなく、その後も国は続いている。



「メーメット閣下は言うのです。
 あれが一番の大仕事であったと」

 クレイグは呆然とするタバクを見て笑った。

「任務に背いてはいません。信念にも背いていません。
 悩める王家に加勢して、王が真に望んだようになった。
 国民の願いも叶い、国は勢いを取り戻した。
 剣で力を示すよりも時間はかかったが、あれが最良であったと誇るのです」


 リヴェルノートにてタバクとロディオンとの会談がなされたのはそのすぐ後だ。
 タバクは騎士団に正式な依頼を出した。

 王政と国民主権の両立のために外部から指南役を招く。
 そしてリヴェルノートの立ち合いのもと、新体制に移行する。

 新国家が樹立され、王政ガルザルカは国際的に承認された。
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