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雪に閉ざされて
長い季節
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店に戻るとウーシーが来ていて、これからシェリーに会いに行くと言った。
よろしく伝えてと送り出してから、家令を店のカウンターの下に隠す。
その人はボロに育てられ、学校に行かせてもらい、会計を担うまでになった。
ずっと尊敬してきたのだ、ボスを。
けれど、どうしたわけなのか、最近足を洗いたくなったという。
もうそれは神に出会ったとしか言いようがないくらい、突然嫌になった。
このシュトラール地区の最奥、どん詰まりの縄張りで、世界を牛耳った気になっているのが、たまらなくなった。
彼の話は、幻術の中で聞いた。
もし嘘をついていたらそれも術者には見える。
彼は今のところ真実を話してくれていた。
ボロを名乗る人間は複数いる。
年齢も性別もバラバラで、警吏は逮捕しては偽物、と言うのを繰り返していた。
グラントが幼い頃からすでに伝説だ。
もう死んでいて、今ボロを名乗っているのは何代目かだと言う噂もある。
確かに、ずっと生きているのなら、60歳以上だろう。
ボロを名乗る人間がたくさんいるものだから、その縄張りは疑心暗鬼に陥っているという。
マーシャみたいな家もない。遠くから見ただけではわからない、ボロの拠点。
家令の仕えていたのは本物のボロだという。
60代の男性で、屈強そうな見た目をしている。
ありえない額の金銭をやり取りしていた。だからきっと本物。
違法取引の帳簿を持っていて、ボスの人相を知っている家令。
マーシャが手に入れたのはあの地区で宝の地図みたいな人物だった。
それを、グラントに売った。
グラントは考え事をしながら目の前の市場を見ていた。
扉を開け放した店先にいると、寒い。
そういえば一枚しかないセーターを預けたままだ。
さっきウーシーに頼めばよかったな。後悔した。
市場の通路をシュトラールの年寄りがうろついている。
何か恵んでもらおうとしているだけだから、邪険にする店主もいた。
市場が閉じる時間になった。
追い立てられてテントから出てきた老人と目があう。
1ミリだけ自分よりいい暮らしをしていそうなグラントに近寄ってきた。
「……」
冬の終わりが待ち遠しい。あと1ヶ月は真昼ですら息も凍る寒さである。
なのに老人は体に破れたニットを何重にも巻き付けて、毛皮一枚で覆った足で歩いていた。
ジェロディやコーマックと同じくらいの年かな。
彼らとはずいぶん違う人生を歩いてきた人だ。
どんな青年時代を過ごして、今ここで物乞いをして食い繋ぐことになったのか。
いつもなら無視して店を閉めるのに、グラントは気になってしまった。
小さくて、つついただけで折れそうな体の乞食のことが。
何を考えていたんだろう。
グラントは、着ていた上着を差し出した。
これを与えてしまったら、もう冬の間外出できないかもしれない。
「中に小銭くらいは入っている。
裏に風呂があるよ。あったまって帰って、おじいさん。
冬はもう少し長いから」
口を開けてグラントを見上げた老人は、次の瞬間三度高速のお辞儀をするとジャケットをぐしゃぐしゃに抱きしめて走り去った。
多分、感謝なんてされてない。
その夜、グラントは薪を大盤振る舞いした。
グラントより遥かにいい暮らしをしてきた犯罪者が、寒い寒いとうるさかったからだ。
ベッドを占領したくせに、毛布が足りないって泣くし。ひ弱。
だからマーシャはグラントに売ったんだ。そう思った。
よろしく伝えてと送り出してから、家令を店のカウンターの下に隠す。
その人はボロに育てられ、学校に行かせてもらい、会計を担うまでになった。
ずっと尊敬してきたのだ、ボスを。
けれど、どうしたわけなのか、最近足を洗いたくなったという。
もうそれは神に出会ったとしか言いようがないくらい、突然嫌になった。
このシュトラール地区の最奥、どん詰まりの縄張りで、世界を牛耳った気になっているのが、たまらなくなった。
彼の話は、幻術の中で聞いた。
もし嘘をついていたらそれも術者には見える。
彼は今のところ真実を話してくれていた。
ボロを名乗る人間は複数いる。
年齢も性別もバラバラで、警吏は逮捕しては偽物、と言うのを繰り返していた。
グラントが幼い頃からすでに伝説だ。
もう死んでいて、今ボロを名乗っているのは何代目かだと言う噂もある。
確かに、ずっと生きているのなら、60歳以上だろう。
ボロを名乗る人間がたくさんいるものだから、その縄張りは疑心暗鬼に陥っているという。
マーシャみたいな家もない。遠くから見ただけではわからない、ボロの拠点。
家令の仕えていたのは本物のボロだという。
60代の男性で、屈強そうな見た目をしている。
ありえない額の金銭をやり取りしていた。だからきっと本物。
違法取引の帳簿を持っていて、ボスの人相を知っている家令。
マーシャが手に入れたのはあの地区で宝の地図みたいな人物だった。
それを、グラントに売った。
グラントは考え事をしながら目の前の市場を見ていた。
扉を開け放した店先にいると、寒い。
そういえば一枚しかないセーターを預けたままだ。
さっきウーシーに頼めばよかったな。後悔した。
市場の通路をシュトラールの年寄りがうろついている。
何か恵んでもらおうとしているだけだから、邪険にする店主もいた。
市場が閉じる時間になった。
追い立てられてテントから出てきた老人と目があう。
1ミリだけ自分よりいい暮らしをしていそうなグラントに近寄ってきた。
「……」
冬の終わりが待ち遠しい。あと1ヶ月は真昼ですら息も凍る寒さである。
なのに老人は体に破れたニットを何重にも巻き付けて、毛皮一枚で覆った足で歩いていた。
ジェロディやコーマックと同じくらいの年かな。
彼らとはずいぶん違う人生を歩いてきた人だ。
どんな青年時代を過ごして、今ここで物乞いをして食い繋ぐことになったのか。
いつもなら無視して店を閉めるのに、グラントは気になってしまった。
小さくて、つついただけで折れそうな体の乞食のことが。
何を考えていたんだろう。
グラントは、着ていた上着を差し出した。
これを与えてしまったら、もう冬の間外出できないかもしれない。
「中に小銭くらいは入っている。
裏に風呂があるよ。あったまって帰って、おじいさん。
冬はもう少し長いから」
口を開けてグラントを見上げた老人は、次の瞬間三度高速のお辞儀をするとジャケットをぐしゃぐしゃに抱きしめて走り去った。
多分、感謝なんてされてない。
その夜、グラントは薪を大盤振る舞いした。
グラントより遥かにいい暮らしをしてきた犯罪者が、寒い寒いとうるさかったからだ。
ベッドを占領したくせに、毛布が足りないって泣くし。ひ弱。
だからマーシャはグラントに売ったんだ。そう思った。
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