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雪に閉ざされて
ファミリー
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市場が休みの日、また訪れたグラントに、ジェロディが驚いた。
夜明け前はぎんぎんに冷え込んでいる。
日に日に服が減っていくグラントは、長袖のシャツで震えていた。
ジェロディはその背後に幻術がかかった人物がいることに何故か笑う。
「どうした? その彼、預かってほしいのかな?」
お見通し。
「夜には迎えにきます。ちょっと騒がしいかもしれなくて。
……ケリーは顔を出さないようにお願いしてもいいですか、師匠」
「へえ……」
何の「へえ」だ。グラントは嬉しそうな師匠を見る。
「誰に会いに? マーシャではないんだ?」
「ボロさんです。ちょっと本人を捕まえなきゃならなくなって」
「あぁ……」
ジェロディはちょっと上の方を見て、懐かしむような顔をした。
「彼がファミリーを作ったばかりの頃、会ったことがあるよ。
小柄な人だった。一度逮捕したんだ。
私の魔法のせいで膝上に大火傷してねえ」
「何その重大情報。玄関先でさらっと言うやつですか」
グラントは家令をそっと見る。彼は首を傾げていた。
ボロは何人もいるから、ジェロディが会ったのは偽物かもしれない。
「ちょっと中へ入っていって」
ジェロディは手招きした。
「グラントに返さなきゃならない荷物があってさ。持ってって」
「後にしてくださいよ」
ジェロディの部屋に通されながら、グラントはため息と共に言う。
師匠は「まあまあ」と気にもしていない。
またとんでもなく貧しい家に来た家令は地獄にいる人みたいな顔になっている。
「グラントがここに来た時」
片手の人差し指と親指を近づけた。
「おちびさん頑張って持ってきたものがあるんだよ」
「そういうガラクタは後でいいです」
片手で大きな荷物入れを探すジェロディを止めようとする。
「はい、これ」
振り返ったジェロディは存外に真剣な顔だった。
手にした布をグラントに渡す。
受け取った方はちょっと目を見開き、やはり返そうとした。
そこへもっと大きいものが押しつけられる。
「いらない、それ」
グラントは飛び退いた。家令ごと壁まで下がる。
「やだ、それ。呪われてますけど? 信じられない師匠だよあんたっ」
「いやいやいやいや、呪われてるんじゃないってば」
ジェロディがつまんでいるのはケープだ。
つまんでいる時点でもう触りたくなさそうである。
禍々しいオーラたちのぼるケープ。誰が受け取るものか。
「これは君のおじいさまのケープだよ。
グラントが生きて戦場を出られるよう、こいつを着せたんだ。
かわいかったんだぞう、これを着たグラントは」
足元までケープが垂れ下がっちゃってねえ、と思い出に浸る。
「そんな奴はもういません。忘れて」
「そう言わず。……このクソ寒空の中、シャツ一枚で行く方が呪われそうだよ?」
ぐっ、とグラントが黙った。
そうなのだ。正直、凍りそうに寒い。
走っていればまだいいのに、この家令、動きが遅いから。
「よく見てみなさい」
そう言われて、仕方なく受け取った。
首を守れるように襟のついた、短いケープだ。
自分はこれを引きずってここにやってきたらしい。
襟もとの素材は魔物で、どうしてかまだ、生きている?
「きっとさ、グラントを守りたいと思うんだよ」
「この魔物に意思なんかない」
ずばっと言ってやったが、グラントはそれを羽織った。あったかいに逆らえない。
時間を食ってしまったので早足で孤児院を出た。
都の汚れの一切合切を含んで流れてきた川の上を、小さな船が何艘も通っている。
正規の出入り口ではないけれど、この先の城壁は穴あきだ。
小さな船ならギリギリ通れる。
森の中をあと2~3時間も行けば海に出るのだ。
そこまで商品を運べば、犯罪を行っていても逃げ切れる。
今、このどこかでボロの奴隷船が航行している。
シュッツフォルトで奴隷の売買は禁止だ。
杖と共に握った布に気付き、グラントはケープの内側のポケットにそれをしまう。
マーシャの縄張りを出る直前に幻を使おうとした。
シュトラールにいてもおかしくない格好をしていないと、絡まれる。
ケープが変化して、貧しい者の着古したチュニックになる。
グラントは頰をひきつらせた。
これは、やはり生きた魔物。
グラントのなりたいものを察知して勝手に動いた。
後でよく調べることにして、川沿いを急ぐ。
貧民街の面積は小さい。若いものの足なら端から端まで歩いてもあっという間である。
船が壁を出る予定は日の出の時間。城壁の外では少し大きな船が待っている。
大きな規模の取引なので、ボロも来るのだ。そこで捕まえる。
川を見ながら、汚いなりの大柄な貧者は走っていた。
城壁が朝の空に浮かび上がる。もうボロの縄張りのはずだ。
グラントは、桟橋を出て行き始めた船に杖を向けた。
「エコー」
音の精霊を呼び出す。羽根のついた女の子の妖精で、10歳くらいの子供に見えた。
「逃げたと知らせて、船の近くに飛び込んで戻ってきて?」
散々使い出が分からないと言っておいて、そんな指令を出す主だ。
精霊はとんでもなく冷たそうな川を見やる。グラントはそれを宙に放った。
言われた通り、逃げた、と叫んで水に落ちる。
音の精霊エコーの声は、川を進む船の中にいる全員に届いた。
荷に布を被せた細長い小舟が何層か城壁に向かっていたが、止まった。
一番桟橋に近い船が引き返す。
布の下から顔を覗かせたのは、貧民街に珍しい、60代の男性だった。
音速で飛んで帰ってきたエコーをしまう。グラントは土手からその男性に杖を向けた。
「ボロさん!」
呼びかけると、その男性はこちらを見たのだ。
「捕まってもらいます」
小舟を覆っている布が宙へ浮かぶ。
くるくると男性を包んで桟橋へ倒した。
船の中にはびっしりと人間が蹲っている。
男性のポケットを確かめると商品リストを持っていた。
夜明け前はぎんぎんに冷え込んでいる。
日に日に服が減っていくグラントは、長袖のシャツで震えていた。
ジェロディはその背後に幻術がかかった人物がいることに何故か笑う。
「どうした? その彼、預かってほしいのかな?」
お見通し。
「夜には迎えにきます。ちょっと騒がしいかもしれなくて。
……ケリーは顔を出さないようにお願いしてもいいですか、師匠」
「へえ……」
何の「へえ」だ。グラントは嬉しそうな師匠を見る。
「誰に会いに? マーシャではないんだ?」
「ボロさんです。ちょっと本人を捕まえなきゃならなくなって」
「あぁ……」
ジェロディはちょっと上の方を見て、懐かしむような顔をした。
「彼がファミリーを作ったばかりの頃、会ったことがあるよ。
小柄な人だった。一度逮捕したんだ。
私の魔法のせいで膝上に大火傷してねえ」
「何その重大情報。玄関先でさらっと言うやつですか」
グラントは家令をそっと見る。彼は首を傾げていた。
ボロは何人もいるから、ジェロディが会ったのは偽物かもしれない。
「ちょっと中へ入っていって」
ジェロディは手招きした。
「グラントに返さなきゃならない荷物があってさ。持ってって」
「後にしてくださいよ」
ジェロディの部屋に通されながら、グラントはため息と共に言う。
師匠は「まあまあ」と気にもしていない。
またとんでもなく貧しい家に来た家令は地獄にいる人みたいな顔になっている。
「グラントがここに来た時」
片手の人差し指と親指を近づけた。
「おちびさん頑張って持ってきたものがあるんだよ」
「そういうガラクタは後でいいです」
片手で大きな荷物入れを探すジェロディを止めようとする。
「はい、これ」
振り返ったジェロディは存外に真剣な顔だった。
手にした布をグラントに渡す。
受け取った方はちょっと目を見開き、やはり返そうとした。
そこへもっと大きいものが押しつけられる。
「いらない、それ」
グラントは飛び退いた。家令ごと壁まで下がる。
「やだ、それ。呪われてますけど? 信じられない師匠だよあんたっ」
「いやいやいやいや、呪われてるんじゃないってば」
ジェロディがつまんでいるのはケープだ。
つまんでいる時点でもう触りたくなさそうである。
禍々しいオーラたちのぼるケープ。誰が受け取るものか。
「これは君のおじいさまのケープだよ。
グラントが生きて戦場を出られるよう、こいつを着せたんだ。
かわいかったんだぞう、これを着たグラントは」
足元までケープが垂れ下がっちゃってねえ、と思い出に浸る。
「そんな奴はもういません。忘れて」
「そう言わず。……このクソ寒空の中、シャツ一枚で行く方が呪われそうだよ?」
ぐっ、とグラントが黙った。
そうなのだ。正直、凍りそうに寒い。
走っていればまだいいのに、この家令、動きが遅いから。
「よく見てみなさい」
そう言われて、仕方なく受け取った。
首を守れるように襟のついた、短いケープだ。
自分はこれを引きずってここにやってきたらしい。
襟もとの素材は魔物で、どうしてかまだ、生きている?
「きっとさ、グラントを守りたいと思うんだよ」
「この魔物に意思なんかない」
ずばっと言ってやったが、グラントはそれを羽織った。あったかいに逆らえない。
時間を食ってしまったので早足で孤児院を出た。
都の汚れの一切合切を含んで流れてきた川の上を、小さな船が何艘も通っている。
正規の出入り口ではないけれど、この先の城壁は穴あきだ。
小さな船ならギリギリ通れる。
森の中をあと2~3時間も行けば海に出るのだ。
そこまで商品を運べば、犯罪を行っていても逃げ切れる。
今、このどこかでボロの奴隷船が航行している。
シュッツフォルトで奴隷の売買は禁止だ。
杖と共に握った布に気付き、グラントはケープの内側のポケットにそれをしまう。
マーシャの縄張りを出る直前に幻を使おうとした。
シュトラールにいてもおかしくない格好をしていないと、絡まれる。
ケープが変化して、貧しい者の着古したチュニックになる。
グラントは頰をひきつらせた。
これは、やはり生きた魔物。
グラントのなりたいものを察知して勝手に動いた。
後でよく調べることにして、川沿いを急ぐ。
貧民街の面積は小さい。若いものの足なら端から端まで歩いてもあっという間である。
船が壁を出る予定は日の出の時間。城壁の外では少し大きな船が待っている。
大きな規模の取引なので、ボロも来るのだ。そこで捕まえる。
川を見ながら、汚いなりの大柄な貧者は走っていた。
城壁が朝の空に浮かび上がる。もうボロの縄張りのはずだ。
グラントは、桟橋を出て行き始めた船に杖を向けた。
「エコー」
音の精霊を呼び出す。羽根のついた女の子の妖精で、10歳くらいの子供に見えた。
「逃げたと知らせて、船の近くに飛び込んで戻ってきて?」
散々使い出が分からないと言っておいて、そんな指令を出す主だ。
精霊はとんでもなく冷たそうな川を見やる。グラントはそれを宙に放った。
言われた通り、逃げた、と叫んで水に落ちる。
音の精霊エコーの声は、川を進む船の中にいる全員に届いた。
荷に布を被せた細長い小舟が何層か城壁に向かっていたが、止まった。
一番桟橋に近い船が引き返す。
布の下から顔を覗かせたのは、貧民街に珍しい、60代の男性だった。
音速で飛んで帰ってきたエコーをしまう。グラントは土手からその男性に杖を向けた。
「ボロさん!」
呼びかけると、その男性はこちらを見たのだ。
「捕まってもらいます」
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【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
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