ただの魔法使いです

端木 子恭

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貿易島

島の主

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 小さな白い石を眺めながら大きな建物の中を歩いていた。

「これは、どうしたものかな」

 すごーくちまちまと魔力を貯めて、すごーくちまちまと出せる。
 貯めておく量は多いようなので、グラントはちまちまと貯め続けた。

「石によって特性があるんだね。冬に戦った将のはものすごく戦いに向いていたんだ」

 罠かな。これを使うとしたら。それとも暗殺?

 心持ちのせいか物騒な使い道しか浮かばない。
 思わず呪いでもこめそうになって必死に自制した。




 帰ったら、絶っっ対、苦情を入れる。




 何やら魔物のような顔つきになっている。
 そんな青年のことをびくびくと覗き見ながら、ポノとゾベルはあたりを窺っていた。

 5階建ての建物は広く、賭場には信じられないほどの人間がいる。
 誰が偉い人なのかよく分からないのだ。
 
 突然人がざわめいて、誰かが入ってきた。
 40代……というか、ジェロディよりも年上に見えるふくよかな男性が賭場に入ってきたところだった。
 そばには杖を持った青年がついている。

 何人もの護衛に囲まれた男性は、宿泊施設へと向かう階段を登り始めた。
 ポノがそちらに走っていく。ゾベルもグラントも後を追った。

「オーディさんですか!?」

 階段の下でポノが大きな声で尋ねる。
 男性はちょっと顔をこちらに向けたが、知らない子だったのですぐに歩き始めた。

「待ってください! お話があるんです!」

 ゾベルもぴょんぴょんはねながら言い募る。
 男性のそばにいた青年が険しい表情になった。

「約束のない者の話は聞けないよ」

 腕の長さほどの杖は、この辺りの魔法使いの標準だろうか。
 琥珀色の瞳の魔法使いを、グラントはうっそりと見上げる。

「急ぎなんです。泥棒のことで、オーディさんに相談したいことが」
「だめだ」

 青年はあがりかけた階段から駆け下りてきた。
 杖を振るのと同時に、グラントは二人を抱え込む。魔王が翼を広げた。

 ぼっ、と火がつく音がする。
 青年の杖から放たれた炎が翼の上を舐めるように通過した。

「怪しい者じゃないんです」

 素早くその魔法使いの手を掴んで、グラントが言う。
 空いている手で杖の方を握った。

「……助けてほしいんです」

 およそ助けを求める者ではない。
 不遜にも見える表情で、灯りに照らされる琥珀色の瞳を覗いた。

 グラントは杖が壊れてもいいというくらいの力で幻術にかける。
 急にどこか狭い空間に閉じ込められた感じがして、彼はその場に倒れた。
 グラントがゾベルとポノを手招きする。

「今だ、拉致っ」
「ええ!? はいっ」

 とんでもない言葉に動揺しつつ、ポノはオーディの腕を掴んで階段を上がった。
 ゾベルは倒れた青年を担ぎ上げてそれを追う。
 グラントは羽を広げたままの魔王で威嚇しながら追っ手を足止めした。

「オーディさん、話を聞いてください。本当に急ぎの話があるだけなんです」

 倒れた青年を見やって、島の主オーディは最上階の自宅へ案内してくれた。

「フリックは無事なのか」

 自宅に着いて第一にオーディは彼を気遣う。
 ゾベルは部屋の中にソファや長椅子の数が多すぎてどこに青年を下ろしたらいいのか分からない様子だった。

 オーディに言われてテーブルの近くのに横たわらせる。
 魔王は家に入るとケープに戻った。

「無事です。幻術で意識がこちらに戻らないだけです。
 ……オーディさん、これを読んでください」

 グラントは先にヘイゼルからの手紙を渡す。
 すぐにフリックの元へ行って杖を借りた。

 この杖はものすごく快適に使える。フリックは戦える魔法使いなのだ。

 ただ、若そうだ。二十歳くらいか。
 経験が少ない分、簡単に幻術にかかった。

 幻術を解いてやる。彼はすぐに飛び起きた。

「攻撃はなし。いい?」

 杖をフリックから遠ざけて、グラントは問う。
 彼はオーディを見た。手紙を読み終えた主は護衛を手で制す。

「ああ。本当に、彼らは私を襲おうとしたわけじゃないみたいだ」
「わかりました」

 グラントから杖を受け取って、フリックはオーディの元へ戻った。

「昨夜から盗みが頻発しています。お聞き及びでしょうか?」

 グラントは二人に尋ねる。

「犯人はジャジットと名乗って、ここにいるポノと同じ船で昨日入港しました。
 わたしの雇い主からも油をひと樽盗んで行きました。
 船の中でわたしととゾベルが謂れなく疑いをかけられて武器を取り上げられたままです。
 ジャジットを捕まえるために力を貸していただきたい」
「島の警務隊では敵わないというのは、そんなに強い魔物なのか?」

 オーディはしんどそうに息をしながら近くのソファに座った。
 腹が大きくてひっくり返るみたいな姿勢になる。

「魔物としては強くはありません。正体は蜘蛛です。
 幻術のようなものを使って人をいっときぼうっとさせることができるようです。
 知恵が回るらしくて、こちらにちょっかいをかけては逃げています」

 グラントは説明を終えた後、何か言いたげにオーディを見て、フリックを見た。

「なんですか」

 フリックは怪訝な顔をする。グラントは静かに手を出した。

「杖を。オーディさんの呼吸を治すから」
「呼吸を治す?」
「今、息がしづらいでしょう? このまま放っておいたら近いうちに息が止まりますよ」

 心当たりがある。二人は即座に黙った。フリックが杖を渡す。


「僧侶」


 グラントが唱えると、神官服を着た人影がオーディの前に出てきた。
 頬に触れ、喉に触れて、消える。
 オーディが咽せこんだ。慌ててどこかへ走っていく。何かを吐き出す音が聞こえた。
 
 フリックがグラントから杖を奪い取って主の様子を見にいく。
 青ざめた顔のゾベルとポノが逃げ出しそうに足をそわそわさせていた。

 ややして戻ってきた時、オーディの顔色は明るくなっている。

「本当だ。息が吸えてる感じがある」



 彼はそして、テーブルに書状のセットを用意させた。

「グラントのために、蜘蛛の魔物ジャジットに懸賞金をかけよう」

 思いがけない提案をくれる。

「生死は問わない。仕留めたものに払う。
 ……フリックも行くかい?
 グラントは幻術使いだが、剣士としても凄腕だと、手紙に書いてある」



 ヘイゼルさん。



 グラントがよどんだ目になった。

 オーディはフリックに手配書を渡す。

「この建物を出るときに、余っている杖を彼に貸そう」
「わかりました」

 フリックは手紙をポケットにしまった。
 ゾベル、ポノ、フリックと、3人背丈が同じくらい。
 グラントは、なんだか引率のような気になって困った顔をした。

 正直、何かあっても守れる気がしないのだが大丈夫だろうか。
 今は自分のことにも不便をしている。

 そんな顔をどう受け取ったのか、オーディは証人たちを保護すると申し出た。
 大喜びしていたので素直に甘えることにする。

 宿屋の1階で仲間に手配書の配布を頼んでから、フリックは物置に案内した。

 たたまれたベッドや掃除用具などの間を通り、一番奥の箱を示す。
 杖が無造作に入っていた。

「好きなのを」

 グラントは古そうな杖を手に取る。
 どれも腕の長さほどの短いものだ。


「……これは何でできてるの?」

 警務隊が使っていたような杖がある。
 やはり枯れ枝のように頼りない杖を取り出して聞いた。
 白いものでできている。
 牙か、角?


「骨です」


 フリックの答えに杖を取り落としそうになった。

「何の?」
「半獣半魔の獣の骨です。
 どんなにわずかな魔力でも、拾って発現させます」
「その代わり、あまり大きな魔力を出すのには向かない?」
「そうです」

 枯れ枝みたいって言って申し訳ない。
 杖には杖の作られた目的があった。

「これはどうかな」

 金属でできた、グラントのショートソードと同じくらいの重さの杖がある。
 杖の頭には赤褐色の石で大波が立ったような装飾がついていた。

「思い切り使っても大丈夫そう?」

 フリックに渡す。彼はよく調べるように杖を目の近くで見た。
 その体の前に何か一筋光った気がして、グラントは指を伸ばす。

「フリック」

 
 目を上げかけた若い魔法使いの手から杖が奪い取られた。



「ジャジットがいる」



 あたりをうかがおうとした瞬間、フリックはからだに絡まった蜘蛛の糸で床に引き倒されていた。
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