ただの魔法使いです

端木 子恭

文字の大きさ
54 / 175
シュトラールの新生

面会

しおりを挟む
 マーシャを見送った足で薪をひと束買った。
 グラントはシュトラールの真ん中へ急いで入る。

 この辺りは勝手に地面を掘っていろんなところに地下住居やら地下通路やらが通っていた。
 ひときわ熱気を感じる工場の前でグラントは立ち止まる。

 アイロン屋だ。

 中の男性が気づいて扉を開けるように指示した。

「本当に薪持ってきてくれたのか」

 奥の方から声がする。朝会った男性がいて、その奥は薬品を作る工場になっていた。
 ウーシーも似たような装置を扱っている。
 彼の場合、作っているのはちゃんとしたもの。たぶん。

「いくらで買ってもらえますか」

 薪を掲げてグラントが聞いた。
 フィンは考えるように顎に手をやる。

「そういや、今朝はちゃんと川岸をきれいにしといてくれてありがとうな。
 無事に荷が通ったよ」
「そうですか」

 グラントは薪をフィンに放った。お返しに銅の粒がいくつか飛んでくる。
 フィンはそばの人間に薪を渡した。

「で、なんか話したいことがあったんだっけ?
 今、聞くよ? グラント」

 フィンはグラントと距離をあけたまま言う。
 たぶん聞いているのだ。グラントが剣を扱うことを。

「バレットに嫌がらせするのやめてください。
 わたしはあなたの事業を乗っ取ったりしない。害はないはず」

 フィンはふらふらと首を左右に振って考える。 

「んー……。そうなんだけどさ。
 俺自身が、ボロにそうやってゆるーく見守られてこうなったんだよな。
 棲み分け? さえ気をつけてくれればいいって言うもんで。
 で、結果こんなにのさばった。
 ……それじゃあグラントをゆるく見守るわけにいかないよな」
「決闘になりますか?」
「それもだるい話だよなあ」

 フィンは歯を見せて笑う。

「グラントがうちの下につけばいいんじゃないのかな」

 一見、力仕事を生業としているような外見の彼は、明るく提案した。
 大工とか、そういう職人にこういう感じの人がいそうだ。
 
「組織犯罪がなんで嫌いなんだ? 今日明日の食い扶持を手軽に稼げるなら、いいだろう。
 薬、儲かるよ?」
「儲かるのはフィンだけでしょ?
 薬品工場は長時間労働で支えられています。
 労働者は何ヶ月も労務に耐えて、商品が売れた時だけ贅沢ができる。
 こそこそやるから、事故になった時は命の危険がある。
 勘定が合わないですよ」
「兵団なら、合うのかな? つまらなくないか? 何の夢も見えない」
「でかい夢なんか、いらないんです」

 グラントはフィンをまっすぐ見る。

「今日明日の食い扶持なら、毎日小さな労務を積み重ねたほうが長く手に入る。
 運悪くあぶれてしまった時は、バレットが守る」
「あぁ… …。グラントはミールズにいたんだもんな。
 ジェロディはいい人だ。あそこに行くのは誰も引き取りたがらない子じゃない。
 困ったら施すのが当たり前だと教わったんだ。善意で世界が成り立ってるわけだ」

 フィンが頭を掻いた。

「じゃあ、やっぱり分かり合えないかなあ」



 外で叫び声が上がる。


 工場の中に入ってきた人間がフィンに報告した。

「マーシャの一家がバレットを襲ってる」

 フィンが一瞬口をあんぐり開けて動きを止める。
 それはすぐ大きな笑いに変わった。

「おもしろいなあ。何してきたんだ、グラント?」
「昼食のついでに、マーシャを牢獄へ送りました」
「本当?」

 顎下の無精髭を拳で触りながら、フィンはグラントを見つめる。

「マーシャとは結構話をする仲だったんだよ。
 だけど、グラントに噛まれるとは一瞬たりとも思ってなかったね」

 やっぱり仲良しだったんだ。

 グラントはこっそりため息をつく。

「猫かぶりなんだなあ。いつまでもかわいい弟のふりをしてたのか」
「マーシャがそう望んだから、そう見えていただけでは?」
「それは魔法?」
「思い込みです」

 フィンが長く唸った。

「グラント協定が崩れたわけだ。どうしよう。
 俺がシュトラールをもらうチャンスかな」

 そばにいる人間に声をかける。

「全員で行って、マーシャの一家に加勢してこい。
 バレットを潰したらマーシャの家もやる」

 工場にいた人間が外へ出ていった。
 フィンはグラントの様子を改めて見る。

「なんで置いてきちゃったの? 武器」
「薪を届けに来ただけだったので」

 グラントが窓と扉を確かめた。

「だめだ。外には出さない。… …今出たら危ないもんな」

 この人は自信がある。
 腕力でグラントより勝ると。

「……」

 グラントが右手の小指を左手で覆う。
 手のひらを上に向けて、フィンの奥にあるガラス管を指した。

「ここもだいぶ危ないですよ」

 フィンが伏せた。赤い線が飛んでいく。器具を割り、壁に跳ね返った。
 何かに引火して爆風が襲ってくる。

 グラントは作業台に隠れた。
 
 窓が全て吹き飛ぶ。扉も蝶番が外れて外へ開いた。
 
 どんどん奥の方へ爆発が広がっていく。

「どんだけ広い工場作ったんですか」
「甘やかされたって言ったよな」

 いつの間にかそばにきたフィンがグラントの体を押さえつけた。

「でも俺は甘やかさない」

 首に手がかかる。グラントは転がって逃れた。
 確かにフィンの方が力がある。

 床からグラントの膝あたりを掴んだ。そのまま引きずり倒す。

 体を捻ったグラントが、右手でフィンの腹を指した。
 左手は小指を覆ったままだ。
 工場を縦横無尽に弾け飛んでいた赤い光が、その時戻ってくる。
 
 フィンは何かを吐き出すような叫び声を上げた。
 グラントが即座に立ち上がってフィンを引っ張る。
 向かいの家に飛び込んで、フィンの傷に水桶の水をぶちまけた。
 
 洗濯紐をもらってフィンの両手と両足をまとめると肩に担ぐ。
 フットマンを呼んだ。

「ケイレブに、シュトラールのことを知らせて。レイが巻き込まれてる」
「承知しました」

 三人の男の子たちは走って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ

よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。   剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。  しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。   それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。 「期待外れだ」 「国の恥晒しめ」   掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。  だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。 『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』  彼だけが気づいた真実。  それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。  これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。 【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。

処理中です...