ただの魔法使いです

端木 子恭

文字の大きさ
77 / 175
麦秀に寄す心

それぞれに思惑がある

しおりを挟む
 シュトラールに戻った。

 グラントはまず、ポーターに宿題が終わっていないことを報告しなければならない。
 だが、ケイレブがあっという間に彼をどこかへさらっていった。
 レイはケリーの元へ行くという。

 理由は教えてもらえないまま、グラントはバレットの団員に魔物の鳥たちを紹介した。
 最初に会ったのがアッシャー侯爵だったせいか、すんなり受け入れる。
 彼らは話しながら建設現場に連れていった。

 もはやセットになっているダンスの講師とエコーをフットマンに託して、グラントは外へ出る。
 都の空気はさらっとしていた。

 アッシャーの領地へ赴く。
 屋敷の従僕に礼状を託してさっと離れた。
 

 市場へ寄ったら、奥様方に久しぶりだと声をかけられる。
 大きくなった? って聞かれるのに納得がいかない。



 食べ物を買って、ジェロディのところへ行った。



「おかえり。ずいぶんかかったねえ」

 子どもと戯れていたジェロディが笑う。

「寄り道してたんです」

 その顔を見た途端、ほっと力が抜けてしまった。
 足元に置いた荷物を子どもたちが引きずっていく。

「グラントがいない間、バレットから定期的に色々届いてたんだよ。 
 ポーターが手配してくれてね。助かっちゃった」



 悪びれてない師匠にむっと唇を引き結んだ。



「余計なことしないでってお願いしたのに」
「それは覚えてたけど、グラントが行った方がいいって気がしたんだ」
「南の辺境領まで足を運びました」

 そして一旦黙ったグラントは、ジェロディを窺い見た。
 その目が大いに迷っている。何と切り出したらいいか。

「メイソン卿は優しい方ですね。いいお父様という感じで。
 バロールにいたなんて信じられないような穏やかな方でした」
「そうだよねえ。若い頃から優しいよ」

 ジェロディはグラントに付き合うことにしたらしい。
 相槌を打って弟子を見つめた。

「リケが狙われたのは、そのメイソン卿を知っている者が敵にいたからでした。
 隣国のクーデターの直前に雇われた魔法使い。
 その人が逃走先にリケを選んだんです」
「へえ……、そうだったんだ」
「ジェロディがよく知っている人です。幻術を使う……」
「ガンナー?」

 そう確かめたジェロディの顔は、あまり動揺が分からない。

「その人です」

 国を追われたと言っていた。
 ジェロディとはその後も何度かかちあっているのだろう。

「元気だったかな?」
「痩せてました。もとからですか?」
「……」

 動揺がないのではない。
 グラントは伏せられた瞼を見て気づいた。
 未だ鎮まらない怒りを抱えている。ジェロディが。

「強かったです。どうやって幻術にかかったのかわからないんです。
 気がついたらわたしは違う人になっていて、戻ってくるのに手間どりました。
 わたしの幻術も、かかってあっという間に解いてくるんです」

「あいつのかけ方は参考にしちゃいけないよ。
 自分にもかけて、一緒に引きずりこんでるんだから。
 いつか自分だって出られなくなるような使い方だよ」

 幻のストーリーにガンナー自身が現れたのを思い出した。
 彼はいたのか。あの時あの場に。一緒に。

「ジェロディに、責任なんかないって言ってました」
「あいつに言ってもらわなくても分かってる。
 ガンナーは今、隣国で捕まってるのかな?」
「いいえ。逃げました」
「なるほどね」

 ジェロディは打ち切るように言うと、子どもたちのところへ戻った。

 グラントもしばらく遊んでいたが、魔物の鳥が迎えにくる。
 ポーターが呼んでいるというので急いで帰った。





 宿題が、と報告しようとしたのだ。

 ぎょろっとした目でグラントを見上げる家令は、その迫力だけで押し黙らせる。

「グラントは、今日は、執務館へ。出ちゃいけません」
「なんで?」
「何も考えずに署名を」

 たまっているらしい。
 グラントは大人しく執務館に入った。
 
 ジョニールから葡萄の世話に人員を回してくれないかと手紙が来ている。
 エリンは蜜蝋が足りなくなりそうだってお願いの手紙をよこしていた。
 ポノからの、普通にどうしてるか尋ねる手紙がある。
 ヘイゼルから貿易の護衛を再度頼まれていた。
 商人組合からも国内の領地への行商に数人連れて行きたいと連絡が来ている。

 頻繁に仕事を追加にやってくるポーターに人手の確認をして返事を書いた。
 その度に、彼はラグラスの者と相談をする。
 
 書類には段々、役所への届出が増えてきた。
 何も考えるなと言われたけれど、これは。

 国土省への土地の使用許可願。修繕届。森林の伐採許可願。土地の掘削計画届。
 運輸省への港使用届。交易開始届。航路指定図。交易拠点詳細。新規道路開拓許可願。
 経済省への商い開始届。産業省への耕作地登録。学校の開設届。
 その他にもいろいろなところへ届出を出そうとしている。



「……何考えてるのか考えちゃうんだけど」



 新たな紙を抱えてきたポーターに問う。

「今から考えていたら身が持ちませんよ」

 果たして、家令は目でぎんぎんとグラントを強めに射て宣った。

「頭が働かなくなるくらい働いてもらう予定です。
 さあ、早く署名し切ってください。悪いようにはなりません」
「怖い」

 どこかの領地の整備を依頼されたようである。
 書類を斜め読みしながらグラントは段々事業の内容を掴んでいた。

 領地名が空欄になっている。

 広い耕作地が望め、交易拠点として利のある土地。
 学校も商店もそこに建てる。
 森林に侵食されているので大規模な伐採が必要なのだ。
 人手が足りないからバレットに依頼している?

 交易の開始を急ぎたい時には、先に書類だけ揃えることもあった。
 リケとの交易の願いで、まだ正式に決まっていないからうめられないのかな。

 首を傾げる。

 悪いようにはならないというポーターの言葉を信じるしかない。
 届出関係が終わった時、書類にエムリンの名前があったので手に取った。

 推薦書だ。

 秋から従騎士として雇ってもらうための書類だった。

「決まったんだ」

 冬からずっと探してもらっていて、返事を待っていた。
 願書を出した騎士団や兵団は三つ。
 宗教騎士団ピコ。侯爵家の後援を得ている豪商たちの兵団ティト。
 そして侯爵家がいくつかで共同所有している騎士団クイル。

 今回返事をくれたのはクイルだ。

 付く騎士の名はケイレブになっている。
 彼は面倒見が良さそうだから、きっとしっかり教えてくれる。

「あ、赴任地……」

 コーマックのところになっていた。
 ケイレブがエムリンを雇って赴く。
 そこでコーマックの私兵と過ごす。


 じじいに手紙を書こうと考えた。
 絶対に無茶をさせないように。
 グラントの釘なんか刺さるはずもないけれど、言っておかないとならない。
 

 何年か後、バレットには、騎士がいることになるのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ

よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。   剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。  しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。   それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。 「期待外れだ」 「国の恥晒しめ」   掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。  だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。 『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』  彼だけが気づいた真実。  それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。  これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。 【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。

処理中です...