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Allied Forces
護衛 -エスコート-
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王宮の前の庭園で、隠れていられるかなと思った。
応接間に通されたご婦人方を迎えにいくにはまだ早い時間である。
「もう来てたのか」
明るい声がして、そちらを向くとヘイゼルがいた。
また少しふくよかになった感じがして、グラントは瞬間だけ息を止める。
傍らにはそんな彼よりもふっくらした夫人が付き添っていた。
「ヘイゼルさん。お久しぶりです。
初めまして、夫人。グラント・ルースです」
グラントは膝を折って挨拶する。
「ご夫妻も宴会に出るのですか? 見知った顔がいてほっとしました」
「いや、我々は舞踏会からなんだが、早めに来て人と話すんだよ」
残念そうな顔をしてヘイゼルは言った。
それから、グラントの近くに控えているエルネストとトーニャを見る。
グラントと色違いの制服を身につけたエルネストは端正な立ち姿で夫妻を見返した。
トーニャはケリーとお揃いのドレスを着ている。
宝石を貼りつけ、光沢の出る糸で刺繍された華やかな服だった。
こちらに来てから婦人三人で作ったと胸を張っていた服だ。
「彼らはわたしの護衛です。ラグラスのエルネストとトーニャ。
ヘイゼルさんは都の石油商だよ。春に行商に連れて行ってもらった」
それからもお世話になっている。
ポーターは早く彼と話がしたそうだ。
「我が主へのご厚情に感謝致します。
ラグラスが協力できることがあればご相談ください」
エスネストに合わせてトーニャも頭を下げる。
「ゾベルは船に乗ってますか」
字を書くのが得意ではない彼は、あまり連絡をくれなかった。
仕事のついでに近くを通った時には挨拶をしていく。
グラントは不在のことも多く、人づてに仕事に励んでいることは聞いていた。
「今は貿易隊について行ってるよ。
自分の商いが難しいらしくて、苦労してる。
……ああ、こんな普通の口を聞いてしまったけれど、グラントはもはや辺境伯だ。
敬意を」
「不要です」
気づいて慌てるそぶりをしたヘイゼルを制す。
「辺境伯は、たまたま授かったようなものなのです。
わたしは変わらず魔法使いのグラントですよ」
「そう言ってもらえると、ほっとするね」
ヘイゼルは他にも顔見知りを見つけてそちらへ手をあげた。
「明くる月に最後の行商へ出る。その時に本当にラグラスへ寄りたい。
どうかな。戦場になったと聞いているが、滞在しても構わないかい?」
「是非に。立ち寄ってくださるのは嬉しいです」
「……もしかしたら、商談もしていいかい?
冬の間、港が凍らない場所に掘り出した石油を貯めておけないかと。
まあ色々考えているんだよ。
ラグラスには手数料が入るから、いい話だと思うんだが……。また後で話そう」
ヘイゼルは他の豪商のところへ歩いて行く。
こうやって過ごしていたら一刻だってあっという間だ。
グラントは出だしから渇いてしまった喉に触れる。
「もう気疲れしたのかな? グラント」
魔物の声にうっそりした視線を流した。
ふわふわの正装をしたアッシャー侯爵が笑っている。
従者たちも美しく様相が整っていて思わず見惚れる人間も多かった。
「ラグラス辺境伯、就任おめでとう。
お祝いはまた改めてしようね」
親戚のおじさんはかまう理由を見つけて楽しそうである。
「魔物を三人も引き連れて、すっかり主だ」
三人、……魔王のことか。
グラントはこの侯爵の前では途端に不機嫌になるケープの裾をつまんだ。
「閣下にはめられてなってしまったんですよ。
あまりに良い内容の推薦をいただきました。
嘘や誇張だって暴かれないか心配してます」
「私の推薦なんて大した力もない。
きっとダヴィ殿下の言葉が大きかった。……つまり、シェリー殿下がグラントを推したんだ」
「あの二人はもうそんなに親しいのですか」
手紙を一度やりとりしたと言っていた。
「今日は直接聞けるんだ。先入観なしで当たっておいで」
そんなアッシャーを、ラグラスの魔物は歓迎しない様子で見ている。
グラントは気になって首を傾けた。
「もしかして、二人は閣下を見知っている?」
「閣下、きちんとした自己紹介もなさってないのかしら」
切り込むように言ってのけたのはトーニャである。
デラニーの従者たちが緊張した。
「面倒くさくて省いたこともあるけれど、ちゃんと名乗ったよ」
日の色の髪の下、緑がかった瞳が人魚を見て笑う。
その眼差しは剣呑で、魔王は嬉々としてはためいた。
揉め事を歓迎するな。
グラントはぎゅうっと首元を握る。
「トーニャ、彼がこの国で貴族となったのは偶然だ。
我々はもう双方ともこの国の臣民だぞ。きちんと従うんだ。
今のところ、グラントの敵ではない。それでいいだろう」
アッシャーが視線だけエルネストに向けた。
「深慮いたみいる。これからもよろしく」
魔物同士。
ただの魔物ではない。
この三人が暴れたらきっと国は滅ぶ。
「ところで閣下、なんの魔物なんですか?」
グラントが子どものような質問をした。
トーニャの目が、ほら。と言っている。
「王宮に入ったらすぐに分かるよ。
私が城のあかりを贈呈した」
デラニー公は従者を連れて上がっていった。
王宮内に入ってくる馬車は、伯爵家のものが増えてきた。
そろそろパートナーを迎えにいく者も出てくる。
ジョニール公はグラントの近くでわざわざ車を止めた。
娘のキアを伴っている。
後で彼女と踊ってくれるよう頼まれた。
リケ公の一家もグラントに声をかけてから王宮へ入る。
子どもの頃からおつかいに行っていた領主たちはグラントに手を挙げて通り過ぎた。
ラグラスってどこなの? ノルトエーデじゃないのか?
通り過ぎざまにそういう質問が多かった。
ずっと最後の方にユーリー家の馬車が入る。
出だしから不機嫌そうな顔をしていたレイが、グラントを見つけると馬車を下りた。
「人見知りか?」
随分な確認をしてくる。
「中に入る時機が分かんなかったかもしれないな」
「行くぞ。もう始まる」
レイは早足でグラントを押した。
クイルの服を着ている。
うっそりした顔でグラントは押されて歩いた。
「……先に行って。わたしは、…」
馬車道の終点まできたところでレイに言う。
後ろを振り返った。
馬車が一台来るところで、宴会に招かれているのはそれで最後のようだ。
「ノルトエーデ公」
旗を確認して、王宮の従者たちが礼をする。
「じじい、遅い。背中が痛むの?」
扉が開いたところで声をかけた。
コーマックの軍服姿はこういう時くらいしか見られない。
何個あるっていうくらいの勲章も、普段は箱の中に放り込まれていた。
「……グラント」
何かまた偏屈を言いかけたコーマックが口を閉じた。
制服を着たグラントを初めて見る。
袖口の紋章は彼の家のもので、二十年ぶりに公に復活した。
祖父と見分けるために外縁紋が異なっている。
豆粒みたいに見えた最初の姿が浮かんで、老いた自分に笑った。
「何してる。殿下は? 遅れるぞ、早く行け」
「じじいを下ろしたら行く」
杖を受け取って手を貸す。
地面に足がついたのを確認してから小声で何か伝えた。
「では、行ってくる。もう中でじじいとは話せないかもしれないね。
無理せず辛くなったらとっとと帰れ」
杖を握らせるとレイと一緒に王宮へ入っていく。
「じいさん、進んで。つっかえてる」
後ろからジェロディがせっついた。
コーマックの場合、薬当番も連れてきているのでちょっと人数が多い。
初めての任務で緊張しているエムリンがジェロディの背中にぶつかる。
「何だ、何か嬉しいこと言われた?」
「寿命が訪れそうだ。グラントが礼を言った」
ぼそっとコーマックが言った。
ジェロディはへえ、と応えてその傍を通り抜ける。
「まあまあ、あんまり気を緩ませないでほしいんだよな」
今にも魔法を繰り出しそうな構えでジェロディはコーマックを促した。
「いくぞ、巣窟へ」
「そうだな」
ここは出発点。
自分たちも巻き込まれた企みの。
グラントが関わることになった謀りの、始まりだ。
廊下に立つケイレブは目立つ。
腕の太さだけで彼だってわかった。
初めて見る紋章の護衛の服を着ている。
「誰の護衛? レイではないんだ」
「レイに護衛はいらないだろうな」
そういえば馬車に乗っていたのは剣を預かる従者が一人だった。
「宴会の後で話す時間もあるだろう。グラントはシェリー殿下を待たせるな」
「うん」
バレットの従者に杖とケープを預けて応接間に入る。
ケリーとアリアと話しながら待っているシェリーを見つけた。
「お迎えに参りました」
声をかけると、むう、と口を尖らせたアリアが文句を言う。
「お待たせししすぎです」
「先生、ドレスどうですか? いいでしょう? いいですよね」
いい、以外の回答は認められない雰囲気だ。
シェリーのドレスを大絶賛する警護の者は、主人が立ち上がるのを助ける。
ずれたところがないか素早く確認した。
「いいね」
グラントが吹き出しかけるのをひっこめて言う。
上衣には金の絹糸で紋章が刺繍してあった。
花を模っている。外縁の刺繍は波のよう。
モスはブローチにしてもらっている。
シェリーはグラントの手を丁寧に取って歩き出した。
「今日、もしどんな決定がなされたとしても」
足元を確かめて廊下を進む。
シェリーは傍らの魔法使いの手をしっかり握った。
「どうなったとしても、グラントは私の友だちでいてくれますか」
緊張した声にグラントは当然だと答える。
「わたしは貴族でも平民でもないシェリーと友だちになったんだよ。
爵位も玉座も関係ない」
黒地に金色の絹を纏ったシェリーを見つめた。
グラントの杖のような装いのシェリーを。
「今日ここにいるのは、殿下のためじゃない。
友だちに寄り添うと決めてきた。心配いらない」
グラントが笑ったのがわかって、シェリーは頬を緩める。
「ありがとう。元気が出た」
応接間に通されたご婦人方を迎えにいくにはまだ早い時間である。
「もう来てたのか」
明るい声がして、そちらを向くとヘイゼルがいた。
また少しふくよかになった感じがして、グラントは瞬間だけ息を止める。
傍らにはそんな彼よりもふっくらした夫人が付き添っていた。
「ヘイゼルさん。お久しぶりです。
初めまして、夫人。グラント・ルースです」
グラントは膝を折って挨拶する。
「ご夫妻も宴会に出るのですか? 見知った顔がいてほっとしました」
「いや、我々は舞踏会からなんだが、早めに来て人と話すんだよ」
残念そうな顔をしてヘイゼルは言った。
それから、グラントの近くに控えているエルネストとトーニャを見る。
グラントと色違いの制服を身につけたエルネストは端正な立ち姿で夫妻を見返した。
トーニャはケリーとお揃いのドレスを着ている。
宝石を貼りつけ、光沢の出る糸で刺繍された華やかな服だった。
こちらに来てから婦人三人で作ったと胸を張っていた服だ。
「彼らはわたしの護衛です。ラグラスのエルネストとトーニャ。
ヘイゼルさんは都の石油商だよ。春に行商に連れて行ってもらった」
それからもお世話になっている。
ポーターは早く彼と話がしたそうだ。
「我が主へのご厚情に感謝致します。
ラグラスが協力できることがあればご相談ください」
エスネストに合わせてトーニャも頭を下げる。
「ゾベルは船に乗ってますか」
字を書くのが得意ではない彼は、あまり連絡をくれなかった。
仕事のついでに近くを通った時には挨拶をしていく。
グラントは不在のことも多く、人づてに仕事に励んでいることは聞いていた。
「今は貿易隊について行ってるよ。
自分の商いが難しいらしくて、苦労してる。
……ああ、こんな普通の口を聞いてしまったけれど、グラントはもはや辺境伯だ。
敬意を」
「不要です」
気づいて慌てるそぶりをしたヘイゼルを制す。
「辺境伯は、たまたま授かったようなものなのです。
わたしは変わらず魔法使いのグラントですよ」
「そう言ってもらえると、ほっとするね」
ヘイゼルは他にも顔見知りを見つけてそちらへ手をあげた。
「明くる月に最後の行商へ出る。その時に本当にラグラスへ寄りたい。
どうかな。戦場になったと聞いているが、滞在しても構わないかい?」
「是非に。立ち寄ってくださるのは嬉しいです」
「……もしかしたら、商談もしていいかい?
冬の間、港が凍らない場所に掘り出した石油を貯めておけないかと。
まあ色々考えているんだよ。
ラグラスには手数料が入るから、いい話だと思うんだが……。また後で話そう」
ヘイゼルは他の豪商のところへ歩いて行く。
こうやって過ごしていたら一刻だってあっという間だ。
グラントは出だしから渇いてしまった喉に触れる。
「もう気疲れしたのかな? グラント」
魔物の声にうっそりした視線を流した。
ふわふわの正装をしたアッシャー侯爵が笑っている。
従者たちも美しく様相が整っていて思わず見惚れる人間も多かった。
「ラグラス辺境伯、就任おめでとう。
お祝いはまた改めてしようね」
親戚のおじさんはかまう理由を見つけて楽しそうである。
「魔物を三人も引き連れて、すっかり主だ」
三人、……魔王のことか。
グラントはこの侯爵の前では途端に不機嫌になるケープの裾をつまんだ。
「閣下にはめられてなってしまったんですよ。
あまりに良い内容の推薦をいただきました。
嘘や誇張だって暴かれないか心配してます」
「私の推薦なんて大した力もない。
きっとダヴィ殿下の言葉が大きかった。……つまり、シェリー殿下がグラントを推したんだ」
「あの二人はもうそんなに親しいのですか」
手紙を一度やりとりしたと言っていた。
「今日は直接聞けるんだ。先入観なしで当たっておいで」
そんなアッシャーを、ラグラスの魔物は歓迎しない様子で見ている。
グラントは気になって首を傾けた。
「もしかして、二人は閣下を見知っている?」
「閣下、きちんとした自己紹介もなさってないのかしら」
切り込むように言ってのけたのはトーニャである。
デラニーの従者たちが緊張した。
「面倒くさくて省いたこともあるけれど、ちゃんと名乗ったよ」
日の色の髪の下、緑がかった瞳が人魚を見て笑う。
その眼差しは剣呑で、魔王は嬉々としてはためいた。
揉め事を歓迎するな。
グラントはぎゅうっと首元を握る。
「トーニャ、彼がこの国で貴族となったのは偶然だ。
我々はもう双方ともこの国の臣民だぞ。きちんと従うんだ。
今のところ、グラントの敵ではない。それでいいだろう」
アッシャーが視線だけエルネストに向けた。
「深慮いたみいる。これからもよろしく」
魔物同士。
ただの魔物ではない。
この三人が暴れたらきっと国は滅ぶ。
「ところで閣下、なんの魔物なんですか?」
グラントが子どものような質問をした。
トーニャの目が、ほら。と言っている。
「王宮に入ったらすぐに分かるよ。
私が城のあかりを贈呈した」
デラニー公は従者を連れて上がっていった。
王宮内に入ってくる馬車は、伯爵家のものが増えてきた。
そろそろパートナーを迎えにいく者も出てくる。
ジョニール公はグラントの近くでわざわざ車を止めた。
娘のキアを伴っている。
後で彼女と踊ってくれるよう頼まれた。
リケ公の一家もグラントに声をかけてから王宮へ入る。
子どもの頃からおつかいに行っていた領主たちはグラントに手を挙げて通り過ぎた。
ラグラスってどこなの? ノルトエーデじゃないのか?
通り過ぎざまにそういう質問が多かった。
ずっと最後の方にユーリー家の馬車が入る。
出だしから不機嫌そうな顔をしていたレイが、グラントを見つけると馬車を下りた。
「人見知りか?」
随分な確認をしてくる。
「中に入る時機が分かんなかったかもしれないな」
「行くぞ。もう始まる」
レイは早足でグラントを押した。
クイルの服を着ている。
うっそりした顔でグラントは押されて歩いた。
「……先に行って。わたしは、…」
馬車道の終点まできたところでレイに言う。
後ろを振り返った。
馬車が一台来るところで、宴会に招かれているのはそれで最後のようだ。
「ノルトエーデ公」
旗を確認して、王宮の従者たちが礼をする。
「じじい、遅い。背中が痛むの?」
扉が開いたところで声をかけた。
コーマックの軍服姿はこういう時くらいしか見られない。
何個あるっていうくらいの勲章も、普段は箱の中に放り込まれていた。
「……グラント」
何かまた偏屈を言いかけたコーマックが口を閉じた。
制服を着たグラントを初めて見る。
袖口の紋章は彼の家のもので、二十年ぶりに公に復活した。
祖父と見分けるために外縁紋が異なっている。
豆粒みたいに見えた最初の姿が浮かんで、老いた自分に笑った。
「何してる。殿下は? 遅れるぞ、早く行け」
「じじいを下ろしたら行く」
杖を受け取って手を貸す。
地面に足がついたのを確認してから小声で何か伝えた。
「では、行ってくる。もう中でじじいとは話せないかもしれないね。
無理せず辛くなったらとっとと帰れ」
杖を握らせるとレイと一緒に王宮へ入っていく。
「じいさん、進んで。つっかえてる」
後ろからジェロディがせっついた。
コーマックの場合、薬当番も連れてきているのでちょっと人数が多い。
初めての任務で緊張しているエムリンがジェロディの背中にぶつかる。
「何だ、何か嬉しいこと言われた?」
「寿命が訪れそうだ。グラントが礼を言った」
ぼそっとコーマックが言った。
ジェロディはへえ、と応えてその傍を通り抜ける。
「まあまあ、あんまり気を緩ませないでほしいんだよな」
今にも魔法を繰り出しそうな構えでジェロディはコーマックを促した。
「いくぞ、巣窟へ」
「そうだな」
ここは出発点。
自分たちも巻き込まれた企みの。
グラントが関わることになった謀りの、始まりだ。
廊下に立つケイレブは目立つ。
腕の太さだけで彼だってわかった。
初めて見る紋章の護衛の服を着ている。
「誰の護衛? レイではないんだ」
「レイに護衛はいらないだろうな」
そういえば馬車に乗っていたのは剣を預かる従者が一人だった。
「宴会の後で話す時間もあるだろう。グラントはシェリー殿下を待たせるな」
「うん」
バレットの従者に杖とケープを預けて応接間に入る。
ケリーとアリアと話しながら待っているシェリーを見つけた。
「お迎えに参りました」
声をかけると、むう、と口を尖らせたアリアが文句を言う。
「お待たせししすぎです」
「先生、ドレスどうですか? いいでしょう? いいですよね」
いい、以外の回答は認められない雰囲気だ。
シェリーのドレスを大絶賛する警護の者は、主人が立ち上がるのを助ける。
ずれたところがないか素早く確認した。
「いいね」
グラントが吹き出しかけるのをひっこめて言う。
上衣には金の絹糸で紋章が刺繍してあった。
花を模っている。外縁の刺繍は波のよう。
モスはブローチにしてもらっている。
シェリーはグラントの手を丁寧に取って歩き出した。
「今日、もしどんな決定がなされたとしても」
足元を確かめて廊下を進む。
シェリーは傍らの魔法使いの手をしっかり握った。
「どうなったとしても、グラントは私の友だちでいてくれますか」
緊張した声にグラントは当然だと答える。
「わたしは貴族でも平民でもないシェリーと友だちになったんだよ。
爵位も玉座も関係ない」
黒地に金色の絹を纏ったシェリーを見つめた。
グラントの杖のような装いのシェリーを。
「今日ここにいるのは、殿下のためじゃない。
友だちに寄り添うと決めてきた。心配いらない」
グラントが笑ったのがわかって、シェリーは頬を緩める。
「ありがとう。元気が出た」
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