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Allied Forces
本の虫同盟
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舞踏会のために公開された区域を越えて、ダヴィは城の少し奥へ誘った。
20年以上前と変わらない構造にグラントは驚く。
「私の執務室がここ」
そう言って開けてくれた部屋は、執務室というか
「立派な図書室だよ、シェリー」
一気にグラントの瞳が輝いた。
「帰ったら見せてあげるね。とても綺麗だ」
執務室は所有者の趣味が表れる。
ラグラスやノルトエーデは武器が飾ってあった。
アッシャーの執務室は絵画が多い。
ここは大切に本が飾られていた。
壁にかけられているのは手紙である。
調度品は色のついた木材でできていて、落ち着いているが華やかだ。
暖炉やストーブのほかにベッドもある。
急に体調を崩した時に使うのか。
立派な机の上は書類が何枚かあるだけで整頓されていた。
「執務室は立派なのだけれど、私のやっている仕事は主に一つだけ。
都の図書館を運営している」
暖炉の近くに椅子を並べさせて、ダヴィが言う。
「5階建で、今のところ貴族しか入れない。
会員制なんだ。季節ごとに子どもたちとおはなし会をしたりするよ」
楽しみな行事なのだ。
顔つきが明るかった。
「図書はいつ頃館に入りきらなくなったのですか?」
シェリーを椅子に座らせながらグラントが聞いた。
彼女は訝しげにグラントを見る。ダヴィはそんな彼女に教えた。
「初めは自分の館に詰め込んでいた本が収納に困ることになって。
それで父王の援助で図書館を建てたんだよ。二十歳の春にはもう家人が悲鳴をあげた」
椅子に座ったダヴィは、膝掛けを受け取ると不思議そうな顔をする。
「コーマックかい? 彼がそんな些細なことまで覚えているとは。
私は当時玉座になんて届かないはずの人間で、彼は次の王と目されたホルスト殿下についていた」
その人は去年の秋の終わりに亡くなっていたそうだ。
追うようにその子息も息を引き取った。
すでに埋葬を済ませている。
公爵位を継いでいる孫のウィラード卿が今日欠席だ。
「じじいがホルスト殿下……」
「知らなかった?」
呆然と繰り返すグラントに、まあお座りと椅子を進める。
「将は最後、ホルスト殿下のことを守れなかったと思っているからね。
子どもには話せなかったのかもしれないよ」
陰謀に負けて外へ追われたのではと、今でも噂のある王族だ。
コーマックは失敗してむざむざ帰らない。
そんな気がした。
座り心地のいい椅子が逆にしっくりこなくて、グラントは落ち着かない鳩尾を押さえる。
「王宮の昔話はあまり楽しくないんだ。
戦争をやめるまで、陰鬱なことの絶えない空間だったから」
ダヴィはそして一枚の設計図を広げた。
「月が明けたらまたおはなし会を開くんだけど、二人とも子どもは好き?
簡単な行事なんだが参加してみないか?」
二階はイベントを行うホールがいくつかある構造である。
そのひとつをダヴィは指した。
「この部屋で一人ずつクッションをあてがってね。
題目を決めて、それに沿った知ってる話をするんだ。
次の会は不思議な話や、怖い話だ。
貴族の子どもだからって、平民の子たちと何も変わりはないよ。
傍若無人で、きかんぼうで。ちょっとくらい雑に扱うのがちょうどいい。
子どもの数は八人だ。それ以上は見張っておくのが大変」
ダヴィは未婚だ。
病気がちだから遠慮したんだと市場の奥様がたの推論だ。
グラントはそれを支持しようと思った。きっとそう。
図書館を通じてたくさんの子どもを育てている。
「シェリー、大きな図書館だよ。石造りの立派な建物だ」
今は見せることができない。
グラントは図面を説明した。
「一階は貸出庫で、物語の書架が一番広い。旅行記もあるよ。
大きな螺旋階段で上がっていくんだ。
径の広い階段だ。二階には読書机やホールがある。
お話し会は二階のホールでするんだ。きっとシェリーにも歩きやすい階段だよ。
段が浅く、手すりもある。
三階は歴史や軍略、兵器の本だ。四階は薬学や医学。五階は王室史が多い。
図書館の隣には、……薬草園」
驚いてダヴィを見た。
公園並みの面積を持つ薬草園がある。
笑顔で頷いていたシェリーが、寸の間息を詰めるグラントに気づいた。
手に入る全ての薬草があるのではないか。
温室になっている部分や、乾燥した土地に似せた部分もある。
「すごい薬草の量だろう? 一般には公開できない植物もあるよ」
ウーシーに見せたら侵入しそう。
「私がこんなに病を得やすい訳を、父王はずっと求めていてね。
城の魔法使いや呪術を専門にする人間にも何度も相談したんだ。
だけどやっぱり生まれもったものだろうと言うんだよ。
それでも父は諦めきれなかった。時代が時代だから資金はかけられなかったけれど。
出征のたびに集め始めたのがきっかけで、今では公園ができるほどの量になっている」
ダヴィは王の親バカを可笑しそうに、申し訳なさそうに笑った。
「まだこんな話をするのは早いのだけど、シェリー。
頭の隅に置いておいてほしいことがある」
笑みを少し引っこめてダヴィが言う。
「私の代わりに、この図書館の運営をしてくれないか?
半分も手伝ってくれたら、体もずいぶん楽になる。
手紙の文面で分かるよ。君は本当に本が好きだ。
一度ゆっくり一日見てまわってから返事をくれ。
自分で運営するかもと思ったら見方も違うだろう。
ラグラス公も是非。図書館は魔法使いも杖を持って歩いてかまわないよ」
二人の顔に赤みが広がっていった。
五階建の図書館に一日。
きっとあっという間だ。
「グラントがラグラスへ帰る前に、ぜひ伺います」
「私に断りはいらないからね。きっと待ち合わせても体調を崩している」
それでも一応は手紙を書くだろうな。
グラントはシェリーの顔を見た。
この関係をなんというんだろう。
知らないうちに、シェリーもグラントも第二王子の冷遇から守ってもらっている。
ダヴィは病がちで儚いというイメージがついてしまっているが。
きっとこの方は優しいばかりではない。
体の許す限り王族としての務めを全うし、抗えないものと戦っている。
シェリーもグラントも同志だと思ってくれているのだ。
「同盟みたい」
グラントが小さく呟いた。
ダヴィがそれに反応して二人の手を取る。
「いいね、同盟。
図書館の運営はもしかしたらなくとも。今後も話したい。
本好き同士同盟しよう」
きゅっとまとめてくれたその手のひらは、もう熱くなっていた。
20年以上前と変わらない構造にグラントは驚く。
「私の執務室がここ」
そう言って開けてくれた部屋は、執務室というか
「立派な図書室だよ、シェリー」
一気にグラントの瞳が輝いた。
「帰ったら見せてあげるね。とても綺麗だ」
執務室は所有者の趣味が表れる。
ラグラスやノルトエーデは武器が飾ってあった。
アッシャーの執務室は絵画が多い。
ここは大切に本が飾られていた。
壁にかけられているのは手紙である。
調度品は色のついた木材でできていて、落ち着いているが華やかだ。
暖炉やストーブのほかにベッドもある。
急に体調を崩した時に使うのか。
立派な机の上は書類が何枚かあるだけで整頓されていた。
「執務室は立派なのだけれど、私のやっている仕事は主に一つだけ。
都の図書館を運営している」
暖炉の近くに椅子を並べさせて、ダヴィが言う。
「5階建で、今のところ貴族しか入れない。
会員制なんだ。季節ごとに子どもたちとおはなし会をしたりするよ」
楽しみな行事なのだ。
顔つきが明るかった。
「図書はいつ頃館に入りきらなくなったのですか?」
シェリーを椅子に座らせながらグラントが聞いた。
彼女は訝しげにグラントを見る。ダヴィはそんな彼女に教えた。
「初めは自分の館に詰め込んでいた本が収納に困ることになって。
それで父王の援助で図書館を建てたんだよ。二十歳の春にはもう家人が悲鳴をあげた」
椅子に座ったダヴィは、膝掛けを受け取ると不思議そうな顔をする。
「コーマックかい? 彼がそんな些細なことまで覚えているとは。
私は当時玉座になんて届かないはずの人間で、彼は次の王と目されたホルスト殿下についていた」
その人は去年の秋の終わりに亡くなっていたそうだ。
追うようにその子息も息を引き取った。
すでに埋葬を済ませている。
公爵位を継いでいる孫のウィラード卿が今日欠席だ。
「じじいがホルスト殿下……」
「知らなかった?」
呆然と繰り返すグラントに、まあお座りと椅子を進める。
「将は最後、ホルスト殿下のことを守れなかったと思っているからね。
子どもには話せなかったのかもしれないよ」
陰謀に負けて外へ追われたのではと、今でも噂のある王族だ。
コーマックは失敗してむざむざ帰らない。
そんな気がした。
座り心地のいい椅子が逆にしっくりこなくて、グラントは落ち着かない鳩尾を押さえる。
「王宮の昔話はあまり楽しくないんだ。
戦争をやめるまで、陰鬱なことの絶えない空間だったから」
ダヴィはそして一枚の設計図を広げた。
「月が明けたらまたおはなし会を開くんだけど、二人とも子どもは好き?
簡単な行事なんだが参加してみないか?」
二階はイベントを行うホールがいくつかある構造である。
そのひとつをダヴィは指した。
「この部屋で一人ずつクッションをあてがってね。
題目を決めて、それに沿った知ってる話をするんだ。
次の会は不思議な話や、怖い話だ。
貴族の子どもだからって、平民の子たちと何も変わりはないよ。
傍若無人で、きかんぼうで。ちょっとくらい雑に扱うのがちょうどいい。
子どもの数は八人だ。それ以上は見張っておくのが大変」
ダヴィは未婚だ。
病気がちだから遠慮したんだと市場の奥様がたの推論だ。
グラントはそれを支持しようと思った。きっとそう。
図書館を通じてたくさんの子どもを育てている。
「シェリー、大きな図書館だよ。石造りの立派な建物だ」
今は見せることができない。
グラントは図面を説明した。
「一階は貸出庫で、物語の書架が一番広い。旅行記もあるよ。
大きな螺旋階段で上がっていくんだ。
径の広い階段だ。二階には読書机やホールがある。
お話し会は二階のホールでするんだ。きっとシェリーにも歩きやすい階段だよ。
段が浅く、手すりもある。
三階は歴史や軍略、兵器の本だ。四階は薬学や医学。五階は王室史が多い。
図書館の隣には、……薬草園」
驚いてダヴィを見た。
公園並みの面積を持つ薬草園がある。
笑顔で頷いていたシェリーが、寸の間息を詰めるグラントに気づいた。
手に入る全ての薬草があるのではないか。
温室になっている部分や、乾燥した土地に似せた部分もある。
「すごい薬草の量だろう? 一般には公開できない植物もあるよ」
ウーシーに見せたら侵入しそう。
「私がこんなに病を得やすい訳を、父王はずっと求めていてね。
城の魔法使いや呪術を専門にする人間にも何度も相談したんだ。
だけどやっぱり生まれもったものだろうと言うんだよ。
それでも父は諦めきれなかった。時代が時代だから資金はかけられなかったけれど。
出征のたびに集め始めたのがきっかけで、今では公園ができるほどの量になっている」
ダヴィは王の親バカを可笑しそうに、申し訳なさそうに笑った。
「まだこんな話をするのは早いのだけど、シェリー。
頭の隅に置いておいてほしいことがある」
笑みを少し引っこめてダヴィが言う。
「私の代わりに、この図書館の運営をしてくれないか?
半分も手伝ってくれたら、体もずいぶん楽になる。
手紙の文面で分かるよ。君は本当に本が好きだ。
一度ゆっくり一日見てまわってから返事をくれ。
自分で運営するかもと思ったら見方も違うだろう。
ラグラス公も是非。図書館は魔法使いも杖を持って歩いてかまわないよ」
二人の顔に赤みが広がっていった。
五階建の図書館に一日。
きっとあっという間だ。
「グラントがラグラスへ帰る前に、ぜひ伺います」
「私に断りはいらないからね。きっと待ち合わせても体調を崩している」
それでも一応は手紙を書くだろうな。
グラントはシェリーの顔を見た。
この関係をなんというんだろう。
知らないうちに、シェリーもグラントも第二王子の冷遇から守ってもらっている。
ダヴィは病がちで儚いというイメージがついてしまっているが。
きっとこの方は優しいばかりではない。
体の許す限り王族としての務めを全うし、抗えないものと戦っている。
シェリーもグラントも同志だと思ってくれているのだ。
「同盟みたい」
グラントが小さく呟いた。
ダヴィがそれに反応して二人の手を取る。
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【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
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