ただの魔法使いです

端木 子恭

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Allied Forces

コーマック福祉院

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 人の多い廊下に戻ると、すぐにポーターが駆け寄ってきた。

「グラント、ちょっとよろしいですか。
 シェリー殿下も一緒に聞いていただいても平気です。
 小部屋に行きましょうか」
「私はケリーのところへ」

 シェリーがそういうので、グラントはトーニャに彼女を預ける。

 窓の下には馬車が寄せられていた。
 豪華な馬車である。ダヴィのものだろう。

「ヘイゼルさんとのお話の件です。
 油井のあたりは雪が積もるのが都よりひと月ばかり遅いようです。
 ラグラスでは冬、何をしていますか? 人足を出せますか?」
「冬は炭焼きをする。ラーポに相談しよう」
「少し遅くなっても構いません。ラグラスには魔物の力があります。
 再来月にはグラントも向こうへ戻らねばなりませんし。
 戦力は十分でしょう」

 仕事が待っている。
 グラントは手入れのされていない冬の森の苦難を思った。

「ポーターはラグラスをまだ直接見ていないね。
 海砦には隣国からの移住者が多くいる。街並みは外国みたいになってるんだ。 
 ヘイゼルさんが立ち寄る前に一度見に行ったほうがいいかな」
「そうですね……」

 納税の時期を前に激務の会計は苦悶の表情を見せる。

「行きますか」

 今後のことを考えて、一度行くべきと判断した。
 船に仕事を乗せればいいし、助手だって何人かいる。
 きっと大丈夫。

「それと、福祉院の運営方法が決まりました。
 春までは寄付で賄えます。先ほどコーマック卿よりいただきました」
「は……?」

 じじいが、どうして。

「船を一隻売った利益をそのままお寄せくださったのです。
 一部運用に回して福祉院の運営にあてていきます」
「ラグラスからの支払いを福祉院に?」

 結局ただでもらったも同然になってしまった。

「それでですね。福祉院の名前なんですが、卿の名を冠してはいかがでしょうか」
「コーマック? 福祉院?」

 じじいは嫌がるなあ。
 嫌がるならいいか。

「分かったよ。それで」

 グラントはコーマックのところに集まるシェリーたちを見やった。



 
 エムリンが、この舞踏会後のコーマックの帰還についてノルトエーデに行く。
 
 グラントと色違いの兵団の制服を着用する若い剣士を、ケリーは誇らしそうに紹介した。

「すごいことですよ。 
 モグリだらけのシュトラールに正式な騎士が!
 来年の秋にはいるんです。……ちゃんと帰ってきてくれれば」

 現実を見すぎた16歳は最後、予防線をしっかりとはる。
 シェリーはにこにこしてそれを見ていた。

「ノルトエーデに様子を見に行きたいですね。
 よろしいですか、公」

 ご近所のコーマックに尋ねると、彼は頷く。

「冬は海賊も少ない。ぜひいらっしゃるといい、殿下」
「ケイレブ様は優しそうな方ですもの。きっとエムリンは大丈夫です。
 先生はコーマック様が必ず無茶をさせると確信していますが。
 そんなことしませんよねえ?」

 ケリーの言葉に、従騎士の顔には心配そうな色がのぞいた。

「たとえばどんな無茶を心配されてるの?」
「ええとね……」

 顎に指をかけてケリーは思案顔をする。

「いきなりエムリンにぽんと二百人ばかり預けて海賊潰してこいとか。
 突然演習について行けとか言って船で何日もこがなきゃ着かない島に出されるとか。
 結構大変なのがトド撃ちと、熊狩りだって言ってたよ」
「トドって、人の何倍も体が大きい、あの動物?」

 一応確認に入っている。

「そう。商業目的でアザラシ猟が本当はしたいんだけど。
 いきなりアザラシ狙うと高確率でトドとの奪い合いになっちゃうんだって。
 それを防ぐために先にトドの数を減らすって。
 そうですよね、コーマック様」
 
 肯定するじじいの顔を、エムリンはヒいて見た。

「グラントには30頭と言ったが、もうそんなことは言ってない。
 1~2頭で帰ってくるようにしている。人間を嫌がってくれればいいからな」
「グラントにはどうしてそんな無茶を?」

 恐る恐る質問したエムリンに、じじいは言ってのけた。

「長子には加減がわからないものだろう」

 グラントが聞いたらきっと静かに猛抗議する。

「グラントが領地を継がないことになってしまったからですか?
 ケイレブを研修という形で受け入れるのは」

 シェリーが聞いた。

「そうです。私は年々体が動かしにくくなっている。
 早く隠居したいのです」

 隠居という言葉が全くしっくりこない迫力ある顔をしている。

「北の辺境領は陸からも海からも侵入されやすい。
 自然災害も多い土地なので、まず赴任に賛成してくれる家がない。
 ケイレブはその点、周りの人間が積極的でした」

 ちょうどリゼットとケイレブは何やらまた言い合いながら踊っていた。
 レイは親世代の男性と話している。

「ケイレブは誰とでもすぐ打ち解ける。
 力も強い。隊を扱える。北の兵士ともうまくやれるでしょう」

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